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林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)
カーテンを閉ざせば、まだ青く眩しい外界はあまりにも遠く。
切り取られた薄闇は湿って夕暮れの錯覚。
広いベッドの上、脚の付け根に顔を埋め合う形のまま浸っていた。

長身の秋一に圧し掛かると、それだけで征服感が背筋を震わせる。
一糸纏わず七海の前に曝け出された欲望は同じ形。


吐息だけで触れてみれば雫が滴る、待っていたかのように。
当の秋一からは見えない位置で七海が目を細める。
舌舐め擦りで濡らした唇は歪んで三日月。
開いた頃には牙を隠して、熱の塊を口腔に引き込んだ。

舌先で混じ合う唾液と蜜。
口に含むと一際強くなった匂いで溺れそうになる。
背徳なんて真っ先に呑み切まれて。

「あ……ッ、うぅ……」

下腹部の方で秋一が声を零した。
同じ物に手を添えたまま、それでも七海に反撃出来ずに。
弱い部分を預けても此の点は違う。
水音を立てて蹂躙する舌に啼かされ、素直に快楽を受け入れる。

奉仕されるのは後でも構わない。
一度冷めても、若い身体はすぐに何度も熱を持つ。
空っぽになるまで吐き出すのだ、どうせ。


七海が秋一と交際を続けて約二ヶ月。
男同士は初めてで多少の不安もあったが、素肌を晒し合えば欲情する。

性器にキスするのも思ったより抵抗は無かった。
堪らずに甘く掠れた低音で啼く秋一が誰より可愛いと思う。
中性的な七海に屹立が聳えている姿も、何処か不可思議な艶が匂い立つ。
一時だけ倒錯した刺激に酔っている訳ではない。
惹かれ合っている確信はある、互いに。

触れ合っているのか自慰の延長なのか、曖昧な感覚の時間。
ただ、そうした関係になっても未だオーラルのみ。
それでも情交には場所を選ぶ、大抵はお城のホテル。
七海の寝床は同居している烏丸が不在の時でないと招けない。


初夏に始まった恋も平和なまま早足で過ぎた。
まだ日差しが強くても、剥き出しの腕では心許無くなる外気。

灼熱の季節は飛び去ってそろそろ秋に向かう。



「秋一の元カノか、六花だった頃の客がコンタクト取ってくる展開かねぇ。」
「……漫画ならありそうだね。」

火照っていた頬を撫でる秋風が心地良い。
体温が平常に戻る頃、帰り道でいつも本屋へ寄る習慣が身に付いていた。
七海はジャンルを問わない読書家。
ネット注文なら欲しい物はすぐ手に入るが、こうして店で探すのも楽しい。

付き合い始めてから、秋一も読書する機会が増えたようだ。
好きな物が共通すれば話題も広がる。
読みやすい本を勧めたり、面白い作家を教えてもらったり。

"その手"の本も何冊か目を通してみた、参考の為に。
生々しい話ではあるものの無知なままでは後々困るだろうと。


ただし、BLはあまり当てにならなかった。
男性向けの成人漫画を女性が読んでも「ありえない」と大口で笑うのと同じ。
現実で教科書になる訳が無い。
此れらは陰の娯楽なのだ、結局のところ。

先日、地元の大型書店で迷い込んでしまった時の事を思い出す。
どのコーナーも品揃えが豊富でBLも例外ではなく。

うっかり足を踏み入れてしまった途端、カメラ目線で絡み合う男達の表紙。
それも左右の棚、遥か向こうの端まで見渡す限り続く。
好んで読む客には良い眺めでも、そうでない者には威圧感が凄まじい。
度胸は人一倍の七海も流石に少し肩身が狭かった。
絵と云えども無数の目玉に見詰められてはあまり良い気分ではない。

そうかと思えば、仲良く本を選んでいた男女のカップルも居た。
サブカルチャーは好きでも、此のジャンルだけは色々とよく解からない。

しかし、今の自分達だって傍目には同類に映るのだろう。
女装すると艶めく美人に化ける七海、長身で柔和な雰囲気を持つ秋一。
漫画なら、なんて口にした辺り自覚もある。
其処を考えるとあまり悪く言えた立場ではないのだが。


「じゃ、またね七海。」
「……ん。」

七海の運転で本屋を後にして、逢瀬の終着地点は秋一のアパート。
傾き始めた太陽が足早に西へ落ちていく。
本物の夕暮れはいつも寂しい気持ちを連れてくる。
此の辺りは田畑が近い静かな住宅街なので鈴虫の音も耳に届く。

誰も見ちゃいないのに、物陰に隠れて唇を交わした。
同性だからと云う訳じゃないけど。


そうして、一人で部屋に戻る秋一の背中を見送る時が妙に切ない。
別れを惜しむのは恋人なら当然。
確かに分かっていても、複雑な感情が多少なりと混ざっている。

七海にとって、秋一のアパートは何となく居心地が悪かった。
初めて逢った日に夜を共にした場所。
けれど、此処で情交に及んだ事は一度として無い。
出て行った彼女の影が、部屋そのものに残っている気がして。
私物は纏めて実家に送り返したらしいけれど。

こんな事を考えてしまうほど、繊細な人間じゃないのに。


自分の心情に苦笑しつつ、七海も烏丸の待つ自宅に急いだ。
見上げれば東の空に覗いた月。
夏中味わって、舌に馴染んだ苦い蜜が消えない。

そろそろ指先は次のページを急かしている。
先に進む事を焦がれて。


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2013.09.25