林檎に牙を:全5種類
「追い掛けっことか、それ何の青春映画よ?」
「だよね、客観的に見たら……今更だけど恥ずかしい……」

陽の傾きかけた部屋は鮮やかな茜色に染まる。
少し赤い早苗の表情も隠して。
尤も、見えていなくても雪菜にはばれているだろう。
遠く遠く、電話の向こう。


少し落ち着いたものの、やはり毛羽立った感情。
お茶を飲んでも、眠って忘れようとしても、自分で如何にもならず。
こんな時、声が聞きたい相手は一人。

「あんな所でキスしたのが原因なら、私も悪かったわよね……ごめん。」

トーンの落ちた声で、ますます胸が痛む。
いつでも強気な雪菜にこんな事を言わせてしまった。
謝って欲しかった訳じゃないのに。

同性だから惹かれる感情はある。
異常ではないと、透子は言ってくれたけれど。

由紀を酷いと思うのはとても簡単な事だろう。
それでも、あれは世間一般の意見。
女しか愛せない早苗を、歪なものだと認めずに。

「雪菜からあんな反応されても可笑しくなかったんだよね、告白した時。」
「アズ、あんたまた……」
「後ろ向きな意味じゃなくてね……、受け入れてくれて、ありがとう。」
「……うん。」

あの日、伝えなければ雪菜だって男と幸せになれただろう。

口を閉ざしたまま別れていれば、今頃は違う道。
早苗の事も友達として思い出のまま。


「ちょっと、決め付けないでくれる?」

泣きそうになったところで、雪菜の声が突き刺す。
溜息混じりの不機嫌に。

「いや、ごめんって言われたから、つい……」
「違うわよ、人目に付く所でキスするのは男女でも駄目でしょ。」
「あー、それは、そうだね……」
「だから、確かに言ったじゃない……私は、アズが好きだって。」

改まって一息だけ切ってから、強い響き。
早苗の耳から胸の奥へと刻まれる。
悲しみも喜びも、どちらにしても心を震わせるのは言葉。

此れだけで、生きて行ける。


「30分待てるかしら、今そっち行くわ。」
「えっ……う、うん!」


*end

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2012.03.31