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父方の親戚は皆、巽家から自転車でも行ける程度の近所に住んでいる。
なので、和磨には幼い頃から仲良くしている従姉が居た。
艶々の長い黒髪と愛らしい大きな垂れ気味の双眸。
華奢な四肢に制服姿なんて可憐の一言。
小柄で透明感のある美少女、だった。
「本当、女の子って化けるよねぇ。」
「ああ……、初めて見た時、和磨君も吃驚してたね。」
濃いキャラメル色に染めたお団子頭に、異国情緒が香るエスニックの服。
大学生になってからの透子は雰囲気が随分変わった。
尤も、元々エスニックが好きなのは知っていたし和磨もよく着る。
表情の変化が少ない透子は何処かミステリアス。
今となっては別の意味、何だか違う世界の住人に見える程。
美しさが台無しになった訳ではない。
似合っているのは確かだし、此れは此れで可愛らしい。
ただ、勿体無い気持ちも少し。
癖毛で悩む和磨からすれば綺麗な黒髪は羨ましいくらいだったのに。
カスタマイズは本人の自由なので何も言うつもりは無いが。
そして、中身は幼い頃から何も変わっていない。
「会うと僕の話ばっかりだけどさ、透子ちゃん自身は恋バナ無いの?」
「最近、片想いが終わったきりだね……付き合ったのは高校の頃が最後だし。」
「あぁ、ボカロに対して暴言吐いたから別れたんだっけ……?」
「あの男はミクさんを馬鹿にしたのだよ、私の天使を。」
ピアノが得意だった少女は、いつしか自分でも作詞作曲を始めた。
VOCALOIDの歌姫を入手してから「竜生P」として動画サイトで活動開始。
此処からプロが生まれるような世界なのだ。
知名度はまだまだでも、固定ファンも居りカラオケ配信も果たした。
オンライン上での透子の顔。
さて、"動画"となると曲だけでは地味で寂しい。
その際にイラストを手掛けるのが「龍実」として絵を描いている和磨。
透子のお陰で彼もまた名前が知られた存在になった。
線や色使いが女性的なので、男と明かすと驚かれる事が多い。
竜生Pと云えば癖の強い曲ばかり。
血みどろのアングラ系や少女同士の悲恋を描いた物語調。
どちらにしても何処か耽美で、その辺りは二人とも共通の趣味である。
狂気すら美しく、聴き手を酔わす世界観。
ただし、如何にして思い付くかは秘密にせざるを得ない。
川原に捨ててありそうな男性向けの成人漫画。
此処からイメージを膨らませ、全く違う味に作り変えてしまうのだ。
元となる話と比べても別物になっているので盗作ではない。
お粗末な内容の陵辱劇こそ材料にしやすい。
漫画は男が身勝手なだけの物ばかりだが、透子が描けば終末は恐ろしい。
怨恨で化け物に変わった女によって、やがて喰い殺される。
それも、どの曲にしても驚かされる展開で。
サディストほど心身ともに引き裂きたくなる。
飽くまで創作の上でも、透子はそんな性癖を持ち合わせていた。
今日だって和磨が地元に帰ってきたのも、新曲の会議の為。
打ち合わせは主に電話やメールで済むが。
時に会って話す必要も出てくるので、こうしてお茶を共にする。
いつも指定席は「Miss.Mary」紅玉駅ビル店。
それから、透子にはもう一つ用があったらしい。
甘い色の下着姿の女性が寄り添う表紙。
ランジェリーショップ「LuLu」の最新カタログ。
「和磨君、こう云うの好きだったかな?」
色々と誤解を招く言い方だが、何の事はない。
透子が開いたのはメンズ&男女ペアのページである。
洒落たデザインが多いが、その中でも眼を引く商品。
テディベアのバックプリントが可愛らしいボクサーショーツ。
女性用かと思いきや、此れでも男性用。
「確かに僕こーゆーのも穿くけど……ちょ、何で透子ちゃん知ってんの?」
「実家で一緒に住んでた時、リラックマ柄が洗濯物にあったから。」
「やだ恥ずかしい!あれ見たの?!」
「休日は私が洗濯当番だからね、誰が干したと思ってるのかね?」
見られるくらいならまだしも、触られたとなれば羞恥は倍。
冗談か本気か読めない真っ直ぐな視線が却って痛い。
こう云うところが食えないのだ、透子は。
「透子ちゃん、髪黒いままだったらまだ色々カバー出来たのに……」
「そんな事言わないでくれたまえ。」
思わず皮肉の一つでも言いたくなってしまった気分。
零れてしまった呟きに、反射的な返事。
悪かったと和磨が口を抑えたら、透子が続けた言葉は予想外。
「私が髪染めたのは、和磨君の色が羨ましかったからだよ?」
そうして金茶の髪を撫でる、子供の頃と変わらない手。
面食らったような複雑な心境。
ああ、やはり。
どれだけ時が流れても敵わない、多分きっと。
なので、和磨には幼い頃から仲良くしている従姉が居た。
