林檎に牙を:全5種類
グッバイブルーバード

僕らはみんな鳥籠の中。
窮屈な時もあるけど、居心地は悪くなかった頃。


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2016.09.28 
林檎に牙を:全5種類
ふとした瞬間、人はノスタルジーに浸ってしまう。
時に否応なく落ちるように。

普段は忘れていても自身の知覚から揺り起こされるのだ。
特定の場所や音楽、匂いに食べ物など。
そこに纏わるエピソードを。
こうした記憶こそが"自分"を形作ってきた物なのだから。




ハーブティーの湯気を顔に浴びて、呼び覚まされる情景。
和磨は一瞬だけトリップした。

お化け屋敷に似た喫茶店。
冬の午後、窓ガラスを叩く雨のリズム。
あの時テーブル越しに向かい合っていた相手までも。

いいや違う、あれは既に過ぎ去った日だ。

飽くまでも軽く首を振れば、たちまち現在に戻る。
まるで浅い夢から覚める時のような。
ミントとローズのハーブティーは甘く匂いを立てていた。
桃色のカップをなみなみと満たして。

此処は紅玉街ではない。
田舎の匂いが遠い、故郷から離れたマンション。


和磨が中学三年生になる前、巽家は揃ってヨーロッパへ飛んだ。
親の仕事によっては何年になるか分からないまま。
元々、母がイギリス人とのハーフなので縁は浅からない。

体調を崩して和磨だけ日本に戻る事になったものの。
療養期間くらいは紅玉街で過ごしたが、それももう何年も前になる。
実家だったマンションは引き払ったので自由の身。
思い切って、もう少し都会の方へ一人で来た。


一年遅れでも高校に進学した。
学ランは中学校と同じような物だが、色々と変わる。

あの頃から伸び始めた身長は180㎝を超えた。
金だった髪も成長と共に色味が落ち着いて、今やハニーブラウン。
ただ、詰襟もシャツも緩める癖は相変わらず。

物思いに耽って髪を弄ると、隠れていた小さな光が覗いた。
片耳ずつ金属の塊と、緑色をしたガラス玉のピアス。


それから、何よりも現状そのもの。

和磨がハーブティーで一息つく横、脚を崩す少年が二人。
テーブルの上にカップは3つあった。
大人びた黒髪と幼さを残した栗毛、どちらも冷たい金色の目。
高校二年生、18歳の和磨は彼ら双子と同棲していた。

海外に行っても細く長くと続いていた彼女が居たのに。
別れの決定打は、双子と出逢った事である。

黒髪の兄に惹かれたのが始まり。
想いに苦しんでいた時、栗毛の弟から「三人でなら」と条件を出された。
悪魔の囁きとしか思えない誘惑。
頑なに"恋人"と認めない二人からペット扱いされながら、日々は過ぎる。


同性に恋をするなんて中学生の和磨なら想像もしていなかった。

兆候があったとすれば。
そう呼べるものがあるとするなら、思い出す顔は一人だけ。


和磨が日本に帰った頃、進之介はもう紅玉街に居なかった。
転勤族の家なので不思議はない。
海外へ行く前に携帯を解約したので、番号だって残っていない。
消えたのだ、跡形もなしに。

和磨に残ったのは不明瞭な感情だけ。
取っておいたものには、未だに名前を付けず。

だって、きっと困らせてしまうから。


ハーブティーの甘さに浸っていたら、不意に刺さる視線。
金色の目は自己主張が強い。
「此方を見ろ」と、言葉など要らずに。

魅入られた和磨の身は逆らえない。
今からどれだけ酷い事をされても、悦ぶだけ。

部屋に香りだけ満たして、カップは冷めていく。



青い鳥は幸福の証。
探している時には見えなくとも、本当は身近な存在だと云う。

羽を育てていた籠を途中で抜け出して、遠い空を知った。
そのまま自由になれたのに。
自らの意志を持って、閉じ込められた。
双子が抱える鳥籠の中で羽を抜かれてしまったから。


もう小鳥は戻らない。
苦いくらいの青い時代に「さらば」と告げて。


*end


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2016.09.27 
林檎に牙を:全5種類
雪に変わらないまま雨は止んで、灰色の空に桜。
今年もまた三年生を送る春がやってきた。


卒業式と云うのはどうにも退屈である。
当人達ですらやる気が無さそうなので、在校生なら尚更。
練習ならば数日前から嫌と云うほど重ねて来たのだ。
クラスごとに群れを成して、移動や起立着席。

