林檎に牙を:全5種類
*R指定描写(♂×♂)

遠雷の立ち位置。
お互いに恋愛感情どころか特別な物は無いです。
「同性で寝る事ってねェ、自慰とセックスの間にあるんだって。」
「違いねぇな……」


妙に乾いた言葉がシーツの上に落ちた。

汗は匂い立たっても暗がりを湿らせる事など無い。
見下ろすのは赤。
虫に良く似た人ならざる者の眼。
遠雷の鱗模様の頬まで降り注ぐ、長い白髪一房。

姿形は違っても別々に存在しても、基本構造は同じ身体。
布を剥ぎ取り、欲情を隠そうとせずに。



本来なら、魂石に憑いた霊が触れられるのは主と同士のみ。
しかし雨冠の名を与えられた遠雷は有り余る力を持つ身。
実体が存在する時と何ら変わらないのだ。
だから、他者と身体を重ねる事だって可能となる。

とは云えど、生きていた頃の記憶なんて大変碌でもないのだが。

当時、遠雷が仕えていた蛇の神獣は両性。
気に入られて、身体中知り尽くされたのは随分と昔の事。


「どーゆー人だった?」
「んー……、エロエロ?」


風雅の問いに一言だけ答え、取り出した包みを片手で破いた。
転がるのは煮詰めた砂糖の塊。

行為中、飴玉を口にする事を覚えたのも其の頃だった。
唾液も出るし塩辛い体液の味も紛れる。
男の身体とは舐め難くて仕方ない。

充血した楔に顔を寄せる。
甘くなった舌先を伸ばして、緩やかに撫で上げた。



客観的にしか感じられないのは、何も行為に限った事じゃない。
此れは自分の性質なのだと遠雷は充分に解っている。
ならば、拒む理由も見当たらず。


窪みを触れられて小さく身震いした。
細い指が酷く冷たいのは、チューブから垂らした粘液の所為。
女と違って何度となく散々抉られても濡れやしない。
なぞられ、抉じ開けられ、漸く潤う。

男女で全く異なる身体の凹凸。
組み合わせるのは絵空事のように簡単ではない。
ましてや男同士など本来の役目ではないのだから、尚更。


ゴムで包まれた切っ先に突付かれる。
腰を抱え上げられて、吐き出される息が震え出す。


「ねェ、痛くなーい?」
「もう慣れてるし……んな良くもねぇけど……」
「や、関節。向かい合わせってさァ、脚開くから下になる方キツいじゃん。」
「いや別に……、そりゃお前が体硬いだけだろ。」

呻く合間の声は掠れて囁きに近い重低音。
上から重なる含み笑い。
凶暴さを以った三日月の唇、八重歯を覗かせた。

背筋を反らせれば、耳元で薄茶の髪が乱れる音。
薄い肩に片脚を載せられて、揺れる。

風雅が素肌に纏うのは幾重もの長い鎖だけ。
衝撃の度に縺れて、鳴って、遠雷の肌を冷たく舐める。
差し伸ばされた萌葱色の爪。
粘液に濡れて鈍く光り、顎を捉えた。


幾分小さくなった飴玉は何とも脆く。
絡め合った舌先の間。
意思を持って噛み砕かずとも、球体は真っ二つ。

割れてしまえば一つに戻る事はもう無い。
けれど、不規則な断面を埋めるのは片割れでしかあらず。




自分と対の欠片も何処かに在るのだろうか。



二つで一つとなるべき半身。
赤い糸とか運命的とか有り触れた言葉で括れるような。

其れは彼ではないと解っている、お互い。
繋がる理由は戯れだけ。
だけど、見つからなくても構わない。


此の身は、求められれば何でも幾らでも差し出す物。
欲望に一歩踏み込んで、包み込む為の。
癒すなんてご大層な言葉を使うつもりは無くとも。

多分、今の立ち位置は自分が居るべき場所。
死を迎えて尚、何故、現世に留まっているかなど遠雷は思い当たらず。
必要とされているからなのかもしれない。
何時か、解るだろうか。
生へ執着する者達の感情に触れていれば。



だから、今は誰かだけの物になれない。
其れが"裏切り"と形を変えてしまわぬように。
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2009.09.13