林檎に牙を:全5種類
何だって改まって紹介したんだか。
根回しなんかしなくたって別に反対しないのに。
騒ぐつもりも無ければ、言いふらす気も無し。
兄の相手が女でも、男でも。

しかし、知ったからには今まで通りとはいかず。
繋がりが出来てしまったから。


「………あ。」

果たして、呟きはどちらのものだったか。
無意識で零れた響きは低い。

数日後の放課後、会員限定セール中の手芸屋。
メンバーズカードを取り出した財布は紐が緩みがち。
のこのこ誘われれば、思いも寄らぬ再会。

嵐山と理佐、今は間に立つ者が不在だと云うのに。


今までなら、もし見かけたとしても意識などしなかったろう。
それこそ道端の石のように。
素通りした方が平和だった筈でも、こうなっては今更。

嵐山がこんな所に居るのは手芸が趣味の為。
そこは理佐も同じである、ただしジャンルは違えども。

理佐の趣味はドール。
活発なので身体を動かす事が好き、友達も多い。
それでも幼い頃からずっと部屋での遊び相手は人形達だった。
小さな服を作って着飾るのは、自分がお姫様になるよりも楽しい。


布やレースなど二人とも買い物籠の中身は共通。
ただ、嵐山の方には羊毛フェルトもあった。
色彩豊かな綿の塊。

針を刺していけばマスコットが生まれる。
作った事が無い方からしてみれば、まるで魔法。
その魔法使いが嵐山だとは少し信じがたい事実である。
男だから、と云うだけでなくて。

件のリスを渡された時、理佐の心境は複雑だった。
確かに一目で気に入ったものの、交際相手からと聞いたら当然である。
あの可愛い子を、嵐山は一体どんな顔で作っていたんだか。


「あの、さ……嵐山って、可愛い物好きなの?」
「別に。家にあった絵本にああいうのが出てたから、真似ただけだし。」

変わらずの素っ気ない態度。
飽くまで自分のセンスではない、と。
趣味については触れられたくない話題だったか。

そんな可愛い絵本を読んでいる図がもう既に笑えるのだが。
吹き出しそうになっても噛み殺し、俯いた口許が歪む。


「……なに変な顔してんだよ。」
「何だと。」

嵐山に訝られて理佐が顔を上げた。
「変な顔」とまで言われては、流石に理佐も苛立つ。

「どうせわたしは似てないわよ、灯也と。」

勿論、そう云う意味の発言でないのは百も承知。
しかし顔立ちについては敏感にもなる。
双子なのに、なんて本当に散々浴びせられてきた事。

見分けがつかない時代があるとしたら幼児の頃くらいである。
同性でも発育の違いが出ると云うのに、男女なら尚更。
涼しい印象の兄に、いかにも気の強そうな妹。
生き方は顔に出るもので性格通り。


嵐山からすれば、それは残念なのかどうなのか。
彼氏が欲しいと思った事すら無いので理佐には分からなかった。

彼の事はよく知らないが女子に興味が無さそうなのは分かる、確かに。
中性的だからとかではなくて。
さりとて男子が好きだからとも納得し難いものがある。
仮にそうだとしたら、同性の友達すら居そうにないのは不自然。

何と云うか、他人と触れ合う事を極力避けているような。
孤高の美少年と呼ばれるだけある。
にも関わらず恋人が居たのだ、それも自分の兄だなんて。

理佐だって数日前まで赤の他人だったのに。
紹介された割りに、知らない事が多いので気にもなる。


嫌味の一つでも返すかと思いきや、嵐山は無言。
ただ不機嫌になったと云う訳でない。
考え込むような様子のままで視線を理佐に向ける。

何かと理佐が訊ねようとする前、沈黙は破られた。

「そうだね……妹居るってのは知ってたけど、見た事なかったな。」
「そりゃまぁ、うちの学校大きいし、同じクラスになった事ないし。」
「いや、あいつと初めて逢った時……多分、お前も居た筈なんだけど。」
「は……?何の話よ?」

「お前」なんて呼ばれるのは失礼でも許そう。
恋人もまた「梅丸」なので混同してしまうだろうし。

それは兎も角として。

そう、兄と何処でどうやって親しくなったか気になっていたのだ。
先制で質問を全て却下されたので教えて貰えなかった。
理佐の方も踏み入れる事を躊躇って。

此の空気では明かさない訳にもいかず。
また少し考え込んだ後で、嵐山は口を開いた。


彼らの馴れ初めは、もう約10年前まで遡る。
当時、母親達が通っていたカルチャー教室の託児所が出会いの場。
お互い特別な相手だったから忘れずにいた。
梅丸が急に消えてから数年後、中学校に上がって再会を果たした。

そうして改めて親交を深めて、今に至ると。
成長してから再び巡り合うなんて運命と云えなくもない。

それは置いといて。

「あー……それならわたしは託児所に居なかったよ、最初から。」
「何でだよ、双子ならセットで行動するものじゃないか。」

そう考えるのが普通だろう。
ただでさえ幼児の双子なんて手が掛かって仕方ないのだ。
趣味に没頭している間なら余計に解放されたいもの。
カルチャースクールはそう云う場所だ。


「やっぱ嵐山は聞いてない、か。」
「何、勿体ぶるのやめろよ。」

溜息のような、独り言のような。
そんな呟きでも嵐山は棘を向けて捕らえた。
理佐の方も待っていたのかもしれない、聞いてくれる事を。


「灯也が、うちの親に放置されてたとか、色々。」


此れは本当に話して良い事なのか分からない。
明かしたと知ったら、兄はどんな感情を抱くだろうか。
傷付くか、怒るか、悲しむか。
冷たく保たれた無表情のままで。



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2016.07.29