林檎に牙を:全5種類
劇中の「Rose&Apple」は和隆さんとの交流企画です。


冷たい秋の夜が訪れても、暖かな灯りの店内はまだ黄昏に似た色。
淡いオレンジの下で笑い合うカボチャ。
マスコットキャラとしてお馴染みな羊のぬいぐるみは魔女の仮装。
「食べてくれなきゃ悪戯するぞ」とカウンターで客を迎える。

賑わうテーブルを周るスタッフも同じく。
いつもの黒いキャスケットでなく、イベント中だけジャックランタンの帽子。
店も制服もモノクロ調なので子供っぽくても色味のあった方が映える。

シフォンケーキ専門店「Miss.Mary」もすっかりハロウィン色。


「お待たせしました……」

ただし、拓真のテーブルに注文の品々を運んで来た遼二は私服姿。
仕事上がりでカボチャを脱いだばかりのふわふわ頭。
手櫛で直す仕草を見せるが、今更癖が付いたところで目立たない。
熱いコーヒーとカボチャスープ、サンドイッチが二人分。

街中が黒とオレンジに染まる10月の事だった。
バイトを終えたらそのまま店で夕飯を、と短時間だけのデート。
平日の彼らにはよくあるコースである。

職場で一回り年上の男と席を共にして、遼二は周囲にどう思われているやら。
その辺りが拓真にとっては心配だったが何の事はない。
仕事仲間に関係を訊かれても「学校の講師」と、遼二はあっさりした返答。
兼、恋人とは口の中だけで呟いて。


「お疲れさん。」
「えぇ……、イベントは稼ぎ時だから良い事なんですけどね。」

ライバル店も増えた事だし。

息を吐いた遼二が向かいに腰掛けて、そう一言付け足す。
労ってのアルコール代わりにコーヒーで軽く乾杯。
羊の描かれたカップが小さくキスを交わし、黒い水面が揺れた。


紅玉街は近隣の地域も含めて、乾学園卒業生の同業者が非常に多い。
それだけにパンや製菓の店はすぐ情報が耳に入ってくる。

今年の夏頃、駅の東方面にカフェバー「Rose&Apple」がオープンした。
昼は焼き立てパンと紅茶、夜は酒と顔を変える。
フランス仕込みの本格派メニュー、華やかな店員揃いで話題性が高い。
ハロウィンは秋の一代イベント。
此方の店も気合が入っているそうで、地元のフリーペーパーでも宣伝されていた。

ライバルなんて言いつつも、遼二だって本当に心配している訳ではない。
「Miss.Mary」はチェーン店だけに安定した客入り。
需要も違うので売上に影響は無い、ただ少し気になるだけ。


「……本当は行ってみたいんじゃないのか、早未?」
「どうでしょうね。まぁ、カボチャは好きなのでお菓子とかだけなら。」

「買って来い」とも受け取れる返事に、拓真は深読みか否か悩むところ。
スープのカップに散らした黒胡椒とパセリ。
たっぷり啜って、口の周りがカボチャ色に丸く染まる。

サンドイッチがあっても成人男性の夕飯にしては少なめ。
飽くまでシフォンケーキがメインなので、軽食しかないのだから仕方なし。
特に体格の良い拓真には足りないように見えるが。
それでも構わないのだ、まだデザートならバッグの中に。


「で、保志さん今日は何作ったんですか?」

形が変わってしまったバッグに視線を落として遼二が問う。
最低限の必需品にタッパーが加わり、何とかジッパーが閉まる大きさ。
実習がある日は一目瞭然。

別に隠していた訳でもないが内緒事は無駄と言われた気がした。
今日のレシピは、パンプキンチーズタルト。

カボチャとクリームチーズは濃厚で口溶け滑らかな甘さ。
キャラメリゼのリンゴが苦味で引き締め、さっくりとタルトが受け止める。
手間が掛かっているだけ少し贅沢な秋のスイーツ。


カボチャと聞いて、眼鏡の向こうで遼二が目を光らせた。
いつも眠そうにしているくせに。

「そんな美味しそうなの一人だけで食べるんですか?」
「二年になったら作るって。何だ、お前も食いたいならそう言えよ。」
「それもそうですね、じゃあ……」
「……ん?」

カフェは持ち込み禁止なので此処で分ける事は出来ない。
食べるとしたら拓真の家で。
その後、甘い展開も期待してしまうのは先走りとも言えず。

遼二も分かっているだろうに、頷いてみせてから手元を探る。
家に行きたい、と言葉だけで済むのに。
目当ての物を見付けたようで、フォークやスプーンの容器から一つを握る。
そうして切れないナイフを拓真に向けて。


「Trick or Treat?」

切っ先を突き付ける真似、まるで強盗の所業。
お菓子をくれなきゃ痛い目見るぞって?


「そうだよな、早未に可愛げを求めたのが間違いだった……」
「あ、溜息とかは要りませんから。」

がくりと肩が落ちても、拓真に要求を拒否する術など無し。
欺くしてお菓子は遼二の手中に。
天使を思わせる巻き毛も、ハロウィンの悪戯で小憎たらしい悪魔のように。

それでも良いか。

ただ甘ったるいだけじゃ物足りないのだ。
苦味に焦がれた舌は冷めかけたコーヒーをゆっくり喉の奥へ流した。
此の感情に何処か似ていて、愛おしむように。



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2013.10.21