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母方の叔父はイギリス人ハーフの女性と結婚した。
なので、透子には2歳下で緑の瞳の従弟が居る。
ブロンドの柔らかい巻き毛に生白い肌。
幼い頃のアルバムなんて天使。
大人しくて泣き虫な可愛い子、だった。
「和磨君、180越えたっけ?」
「うん、まだ伸びてるみたい……」
ただ、今や身長は随分と伸びて平均以上。
小柄で華奢な透子と比べれば大人と子供ほどの差になる。
叔父一家が揃ってイギリスに移住したのは、透子が高校生の頃。
それから半年程で和磨だけ帰ってきたけれど。
どうしても海外生活に馴染めず、体調を崩してしまったらしい。
骨張りも無く線が細いのは元から。
食事が喉を通らず痩せてしまい、青白い顔だったと思い出す。
一方、まだ小さい妹3人は毎日を楽しんでいるのだから女は逞しい。
療養と勉強の間は岸家で世話になっていても回復後は一人暮らし。
一年遅れで高校に入学し、生活費は仕送りで足りてもバイトする余裕もある。
誕生日を迎えてからは運転免許だって取った。
要するに今では至って健康、家族と離れても全く平気。
問題があるとするならその後。
あまり大きな声で言えず、尽きない悩みが一つ。
「最近は上手くいってるみたいだね、和磨君……彼氏達と。」
「あー……、うん、お陰様で。」
「Miss.Mary」のテーブル席は数が少なく、やや密集した形。
空いている時間帯でも自然と密やかな話し声になる。
カップに揺らめく湯気すら吹き飛ばない程。
此処、紅玉街も発展している方だが、車が無いと不便な辺りまだ田舎。
もっと都会に近付くと桜街と云う大きな街がある。
今、和磨が身を置いている場所。
帰国後に一人暮らしを始めたのは、その隣街だったのだが。
入学したのも近くの高校。
其処でクラスメイトと深い仲になってしまったらしい。
不良として有名な双子の兄弟。
大人びて無感情な兄の楔波と、子供っぽく好奇心旺盛な弟の紫亜。
外見や性格は違っているようでも、どちらも冷たい眼差しに艶めいた雰囲気。
初めて言葉を交わした時から和磨は楔波に惹かれた。
しかし、相手が男となれば当然戸惑う。
そうして靄を抱えていた中、衝動的にキスしてしまった。
「男の子は我慢出来ないらしいし、雰囲気と性欲に流された訳なのだね?」
「女の子から冷静に言われるとグサッと来るね……」
はっきりと恋愛感情を自覚したが、楔波には「興味が無い」と告げられた。
そもそも最初から冷たい態度だったのだ。
返事を判っていたつもりの和磨はそれきり忘れようと思ったのに。
紫亜からは気に入られていたので、案を持ち掛けられた。
あれはきっと悪魔の囁き。
「兄弟両方を相手するなら、身体の関係を持っても良い」と。
性の玩具になれ、と云う意味でも構わずに縋るしかなかった。
以来、双子の気が向いた時、好きな場所で弄ばれる日々。
それこそ人目さえ無ければ授業中の校内でも。
ただ開かれるだけで痛みが伴う身体。
無茶な行為も散々されたが、何とも思われていない事の方が堪えた。
いつ捨てられるか怯えてどれだけ泣いたやら。
けれど、それも既に過去か。
生まれてからずっと一緒に行動してきたので孤独ではなかった双子。
こうして他人と深く関わるのは和磨が初めてだった。
恋愛感情も、拒絶ではなく解からないだけ。
長い時間を掛けて真っ直ぐ想い続けるうち、三人共変わっていった。
いつからか三人で過ごす事が当たり前になった。
双子が住んでいる桜街のマンションに呼ばれて同棲を始めた。
想いの擦れ違いで楔波と喧嘩もした。
変化を認めたくないのか当人は無自覚なのだが。
今では、確かに楔波と両想いなのだと和磨も信じられる。
こうなる事は紫亜も読めていたようだが、全てではないだろう。
和磨を「ペット」だと言いつつも大事にはしているようだ。
楔波とは違う形でも、此れもまた愛情。