艶々の長い黒髪と愛らしい大きな垂れ気味の双眸。
華奢な四肢に制服姿なんて可憐の一言。
小柄で透明感のある美少女、だった。
「本当、女の子って化けるよねぇ。」
「ああ……、初めて見た時、和磨君も吃驚してたね。」
濃いキャラメル色に染めたお団子頭に、異国情緒が香るエスニックの服。
大学生になってからの透子は雰囲気が随分変わった。
尤も、元々エスニックが好きなのは知っていたし和磨もよく着る。
表情の変化が少ない透子は何処かミステリアス。
今となっては別の意味、何だか違う世界の住人に見える程。
美しさが台無しになった訳ではない。
似合っているのは確かだし、此れは此れで可愛らしい。
ただ、勿体無い気持ちも少し。
癖毛で悩む和磨からすれば綺麗な黒髪は羨ましいくらいだったのに。
カスタマイズは本人の自由なので何も言うつもりは無いが。
そして、中身は幼い頃から何も変わっていない。
「会うと僕の話ばっかりだけどさ、透子ちゃん自身は恋バナ無いの?」
「最近、片想いが終わったきりだね……付き合ったのは高校の頃が最後だし。」
「あぁ、ボカロに対して暴言吐いたから別れたんだっけ……?」
「あの男はミクさんを馬鹿にしたのだよ、私の天使を。」
ピアノが得意だった少女は、いつしか自分でも作詞作曲を始めた。
VOCALOIDの歌姫を入手してから「竜生P」として動画サイトで活動開始。
此処からプロが生まれるような世界なのだ。
知名度はまだまだでも、固定ファンも居りカラオケ配信も果たした。
オンライン上での透子の顔。
さて、"動画"となると曲だけでは地味で寂しい。
その際にイラストを手掛けるのが「龍実」として絵を描いている和磨。
透子のお陰で彼もまた名前が知られた存在になった。
線や色使いが女性的なので、男と明かすと驚かれる事が多い。
竜生Pと云えば癖の強い曲ばかり。
血みどろのアングラ系や少女同士の悲恋を描いた物語調。
どちらにしても何処か耽美で、その辺りは二人とも共通の趣味である。
狂気すら美しく、聴き手を酔わす世界観。
ただし、如何にして思い付くかは秘密にせざるを得ない。
川原に捨ててありそうな男性向けの成人漫画。
此処からイメージを膨らませ、全く違う味に作り変えてしまうのだ。
元となる話と比べても別物になっているので盗作ではない。
お粗末な内容の陵辱劇こそ材料にしやすい。
漫画は男が身勝手なだけの物ばかりだが、透子が描けば終末は恐ろしい。
怨恨で化け物に変わった女によって、やがて喰い殺される。
それも、どの曲にしても驚かされる展開で。
サディストほど心身ともに引き裂きたくなる。
飽くまで創作の上でも、透子はそんな性癖を持ち合わせていた。
今日だって和磨が地元に帰ってきたのも、新曲の会議の為。
打ち合わせは主に電話やメールで済むが。
時に会って話す必要も出てくるので、こうしてお茶を共にする。
いつも指定席は「Miss.Mary」紅玉駅ビル店。
それから、透子にはもう一つ用があったらしい。
甘い色の下着姿の女性が寄り添う表紙。
ランジェリーショップ「LuLu」の最新カタログ。
「和磨君、こう云うの好きだったかな?」
色々と誤解を招く言い方だが、何の事はない。
透子が開いたのはメンズ&男女ペアのページである。
洒落たデザインが多いが、その中でも眼を引く商品。
テディベアのバックプリントが可愛らしいボクサーショーツ。
女性用かと思いきや、此れでも男性用。
「確かに僕こーゆーのも穿くけど……ちょ、何で透子ちゃん知ってんの?」
「実家で一緒に住んでた時、リラックマ柄が洗濯物にあったから。」
「やだ恥ずかしい!あれ見たの?!」
「休日は私が洗濯当番だからね、誰が干したと思ってるのかね?」
見られるくらいならまだしも、触られたとなれば羞恥は倍。
冗談か本気か読めない真っ直ぐな視線が却って痛い。
こう云うところが食えないのだ、透子は。
「透子ちゃん、髪黒いままだったらまだ色々カバー出来たのに……」
「そんな事言わないでくれたまえ。」
思わず皮肉の一つでも言いたくなってしまった気分。
零れてしまった呟きに、反射的な返事。
悪かったと和磨が口を抑えたら、透子が続けた言葉は予想外。
「私が髪染めたのは、和磨君の色が羨ましかったからだよ?」
そうして金茶の髪を撫でる、子供の頃と変わらない手。
面食らったような複雑な心境。
ああ、やはり。
どれだけ時が流れても敵わない、多分きっと。
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2013.01.28 ▲
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