林檎に牙を:全5種類
午後3時、ホールは一斉に閉店を迎えた。
荷物が増えても減っても商人達は帰り支度を始める頃。

嵐山達もそれぞれバッグに売れ残りを詰める。
安物を求める人々が集う場所で、ハンドメイド品は少しお門違いだったか。
結果的に10個も売れれば御の字。
初めてにしては手応えがあったと思うし、割と楽しかった。

ちょっとしたアクシデントもあったが。
まさか和磨に、梅丸との関係を暴露する事になるなんて。


「梅丸がパン差し出したりするからだろ。」
「家の外だったんに、あのまんま食い付くとは思わねぇべ。」
「僕にそう云う癖をつけたのは誰だよ……」
「まぁ、そうだんべな……、悪かったんね。」

真っ向からぶつかり合ったりせず、梅丸はすぐ謝る。
関係を持つ前から変わらない。
それは嵐山を立てての事でもあり、面倒事を避けてのようでもある。

無駄なエネルギーを使わない。
嵐山の激情と反比例して、涼しい表情。

感情を剥き出しにしない辺りは和磨と同じ。
ただ、あちらは柔らかいが故。
梅丸の方は何を考えて受け止めているのやら。
もっと嫉妬して、八つ当たりに対して叱って、悩んでほしいのに。


「相変わらずトゲだらけだね、嵐山先輩てば。」
「ん、そこが可愛いから良いんさ。」

かと思えば、照れもせずにそんな言葉を吐く。
「可愛い」なんて小馬鹿にされている気分にしかならなかったのに。
梅丸から貰う時だけは、爪先まで痺れさせる。

対する嵐山は無言のままでそっぽを向いた。
赤くなっていたら、格好がつかない。


「あっ、そうそう。そんなトゲだらけの先輩にプレゼント。」

思い出した、と和磨が不意に声を上げる。
物を贈るにも一言多い。
ゆっくり向き直って、何が出るのやら待っていれば。

「トゲ」で思い出したのはこう云う事か。
摘まんだ和磨の指先に、垂れ下がった小さなハリネズミ。


ハリネズミは時計のパーツに前足を載せて、背中には紫の石。
ボタンと一緒に太めの鎖に留められていた。
ブレスレットにしては大ぶり過ぎる、そもそも嵐山には必要ない。
甘すぎないデザインのバッグチャームだった。

「お前、本当に細かい物作るの好きだよな……、でっかいくせに。」
「そこは先輩だってお互い様だと思うけど。良いから貰ってよ。」

軽く笑うと、バッグチャームを嵐山に握らせる。
押し付けられたとか強引な訳ではない。
それでも有無を言わせない何かがあって、受け取ってしまった。


「まぁ、ありがとう……」

口籠って礼を述べれば、和磨は満足げ。
軽く手を振って一足お先。
すっかり畳み終えた荷物を手に、出口へと去って行った。

後は梅丸と二人きりに、と云う事か。
まったく余計な事を。


「あぁ、出遅れたけど俺からもやる物あるんさ。」
「何だよ、荷物増えるだろ。」

何だ、今度は梅丸か。
後片付けももう少しで終わるところ。
忙しい時に声を掛けられると、つい棘が鋭くなる。

そうして顔を上げたら、ミントとチョコレートのチェック柄。
見覚えがあるウサギの刺繍付き。

「……余計な事して。」
「欲しそうだったんべ、ユウ。」

やっと合点が行った。
梅丸が和磨からあのエプロンを買い取った理由。
最初から嵐山に贈る為だったなんて。
まったく回りくどい事を。

しかし、切り刻まれるなんて梅丸は想像もしてないだろう。
帰ったら何に作り替えようか。


それにしても、今日は引っ掛かる点が幾つもあった。
フリーマーケット常連にしては、エプロンの他にもまだ大量の日用品。
自分だけでなく家族の分まで。
続いて嵐山に対し、こんな唐突で意味深なプレゼント。

他でもない、和磨の事である。

「あのさ、違かったら悪ぃけど、巽って……」
「言うなよ。」

遠慮がちに問い掛ける梅丸を嵐山が制した。
短くとも強い口調。
そこから先は、聞きたくもないとばかりに。


「まだ何も言ってなかんべ。」
「言いたいことは分かるよ、僕だってそうじゃないかと思ったし。」
「そうなん?」
「はっきり言葉にされるのは、何か、嫌なんだよ。まだ決まってもないのに。」

察しがついているのはお互い様。
それだけ今日の和磨は僅かに妙であった。
当人は何も言わなくても。
考え過ぎだとするなら、それに越した事はない。

単なる憶測でしかないと静かに呑み込んだ。
どうして嫌なのかなんて、もう訊かないで欲しい。
嵐山にだって説明出来ないのだから。


ホールを後にすると、午後の光が充ち溢れた公園に帰ってきた。
とは云え北風は決して優しくない。
今まで暖かい会場に守られていたので余計に沁みる気がする。
マフラーを鼻先まで引き上げた嵐山は顰め面。

公園中を華やかにする冬の花も。
折角咲いたと云うのに、盛りは短く儚い命。


冴えた風一陣、今度は薔薇を散らしていった。
女王であろうとも最期は脆いもの。
ダッフルコートに貼り付いた花弁を払って、嵐山が呟く。

「……どうせ去るなら、跡形も残さないで欲しいな。」

醜い骸を晒すより、いっそ最初から無かったように消え去ってほしい。
日毎に干乾びていくのを目にするのは耐え難いと思う。
どうせ傍から居なくなるのを止められないのなら。


*end


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*おまけ

 

ハリネズミノバッグチャーム、実物は此方です。
ういちろさんに嫁ぎました。


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2016.06.28