芽生えたばかりの恋は子供にも近い。
性格的な物でもあるが、苛めるのが愛情表現な辺り特に。
独占欲も強く、和磨に触れているのが片割れでも面白くないらしい。
まして他の男となれば、相手によっては談笑しているだけで苛立ちを見せる。
だからこそ、言われるまでもなく和磨も決意した。
双子だけの所有物になると。
こんな話を打ち明けられた時、透子が静かな衝撃を感じたのは確か。
しかし正直、受け入れ準備は万全だった。
透子の周囲には同性で付き合っている者がちらほら居るのだ。
彼女自身だって隣人の早苗に片想いした事があるし。
そうした中でも、和磨は一番有り得そうな人材。
零れそうに大きな垂れ気味の眼は、此処だけ透子とよく似ている。
尤も、彼女は生粋の日本人なので色は違うものの。
二人とも負けず劣らず綺麗な顔立ち。
目鼻に幼さが残る透子より、和磨の方が表情豊かで柔らかな色香も匂う。
背や手足は大きくなっても白皙の優男と云った風貌。
女性的な趣味や嗜好も相まって、彼氏が出来たと言い出しても違和感無し。
とは云え、双子と出逢う前は彼女だって居たけれど。
受身の点だけは変わらないので、性別は大きな問題でないらしい。
「もう卒業したら結婚しなさい、責任取って貰って。」
随分と前から和磨の相談に乗っている身。
大体の話を聞いている透子が言うべき事は、最早一つきりだった。
なので、そんなに予想外でもない筈なのだが。
カップに口を付けていた和磨は、其れを聞いて咳き込んだ。
「けほっ……、ちょ、透子ちゃん何言い出すの!」
「安心したまえ、叔父さん叔母さん達説得するなら私も一緒に行くから。」
笑っていない、冗談ではない眼で告げる。
そこまで深く愛せる相手を見つけた和磨は幸せ者なのだろう。
ならば、祝福くらいさせてほしい。
カップに注がれた紅茶の縁に、金色の輪。
いつか天使だった彼に対する恵みにも思えて、感情と共に味わう。
なので、透子には2歳下で緑の瞳の従弟が居る。
ブロンドの柔らかい巻き毛に生白い肌。
幼い頃のアルバムなんて天使。
大人しくて泣き虫な可愛い子、だった。
「和磨君、180越えたっけ?」
「うん、まだ伸びてるみたい……」
ただ、今や身長は随分と伸びて平均以上。
小柄で華奢な透子と比べれば大人と子供ほどの差になる。
叔父一家が揃ってイギリスに移住したのは、透子が高校生の頃。
それから半年程で和磨だけ帰ってきたけれど。
どうしても海外生活に馴染めず、体調を崩してしまったらしい。
骨張りも無く線が細いのは元から。
食事が喉を通らず痩せてしまい、青白い顔だったと思い出す。
一方、まだ小さい妹3人は毎日を楽しんでいるのだから女は逞しい。
療養と勉強の間は岸家で世話になっていても回復後は一人暮らし。
一年遅れで高校に入学し、生活費は仕送りで足りてもバイトする余裕もある。
誕生日を迎えてからは運転免許だって取った。
要するに今では至って健康、家族と離れても全く平気。
問題があるとするならその後。
あまり大きな声で言えず、尽きない悩みが一つ。
「最近は上手くいってるみたいだね、和磨君……彼氏達と。」
「あー……、うん、お陰様で。」
「Miss.Mary」のテーブル席は数が少なく、やや密集した形。
空いている時間帯でも自然と密やかな話し声になる。
カップに揺らめく湯気すら吹き飛ばない程。
此処、紅玉街も発展している方だが、車が無いと不便な辺りまだ田舎。
もっと都会に近付くと桜街と云う大きな街がある。
今、和磨が身を置いている場所。
帰国後に一人暮らしを始めたのは、その隣街だったのだが。
入学したのも近くの高校。
其処でクラスメイトと深い仲になってしまったらしい。
不良として有名な双子の兄弟。
大人びて無感情な兄の楔波と、子供っぽく好奇心旺盛な弟の紫亜。
外見や性格は違っているようでも、どちらも冷たい眼差しに艶めいた雰囲気。
初めて言葉を交わした時から和磨は楔波に惹かれた。
