林檎に牙を:全5種類
約10年前。

魂石の仕組み説明みたいなのを書いておきたかったので。
浩気と紫苑は人魚から馴染みだけど、絶対に恋愛に発展しないコンビです。
信頼してても飽くまで男女の友情。
着地点を小さく叩いて水音が降る。
ぽつりと流れ、透明な雫はただ砕け散っていくだけ。
雨でないので傘の必要は無い。
上空に広がるのは、至って穏やかな青色。

水源は雲ではなく真っ赤に腫れた浩気の眼。
拳を作る隙間の奥、石の欠片を濡らして。

少し前まで何年も命を預けた相棒だった物。


魂石に憑いた霊獣や幽霊は、此の世に未練を残した魂。
必ず「出会う事で心残りを果たせる」者の手に渡り、主従関係は運命的な縁。
彼らが討伐師に力を貸すのは成仏したいが為。
そして、霊が抜けた石は割れてしまう。
無情な程に呆気なく。

役目を終えた石を葬るまでが持ち主の務め。
川に流すか、土に埋めるか。

別れを迎えなければいけないのに。
大河に掛かる石橋の上、亡骸は未だに堅い拳の中。
今だけで良いのに勇気が足りない。
此の手を開くには、共に過ごして来た日々の記憶が邪魔をする。


「ウザっ。」
「冷たっ……」


貶しよりも呆れが色濃い一声に肩を叩かれた。
洟を啜っても振り返らず、浩気の目線は清流に向けたまま。
出来るなら泣き顔など見られたくない。
背後の彼女も解っているのだろう。
視界に姿を現したのは伸ばした白い腕だけ。
浩気が凭れた手摺の上、ポケットティッシュを置いてすぐに引っ込む。

腕の主なんて判りきっている。
浩気の事を誰より理解している者であろう、紫苑。
こうして彼が毎日歩き回っている理由も。

「なぁ……、此処で良いと思う?」
「悪くは無いわね、でも、判断すんのはあんたでしょ。」

ああ、やはり。

唐突でも主語が抜けていても、何の事かなんてお見通しか。
浩気が探しているのは石の墓場。
こんな山の中、大地へ還るに適した環境は他に無い。
けれど、良さそうだと思っても手が開かない。
もっと相応しい場所があるのではないか、と躊躇って今に至る。


「一緒に落ちたらまた逢えるかな、極楽とかで。」
「止めないわよ私。」
「判ってる……」
「うん、だって実行しないの判ってるし。」

見えない場所、気配が微笑った。
小さな声すら立てなくとも空気を和らげて。

「あんたさ、あの子の事好きだったんでしょ。」
「教えない。」
「フラれた時より泣いてるわよ?」
「……泣かせろよ、今くらい。」



曇った眼じゃ綺麗な放物線は描けない。
涙が止まったら、今度こそ別れ時。


ありがとう、さよなら。
スポンサーサイト

2009.05.26