ただでさえ長身の和磨にパイプ椅子は少し居心地が悪いのだ。
欠伸を噛み殺しながら話を聞き流し、誰かの涙も他人事。

和磨が出席する卒業式だって、此れが最後でも。



式を終えた校内では、それぞれ卒業生が最後の挨拶を交わしている。
別れに酔っているようなドラマチックな場面があちこちで。
しかし、和磨にはやはり関係無し。
何処かで時間を潰そうとしていたのだが、そうもいかず。

「おォ、ズマ居た居た。」
「どうも。」

背後からの一声、一ノ助と遼二に捕まった。
学校で慣れ親しんだ顔も見納め。
そうだ、確かに三年生で交流があるのは彼らくらいか。


「卒業おめでと、飴でもあげようか?」

曇っていようと二人にとってはハレの日。
祝う言葉や方法なんて他に幾らでもあるが、こんなものである。
花なんて持ってないし、贈っても意味は無い。
食べる事が好きな二人なら飴玉の方がよっぽど喜ぶだろう。

煙草代わりに持ち歩いている飴の袋。
分けて食べるようにと、適当に一掴み取り出して渡す。
一つずつと言わない辺り今日はサービス。

そうして、嬉しそうに手を伸ばしてくる様は子供。
身体ばかりが大きくなっても。


「飴も良いんだけどよォ、ズマも折角だし何か書いてくんねェ?」

ストロベリーの粒で頬を膨らませながら、ふと一ノ助が切り出す。
何の事かなんて決まっていた。
和磨を呼び止めたのだって、最初からそれが目的だったのだろう。

小脇に抱えられていたサイン帳1冊。
開いて見せられれば、無数のメッセージと名前。


「今日で別れでもないでしょ、僕ら同じマンションだもん。」
「でもよォ、来月にはお前も引っ越すじゃねェか。」

和磨にも寄せ書きを頼んだのは、そう云う事だ。

もうじき和磨も学校から、街から、居なくなる。
よくある親の都合による引っ越し。
深刻に構えてもいないが、寂しくないと言えば嘘になる。
こんなにも居心地が良い場所は他にないのに。


「……ペン貸して。」

一ノ助とはもう少しだけ共に居られる。
しかし、別れはすぐそこ。
のらくらと断る事も出来たが、ペンを握ったのは覚悟も込めて。

インクの先が紙の上で踊る。


「おォ、カッケェ!」
「これは、ちょっと……恥ずかしい思い出になるかもしれませんよ?」
「そうだねぇ、でももう僕の目に触れる訳じゃないしさ。」

くだらない事で笑い合って、ページを閉じた。
黒い制服の下で羽を育てた鳥籠。
未熟であろうとなかろうと、羽ばたく時まで間もなく。

別れを惜しむメッセージの羅列。
新たに刻まれたのは、「I'll be back」の文字。



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2016.09.22 
林檎に牙を:全5種類
温度調節された図書室はどの季節でも居心地が良い。
今日ばかりは閉じこもる訳に行かず、主も本の世界に鍵を掛けた。
外へと出れば、現実の肌寒さに包まれる。
薄曇りの冷たい風に踊る桜。

両手で覆った口許から、仄かに白い吐息。
昨日の水溜りにも構わず軽海は花吹雪の中を行く。


厳かな式を終えれば、皆それぞれの形で「さよなら」を口にする。
小奇麗で淑やかな雰囲気の軽海は生徒から人気があった。
卒業式になると、記念に写真や握手を求められる。
それは今年も同じく。

実のところ、昔から春はあまり好きでないのだが。
別に花粉症でもないのに。
訳もなしに、何となく不安になる季節。


とは云え、めでたい日に水を差すような野暮はしない。
写真も握手も快く応じて卒業生を送り出す。
そうこうしているうちに、また一組が軽海に寄って来た。
来ると思っていた、見慣れた顔。

「卒業おめでとうございます、望月君、芹沢君。」

恭しく会釈すれば、青葉も忠臣も丁寧に返した。
一歩大人になった顔つきで。


金色のボタンを失った学ランは、何だか物足りない印象。
上から下まで真っ黒の制服なので当然の話。
女子と違って、襟の白やスカーフの赤も無いのだし。

青葉に関しては、何とも言い難い恰好になってしまっている。
クラスの中心に居ただけあってか、シャツに至るまでボタンが無い。
前開きの服は留め金がないと全開になってしまう。
ウサギ耳のパーカーを着ているお陰で、その心配はないにしても。