しかし、相手が男となれば当然戸惑う。
そうして靄を抱えていた中、衝動的にキスしてしまった。
「男の子は我慢出来ないらしいし、雰囲気と性欲に流された訳なのだね?」
「女の子から冷静に言われるとグサッと来るね……」
はっきりと恋愛感情を自覚したが、楔波には「興味が無い」と告げられた。
そもそも最初から冷たい態度だったのだ。
返事を判っていたつもりの和磨はそれきり忘れようと思ったのに。
紫亜からは気に入られていたので、案を持ち掛けられた。
あれはきっと悪魔の囁き。
「兄弟両方を相手するなら、身体の関係を持っても良い」と。
性の玩具になれ、と云う意味でも構わずに縋るしかなかった。
以来、双子の気が向いた時、好きな場所で弄ばれる日々。
それこそ人目さえ無ければ授業中の校内でも。
ただ開かれるだけで痛みが伴う身体。
無茶な行為も散々されたが、何とも思われていない事の方が堪えた。
いつ捨てられるか怯えてどれだけ泣いたやら。
けれど、それも既に過去か。
生まれてからずっと一緒に行動してきたので孤独ではなかった双子。
こうして他人と深く関わるのは和磨が初めてだった。
恋愛感情も、拒絶ではなく解からないだけ。
長い時間を掛けて真っ直ぐ想い続けるうち、三人共変わっていった。
いつからか三人で過ごす事が当たり前になった。
双子が住んでいる桜街のマンションに呼ばれて同棲を始めた。
想いの擦れ違いで楔波と喧嘩もした。
変化を認めたくないのか当人は無自覚なのだが。
今では、確かに楔波と両想いなのだと和磨も信じられる。
こうなる事は紫亜も読めていたようだが、全てではないだろう。
和磨を「ペット」だと言いつつも大事にはしているようだ。
楔波とは違う形でも、此れもまた愛情。
芽生えたばかりの恋は子供にも近い。
性格的な物でもあるが、苛めるのが愛情表現な辺り特に。
独占欲も強く、和磨に触れているのが片割れでも面白くないらしい。
まして他の男となれば、相手によっては談笑しているだけで苛立ちを見せる。
だからこそ、言われるまでもなく和磨も決意した。
双子だけの所有物になると。
こんな話を打ち明けられた時、透子が静かな衝撃を感じたのは確か。
しかし正直、受け入れ準備は万全だった。
透子の周囲には同性で付き合っている者がちらほら居るのだ。
彼女自身だって隣人の早苗に片想いした事があるし。
そうした中でも、和磨は一番有り得そうな人材。
零れそうに大きな垂れ気味の眼は、此処だけ透子とよく似ている。
尤も、彼女は生粋の日本人なので色は違うものの。
二人とも負けず劣らず綺麗な顔立ち。
目鼻に幼さが残る透子より、和磨の方が表情豊かで柔らかな色香も匂う。
背や手足は大きくなっても白皙の優男と云った風貌。
女性的な趣味や嗜好も相まって、彼氏が出来たと言い出しても違和感無し。
とは云え、双子と出逢う前は彼女だって居たけれど。
受身の点だけは変わらないので、性別は大きな問題でないらしい。
「もう卒業したら結婚しなさい、責任取って貰って。」
随分と前から和磨の相談に乗っている身。
大体の話を聞いている透子が言うべき事は、最早一つきりだった。
なので、そんなに予想外でもない筈なのだが。
カップに口を付けていた和磨は、其れを聞いて咳き込んだ。
「けほっ……、ちょ、透子ちゃん何言い出すの!」
「安心したまえ、叔父さん叔母さん達説得するなら私も一緒に行くから。」
笑っていない、冗談ではない眼で告げる。
そこまで深く愛せる相手を見つけた和磨は幸せ者なのだろう。
ならば、祝福くらいさせてほしい。
カップに注がれた紅茶の縁に、金色の輪。
いつか天使だった彼に対する恵みにも思えて、感情と共に味わう。
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2013.01.21 ▲
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