林檎に牙を:全5種類
*R指定描写(♂×♂)
クーラーで乾き掛けていた汗が吹き出しそうになる。
薄い夏服だけの身体で抱き付かれ、肌で感じる存在感は強い。
重なった平たい胸の心音。
鼓動の加速で、髪の先まで血が巡り出す錯覚。

今まで手を伸ばせなかった細い身体。
骨張りがあまり無くても、しなやかな筋肉は確かに男の物。

こんな事になっても尚、拓真からは何も出来ずに居る現状。
背中に腕を回すだけで良いのに。
夢でも見ているような気持ち半分、身体が覚醒しない。
硬直しきって捕われるがまま。


けれど、遼二の方はそう気長に待っちゃくれない。
背中を通って脇腹に滑り込む指先。
拓真のシャツの裾に引っ掛かり、ごく軽い仕草で捲り上げる。

「バッグ当たったところ……、大丈夫ですか?」
「え……っ、あぁ、もう平気……」

本当は「殺す気か」と言ってやろうと思っていたのに。
実際、ボクサーを引退して鈍り始めた身体には重かった衝撃。
それでも上擦った声はこんな返事しか出来ず。
今となってはあの痛みすらどうでも良くなってしまう。

戸惑いつつも曖昧に頷けば、漸く遼二が腕を緩めた。
そうして顔を寄せると開いた唇。
獣が甘えるような舌で、シャツの剥がれた拓真の腹を舐め上げる。

目の前の出来事に、火花が散った。


「……こう云う事ですよ。」

素肌から儚く紡いだ唾液の糸。
赤い舌を覗かせたまま、眼鏡から上目遣いに視線を刺す。
落ち着いた低音を保つ声をしっとり湿らせて。

「関係持ったら後戻り出来ませんよ、それでも進む覚悟あります?」

"したいか"どうか考えてみても、見えてこなかったビジョン。
拒まれた場合が怖くて無意識に避けていた所為。
踏み出せなかった理由は、分からなかったからではない。

触れたい気持ちの空回り、本当は。


欲望の問題は何よりも身体が先に答えを出す。
たった此れだけの刺激なのに。
窮屈になった下腹部、顔を埋めていた遼二が気付かぬ筈ない。

「此処は次に行きたいみたいですね、良かった。」
「早未……」
「ですから、好い加減に腹括って……パンツ脱げっつってんだろ。」
「……はい。」

刃物で脅すように胸倉を掴まれて、引き攣った返答。
擦れ違いが修復して、想いが通じ合って、初めての情事の前。
だと云うのに何て色気が無いのだろうか。


既に胸元辺りで丸まっていたシャツ。
乱雑な手が引っ張り上げて、とうとう剥ぎ取られる。
裸の胸を押されて長座布団の上。
圧し掛かられたら、もう視界には遼二しか居なくなる。

女しか知らない拓真にとって進む先は全く未知。
それでも、どうなっても受け入れたい。

欲望も感情も確かに此処にあるのだと。




知らない間に降り出した雨は、叩き付ける量に変わっていた。
どんなに激しくなっても遠い。
夕立から切り取られた、薄闇の部屋。
吹き込まれた息遣いが耳元に熱くて脳まで蕩ける。

「……ッ、うぁ……」

寝そべったまま呻けば、上を向いた顎。
少し伸びた髭も遼二の器用な舌先でくすぐられる。

筋肉で太くなっても引き締まった四肢は太陽を浴びた色。
肌の薄い場所ばかりを狙う指先と唇。
どうにも出来ず拓真の方ばかり愛でられる。
顔を埋められると、柔らかい髪にまでくすぐられた。


鼻先がぶつかっては、時折小さく音を立てる眼鏡。
こんなにも暗い部屋で必要なんだか。

カーディガンは放られても、遼二はほとんど衣服を脱がない。
緩んだ襟から覗いた首筋の色香。
未だ目に出来ない、隠されたままの素肌に焦がれた。

そうかと思えば曝け出すのは呆気無く。
膝立ちで拓真を見下ろしながら、遼二自らベルトの留め金を外す。
下着ごと引っ張られれば思わず目を奪われる。
充血して反り立った、相手の欲望。

麗しいなんて言えない厳つい容姿の拓真を見て、触れて。
それだけで遼二も欲情している事に嘘は無く。


そのまま上半身を捻って、次に手探りしたのは自分のバッグ。
何かのボトルを取り出した。
訝しむ拓真の前で、液状の中身を掌にゆっくり垂らす。

「……っん……」

粘液に濡れた手は遼二の背後に隠れて見えなくなった。
それでも、何をしているかなど明白。
探り当てた双丘の奥、自慰に似た指先で弄っているのだ。
ボトルの正体は恐らくローション。

「僕は初めてですからね、全部……」

奥歯を噛んで、吐息の熱が絡んだ物言い。
微かに混ざる水音。
遼二の方は覚悟を決めていたと云う事か。
此処に来る前から、疾うに。


「……俺がされる方かと思った、お前が上だし。」
「それは嫌です。」

此の場合、「嫌」とはどんな意味なのだろう。
拓真ではそんな気になれない?
思考を巡らせていたら、遼二に片手を取られた。

「触ってみます?」

そうして、少し笑った目で秘部へと導かれていく。
緊張で固まっても恐る恐る伸ばした指先。

行き着いた窪みに触れた途端、一瞬で血が沸き立った。


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2012.12.23