「望月君、強盗にでも遭ったみたいですね。」
「来るもの拒まずでサービスしたら、こうなりまして。」
「こいつ上履きまであげてマシタよ、気前良い事で。」

笑う青葉に、嫌味を投げ掛ける忠臣。
図書室で三年間繰り広げられていた、こんな遣り取り。
見るのも今日で最後か。


一方の忠臣は足りないボタンなんて一つだけ。
卒業式の定番、上から二番目。
行く先なんて明かされなくとも軽海は知っている。
最近付き合い始めた彼女の手だと。

此ればかりは早い者勝ち。
一つしか無い物ならば、尚更。


「欲しい」と言えば良かったのに。

青葉を一瞥しつつ、軽海は胸の中だけで呟いた。
伏し目がちは相手に感情を読み取らせない。
それでも勘の良い大人は知っている。
第二ボタンが心臓ならば、誰よりも欲しがっていたのは彼だと。

伸ばされなかった青葉の手は固く握られたまま。
隣同士で居る為にと。


知っていても、軽海は何一つ動こうとなどしなかった。
寧ろ、してはいけないのだろう。
此れは彼らの問題である。

云うなれば、物語のようなものなのだ。
読み手に近い脇役が何か行動を起こすのは無粋。


「ねぇ軽海さん、折角だからジュースか何か奢ってよ。」
「そうデスね……寒いから何か温かい物欲しい。」
「駄目ですよ、君達だけ特別扱いする訳にいきませんから。」

最後のページまであと少し。
緩やかに終わる物語へ、軽海は傍観者の顔で微笑んだ。



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2016.09.17 
林檎に牙を:全5種類
片目で覗き込んだ春は歓喜と悲しみに染まっていた。
ファインダー越し、見慣れた校舎もクラスメイトも特別な色。
指先一つで止まる時間を刻み付ける。

終わりゆく小さな世界を残す為。


卒業式の日は朝から慌ただしかった。
厳かな式こそあれども、皆それぞれ騒々しく別れを惜しむ。
結局はイベント事。
涙を滲ませる形で中学校最後の祭りを愉しむのだ。

デジカメを持参した理佐はカメラマンとして活躍していた。
幾つもの笑顔に向けてシャッターを切る。
別れる友にも、まだ道を同じくする友にも等しく。


カメラ機能なんて携帯にも付いているのだ。
ただの写真なら、わざわざ頼まなくても自分で撮れるだろうに。

それでも、カメラを前にすると皆ポーズを決めたがる。
浮かれた勢いとでも言うべきか。
来月からの不安もあるのだ、今日くらいは良いだろう。

そして、いつもは素直になれない者にも良い機会。


「撮ってあげるって言ってるのに。」
「恩着せがましいよ。」

カメラを前に呟けば、嵐山の棘が飛んで来る。
めでたい日だと云うのに顰め面。


窓辺に桜が咲き零れる空き教室での会話。
目の前には嵐山と兄、此処に居るのは三人だけだった。
関係が周囲に明かされる心配なんて無い。
そもそも人前であろうと、写真くらいで誰も疑わないだろうに。

慣れていたので、こんな程度では別にダメージなんて受けていない。
あれから何かと嵐山とも話す機会が増えていたのだ。
いい加減、理佐も彼の扱いを分かっていた頃。


最初からただの提案なのだ。
写真が嫌いな人も居るので強制するのは間違いか。

それに、恋人同士の時間に理佐は余所者であろう。
嵐山からすれば二人きりでゆっくり過ごしたいのかもしれない。
尻尾に似た髪を翻して「お邪魔しました」と去ろうとすれば。


「俺は欲しいけどな、ユウとの写真。」

ふと、今まで無言だった兄に引き留められる。

ああ、空気が変わった。
色白の嵐山は染まると薔薇が咲くようになる。

「……一枚だけなら。」


斯くして桜を背にした、最後の学ラン姿が並ぶ。
笑わない彼らはぎこちない顔。
こんな時すら無表情の兄と、口許を引き結んだ硬い嵐山。

第三者からすれば、ただの写真。
此の場に居る者だけが知っていれば良いのだ。
写らなかった外、二人が指先を繋いでいた事なんて。
見ている方が恥ずかしい、まったく。


「キス写真とかは他所でやりなさいね。」
「やる訳あるか、ばーか。」
「そうだんべな……、実妹に撮られるのは流石にキツいべ。」

唇から滑る言葉は飽くまでも軽い。
カメラは下ろされて、それぞれ視線が交わる。

これにて理佐もお役御免。
まだ撮らねばならない事は残っているのだ。
たった一日では足りない程。
今度こそ友人達との和に戻ろうと、駆け出す準備。

そんな時、嵐山が一息吸った。
喉に詰まっていた誘いを吐き出す為。


「あのさ、今日は従兄と僕らで夕飯行くんだけど……お前も来る?」


幼い頃の小さな出逢いは時を経て果たされた。
今日去り行く、此の場所で。
繋がりは糸となって紡がれ、知り得なかったものにも結ばれる。

赤かろうと、なかろうと。



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2016.09.10