林檎に牙を:全5種類
鬱陶しく続いていた灰色の雲が開ければ、太陽の季節。
梅雨明けが宣言されたばかりの7月は眩しい。

朝晩は冷気が残っていても、昼にはすっかり溶け去ってしまう。
夏本番に向けて日毎に強さを増していく陽射し。
気温の上昇もまだまだこれから。
駅ビルの入り口は薬局、店頭に日焼け止めが並ぶようになった。
紫外線なんて気にしない拓真には無用だが。

一方、インドアで肌が弱い遼二もあまり使いたがらない。
UVカット仕様のサマーカーディガンを脱ぎ捨てて、手にリモコン。
控えめながらクーラーを稼動させると空に目を細める。

アパートの4階の窓は青色が広い。
拓真の家で、我が物顔。


どう云うつもりなのか、と住人が考えるのは何度目か。
恐る恐る口に出してみても「暇だから」と明確な回答は得られず。
本当にそれだけかもしれないけれど。

ほんの少し前までの拓真からすれば、想像もつかない事態。
通っているケーキ屋の店員、兼、専門学校の生徒。
柔らかい物腰と思いきや棘を刺す腹黒さ。
遼二への興味を自覚しつつも、裏表の鮮やかさに対する関心だった筈。

なのに、恋愛感情だったなんて。
一回りも年下の同性相手に抱くなど、全く人生は予測不能。

まぁ尤も、遼二は男でないと駄目なのだが。
幼馴染に対する長年の想いも、思い出として整理がついたらしい。
泣きそうだった顔はすっかり晴れたと見える。


そんな事があってから、かれこれ一ヶ月ほど経過した日曜。
あれから遼二は何度も拓真の家を訪れていた。
彼の家は駅を挟んで反対の西側。
東側方面まで車を飛ばす際、ついでにと気軽に寄るのだ。
此方の気持ちを知っている上で。

とは云えど、別に何をする訳でもなく。

駅周辺で一番の大きなレンタルショップはアパートの近所。
家まで我慢出来ないとばかりに、借りた物を此処で観る為だったり。
炎天下の外と違って除湿の効いた涼しい部屋。
何だかんだで食事やケーキまで付くのだから、小さくても快適な劇場。

満足したらうとうと瞼が重くなり、横になって一眠り。
無防備に寝姿を晒す辺り警戒されていないのか。
確かに授業中でも腰掛けている間はぼんやりがちではあるが。

けれど、今は自分に気がある男と二人きりで密室。
押し倒されたって可笑しくないのに。


それは決して考えすぎでもない。
しかし、そこに行き当たっても欲望任せになれない。
出来るのか、と問われたら拓真の方が困惑してしまうのだ。

部屋に来るくらいなら好意はあるだろう。
そうだとしても、告白やそうした物など何も無いままの関係。
口説く語彙など持ち合わせておらず無言になってしまう。
前置き無しで迫ってみたところで、遼二が大人しく従うものか。
冷めた目で吐き捨てられる想像は容易い。

何も行動出来ない理由は他にも多々あるものの。

いまいち遼二の意図が見えない。
餌を貰って、遊んで、適当に帰って行く。
此れではまるで野良の獣が家に通っている感覚である。
来訪は勝手気紛れ、悠々と。




「面倒だなぁ、オイ……」

元々、恋愛なんて面倒なもの。
分かっていても零さずにはいられなかったらしい。

そう苦々しく呟いた口許には牙。
ストローに噛み跡を残して、アイスティーで濡れた唇を舐める。
男の格好でも無意識の仕草が妙に艶っぽい。
夕暮れ迫る駅前のファミレス、向かいで頬杖をつくのはスーツの七海。


他に相談出来る相手も居らず、思わずメールで愚痴って数時間後の事。
「仕事上がりなら時間が作れる」との返信はありがたかった。

七海にはもう大体の事なら知らせてある。
遼二の好きだった男、が秋一である件だけは迷っていたものの。
其の辺りを曖昧に濁そうとしたら、あちらから指摘された。

勘が良い奴は話が早い反面怖い。
誤魔化しが通じない辺り、下手に包み隠すのは無意味になる。
だからこそ情けなくてもこうして明かしている訳だが。
最初の問題は、手を出す以前の事。


「そもそも、"したい"のか分からないんだが……」

確かな感情を抱いても、その先は靄が立ち込め真っ白なまま。
想像を試みても何となく形にならず。


「ちょ……、何言ってんの、そんな男性ホルモン満ちた身体して。」
「頭が追い着かなきゃ身体だって動かねぇよ……」
「クマさん、まだ30代なったばっかじゃん。枯れるの早いよ?」
「そうだけどな……若さに任せて、て程は若くない……」

役割、やり方、他にも転がる問題は多々。
男女なら最初から決まっている事から、仮にそうでも分からない事まで。
初恋よりも難しくて熱が出そうになる。

「俺にグッと突っ込んで来い、とか言っちゃえば?」

頼みの綱からの意見は、問題発言。
それもただ単に面倒になっただけなのだから笑えもしない。
思わずコーヒーを吹きそうになったのを堪えて、無理やり飲み込む。
結局、拓真の問題は何一つ解かれないまま。

NEXT →



*クリックで応援お願いします

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村


小説(BL) ブログランキングへ



スポンサーサイト

2012.11.18