林檎に牙を:全5種類
*R指定描写(♀×♂)

木苺の猟奇的な愛情。
ヤンデレなのは相変わらず、でも本音は隠したまま。
ベッドサイドの時計は既に新しい日付。
浴室には時計が無いので、マットレスを軋ませた頃に初めて気付いた。
濡れた髪は普段よりも一際濃い色。
黒に近くなった深紅を指先で直し、深砂は時計から視線を戻す。

見下ろした先には、部屋着姿で横たわった和磨。
触れて貰えるのを大人しく待ち望んで。
其の間も、甘く装われた彼女の身体に眼を射られたまま。


滑らかな曲線を包むのは淡い桃色の下着。
黒いレースが引き締まった艶を素肌に匂わせていた。
こう云う時、女の身体とは何よりも武器になる。
男の下着一枚では間抜けになりやすい。

本当はガーターストッキングも穿こうと思っていたのだが。
脱衣所まで持ってきておいて迷い、結局放置。
多分、見つけた和磨は残念に思うだろう。
レースの脚に口付けるのを好むのが彼の性癖の一つ。
何も言わなくても深砂は知っている。
湯を浴びようと戸を開けた時、和磨がどんな顔するやら。


先程髪を弄った所為で冷たく湿ってしまっている手。
体温を求め、和磨の胸のジッパーを鳴らした。
金属の綴じ目の下には薄紅の尖り。

留め金の外れた桃色から柔らかい乳房が零れた。
平たい胸と合わせ、鼓動が共鳴する。

部屋着のロングパンツは脱がせるのが容易い。
腰の結び目を解くと、大人しく脚が開く。
吊り気味の眼で見据えられて、和磨の翠の双眸が潤む。
柔らかい金茶の髪を指に絡ませると細い首筋は熱く。
顔を埋めて唇を落とした、直後。


唐突に身体を剥がして降り、深砂がスプリングを跳ねさせた。


何処かへと赴く脚には、先程和磨から奪ったロングパンツ。
細くても長身の彼と小柄な深砂では体格差が大きい。
余った裾を引き摺りながら裸足の足音。

一方、飾りを取り去った乳房は晒されたまま。
女性的な色香より、却って無造作に乾いて艶かしく映る。

そうして深砂が辿り着いたのは冷蔵庫。
閉じ込められていた冷気を浴び、目的の物を探し当てる。
赤く艶めいた木苺のムース。
昼間、気紛れで買ってみたものの先程まで忘れていた物。


ベッドに取り残された和磨はと云えば、複雑な面持ち。
起き上がるにも酷く居心地悪げに。
甘い空気を中断された挙句、下まで取られてしまったのだ。
ジップパーカー一枚きりの恰好。
裾を握り締めても脚が剥き出しになってしまっている。

恋人の仄白い背に送る視線は、困惑。

「あの……深砂ちゃん……?」
「和磨君良い匂いするんだもん、急にお腹空いちゃった。」
「僕よりケーキの方が大事なんだ……」
「違うよ、一旦休憩。」


短く言ったものの、本当は舌打ちしたい気分。
整えたばかりの濡れ髪を、深砂が腹立たしげに軽く乱す。

首に口付けた時に強く感じた、甘ったるさ。

肌の手入れを欠かさない和磨は果実の香りのクリームを好む。
あんな匂いで誘われては堪らない。
噛み千切りたくなった衝動を抑え、思わず離れてしまった。
まだ、"其の時"ではないと。

突飛な行動で取り繕って、欲望を誤魔化したつもり。
云わばケーキは代わりに過ぎず。
本当に食べたいのは、こんな糖分の塊じゃないのに。


「……意地悪。」
「どっちが?」

呟きに鋭く返したところで、和磨には益々解からなくなるだけか。
ベッドへ戻ると改めてケーキと向かい合う。
菓子職人の手で生まれた一つの芸術品。
固められたムースの泡の上、木苺が甘い深紅で惑わす。
けれど、どんなに美しくても崩さなくては味わう事が出来ない。

手掴みのまま深砂が容赦無く牙を剥く。
口の周りまで甘酸っぱい味に染まっても構わずに。
行儀は悪いが、綺麗な物を無残に壊すのは一種の征服感が満ちる。


「和磨君もいかが?」
「えー……、こんな時間に甘い物って。」
「じゃ、ラズベリーだけ。」
「うん……」

ジャムで煌めく木苺は宝石に似ている。
差し出した一粒を、和磨はすぐに食い付こうとしなかった。

流れ落ちた赤い雫を舐め上げる舌。
濃桃が這った後の唾液も甘そうでむず痒い。
そうしてから、深砂の指先ごと薄い唇で挟み込んだ。
溶けそうな程の口腔の熱。
咥えたままで木苺を噛み潰し、味わい始める。


血塗れの指を食べられている、錯覚。
深砂の心臓が一つ鳴った。


欲望の奥にある隠し持った願いは、食べる事にあらず。
本当は和磨に食べられてしまいたい。
壊れる程の痛みを与えられても良かった。
咀嚼されて、溶かされて、愛しい男の一部になりたい。
此の世から消える代わりに。

絶対叶えてくれないだろうから、言わないけど。
だって、彼には私を押し倒す術すら無い。
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2010.04.11