林檎に牙を:全5種類
「和磨の言う"可愛い"って、すっげぇ軽いよな。」

非難ではなく呆れの響き、横に立っていた進之介が声を零した。
学校帰りのショッピングモール、雑貨屋の店先で。
バッグチャームの青いウサギを棚に戻して、和磨は訝しんで首を傾げた。

何となく水を差された気分でも腹を立てる程の事でもない。
はて、口癖の自覚は無かったつもりだが。


「だって、此処来てからソレばっか言ってんじゃねぇか。服にも小物にも。」
「えっ?そうだけど、昕守君だって可愛い物好きでしょ。」

キャラ物はヒヨコ、私服でピンクのシャツを着る男子に言われたくない。

学ランにセーラー服、王林中学は皆一様に漆黒を纏う。
地味なのは悪い事とも言い切れずとも、あまりに味気なかった。
元から髪も眼も色素が薄い和磨は浮くくらい。
それならいっそ、好きなように可愛い物を身に着けた方が性に合っている。

一方、乱れ気味で重たげな髪に学ラン姿の進之介は真っ黒。
数える程度でも可愛い物を持つと却って映えた。


それとも、単に二人にとって「可愛い」の趣味が違うだけかもしれないが。
和磨の好みは淡いミントカラー、ウサギや犬の小動物全般。
進之介はどちらかと云えばカジュアルなピンクや黄色、モチーフなら鳥。

小さくても本物の肉食動物は苦手らしい。
モールに数ある入口の中、二人が足を踏み入れたのはペットショップの横から。
まず軽く犬や猫を見て行きたかったのに。
和磨は立ち止まろうとしたのだが、進之介に襟首を掴まれて叶わなかった。

曰く、進之介はどちらにもあまり良い思い出が無いそうだ。
威嚇されただけだったとしても、幼い子供には恐怖の象徴として刻まれる。

「可愛いのに?」
「可愛かろうと何だろうと、俺は自分に害のない物が好きなんだよ!」


進之介の力説は話半分で流しておいた。
それなら、無害の物に対して「可愛い」は構わないだろうに。

青いウサギのぬいぐるみを再び掴めば、和磨の手に馴染む柔らかさ。
そうして進之介の鼻先に突き出してみた。
綿の塊は掌に収まる大きさ、誰かを傷付ける爪も牙も無い。

「あのな、俺はそんな簡単に言わねぇだけだって。価値薄れる。」
「可愛いは挨拶代わりだよ。」
「女子かっ!」
「昕守君の方こそ突っ掛ったりしちゃって、僕の彼女じゃあるまいし。」

此れではまるで、他の女性に「可愛い」と言う彼氏に対して不機嫌になる現象。
その場合にしても思う事自体は罪じゃない。
わざわざ選りによって、彼女の前で口にした事が無神経。

「彼女」の単語を出した途端に、進之介も渋い顔に変わる。
和磨だって決して良い気分はしないのだ。
お断りなんてお互い様。
周囲には散々からかわれているのだ、冗談だろうと何だろうと御免。


「可愛い」の軽さに関しては確かに否めない。
それでも、まだ付け加える事ならある。

「あのさ、僕だって嘘では言ったりしないよ。」

小学生の時、服がいつもピンク尽くしだった女子が居たと思い出す。
可愛らしい子だったのでお姫様扱いされていたが、和磨は閉口していた。
ほぼ一色では甘ったるくて気持ち悪いくらい。
そんな率直な感想は呑み込みつつ、お世辞でも「可愛い」など言わなかった。

好きな物には素直でいる事が和磨の信条。
言葉にしなければ伝わらないのだ、それなら口を噤む事も返答。

「そりゃ意味が違うけど、僕はイノ君だって可愛いと思うし。」
「ジャイアンとか言ってたくせに……」
「昕守君もねー……、まぁ、可愛い感じの顔してると思うよ?」
「あぁ、そりゃどうも……男に言われたって嬉しくねぇって。」


折角褒めたのに、溜息を吐かれてしまった。
ナルシストの和磨自身も「可愛い」と言われ慣れている訳ではない。
故に、進之介の反応は理解出来るものの。

「何だよ和磨、お前の方が照れたみたいな反応して……キモイわ。」
「えー、だってさ、それって……」

逆さまに考えてみれば。

「僕が女の子だったら良かったのに、て言われてるみたい。」


制裁は拳骨などでなく、ウサギから。
進之介に奪われたふわふわの塊で和磨の口は塞がれる。
そうして、さっさと逃げられて置き去り。

いつもみたいに「阿呆」の一言で良いのに、何を動揺しているのだか。
残されてしまった和磨は肩を丸めつつレジへと向かう。
店先で騒いだ上、ウサギには唾液の水玉模様。
素知らぬ顔で逃げ去る訳に行かず、責任持って連れて帰らねば。

女の子だったら。

ぼんやりしていたとは云えども考えるべきじゃなかった。
だとしたら、此れはデートになってしまう。
青いウサギは記念と云う名の証拠品。


その辺りは進之介に黙っておいた方が良さそうだ、流石に。

店員に頭を下げてから、買い取ったウサギを連れて後にした雑貨屋。
さて、機嫌を直してもらうには如何するべきか。
同じ背丈のぼさぼさ頭を探しながら、和磨は雑踏に紛れた。



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2014.11.27