林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)
後ろ手でローションのボトルを探し当て、蓋は畳に転がった。
濡れない入り口を開く方法。
冷たい粘液が絡んだ指先は鍵に変わる。
遼二の背筋を下って辿り着いた双丘、その奥へ挿し込んだ。

拒んだりされなくても狭い事に変わらず。
掻き乱すにも神経を使って優しく、柔らかくしていく。

欲望を味わって、熱が灯っていたのは遼二の方も同じく。
もう片手で下腹部の腫れ物を包んだ。
擦り上げるうち溢れた蜜が密やかに鳴る。
前後で立て始める音は次第に滑らかさを増し、震えが走った。

両手でも足りず平たい胸の先に舌を伸ばすと、不機嫌そうに鼻を鳴らされた。
伸び掛けの髭が掠れてむず痒い所為。
寒さで尖っても、元から遼二は此処を弄られてもあまり悦ばない。


拓真の頭を抱え込む本当の理由は何だろうか。
縋り付くようでもあれば、表情を隠す為だけのようでもあり。
普段余裕ぶっている分か滅多に弱味を見せやしない。
荒い息遣いを繰り返すだけで、押し殺されるばかりの声。

ただ肉欲に溺れるだけの関係ではないのだ。
甘い台詞の一つくらい欲しいのに。

かと云って、今に至るまで拓真だって口に出来ず。
邪魔するのは照れ臭さばかりでもない。
意地が悪い遼二の事だ、腹を抱えて笑うに決まっている。
効果的な口説き文句があったとしてもどうせ自分には似合わないし。


ふと、秋一と七海の事が頭に過ぎった。
同性で恋人同士なのは、拓真が知る限り他に彼らだけ。
あの二人の場合は如何なのやら。

他所は他所なので参考にならないけれど。
長身で穏やかな秋一に、中性的でコケティッシュな七海。
寄り添えば大型犬と黒猫を思わせる。
人込みで手を繋いだとしても、小奇麗な男女にしか見えまい。

違和感が無いだけ、自分達との差を考えてしまった。
彼らならロマンスもさぞ似合うだろう。
友人同士の睦み事は想像し難いが、もっとスマートに進んでいる気がする。


「……今、他の事とか考えてませんか?」

拓真が判りやすいのか、遼二が聡いのか。
不意に頭上で低い呟き。
お留守がちになっていた両手までも解かれて。

こんな時に相手の機嫌を損ねてしまうとは失態。
中断出来る訳がないのに、今更。


次の手が分からず固まっていたら、再び遼二から抱き竦められる。
今度は捕獲するように強く腕を巻き付けて。
そのままシーツに倒れ込まれ、やっと見えてきた。

もう欲しいのだと。

拓真が上の体勢でも、何故か遼二は優位に立とうとする。
包みまで破いて避妊具を宛がってくれたのは良いが、焦れるばかり。
寝そべったまま着けようとするものだから巧く行かず。
冷たく貼り付くゴムと細い指に弄られ、奥歯を噛んで耐えた。


「長く持ちそうもねぇから……、安心しろ。」
「良いから、早く。」

短く急かされ、刀身にもボトルを傾けて粘液を纏う。
持ち上げた脚の間、滑る切っ先を突き立てて。
曝け出された喉が掠れた悲鳴を上げた。


やっと目に出来た表情はいつも痛々しい。
遼二にとっての情交は快楽よりも苦しさの方が大きいのだ。
どんなに濡らしても、何度目でも。
涼しい顔が圧迫感に歪んで、緩んだ目許が涙で濡れる。

泣くくらいなら離したって良いのに。
拓真だって、痛みを与えて悦ぶ趣味は無い。

しかし、そんな姿に欲情しないと言えば嘘になった。
絞られる方は熱くて息が詰まる。
それに無理してまで受け入れられる事実が嬉しかった。
あながち自惚れとも言い切れないだろう。


蕩かしてあげられたら良いのに。
苦悶の表情を見下ろしながらも逝く時に願う事。
何度痛みを重ねても、いつか届きたいと。




「保志さんの腕次第じゃないですか、そこは?」

恥を忍んでそう呟いたら、やはり返答は憎まれ口。
折角気遣いしてるのに言ってくれるものだ。


一眠りしてシャワーを浴びた後の事である。
その頃となれば、濡れ髪の遼二はさらりと冷たくなって元通り。
時間の感覚が曖昧になるアパートの部屋。
小さな世界の外では、雪明りの所為で仄白い薄闇が降り始める。

「で、僕は放送禁止用語とか言うようになれば良いんですかね?」
「いや、そこまでとは言ってねぇだろオイ。」

拓真の真意は伝わっているのかいないのか。
身体を繋げても、片想いの焦れったさ。
自分一人だけでは嫌だと言いたかっただけなのに。
腕次第との台詞の時に「努力する」とでも答えるべきだったのか。


その話題で留まっているのも何だか憚られて、口を閉じた。
此処で押せたら変わるかもしれなくても。
肝心なところになると、どうも腰が引けるのは拓真の悪い癖。

それより、小腹が空いて動きが鈍くなってきた。
睡眠も色欲も満たされた後に求める物。
暗くなっている時間帯なら、夕飯の支度を始めても可笑しくない。
タオルを首に掛けたまま拓真が立ち上がろうとすると。

「じゃ、ケーキ食べましょっか。」

何の冗談か聞き間違いか。
台所から遼二が出した提案に、面食らったのは言うまでも無し。


冷蔵庫で眠っていたガトーショコラは実習の品。
ビターチョコレート一色の円が切り分けられ、尖った三角を皿へ。
沸かし立てのコーヒーを添えて。
素っ頓狂な食卓は、まるでお茶の時間である。

「……夕飯がコレか?」
「まさか。とりあえず、すぐ食べられる物が欲しかったので。」

夕飯は簡単な物にしようと思っていたし、少しくらい待てば良いのに。
よほど我慢が効かないくらいの空腹なのか。
どうせケーキは早く片付けなくてはいけないのだ、別に構わないが。
炬燵の上で開かれるお茶会に拓真も呼ばれる事にした。


遼二が茶漉しに粉砂糖をスプーン一杯。
軽く振るだけで、ガトーショコラの上には雪が降る。

しっとりと濃いチョコレート色に施される化粧。
雪に覆われる冬の街と重なる。
畏怖すら覚える美しさで、表情を変えてしまう真白。


平和そのものであっても部屋の中だけ。
今日一日アパートを横切る車の姿は見えず、静まり返った暗闇。
状況が変わるまで、まだ暫くは二人きり。

このまま世界が滅んでも良い?
詩人ならば、そんな物騒な事を恍惚と詠うだろうけど。

「死を待つだけの監禁状態って、恋人同士でも本性出て醜い争いになりそうですね。」
「そうだな……、お前はそうやって可愛くねぇ事言うよな。」

此処に居るのは腹黒のリアリスト。
崩れない涼しい口調に、拓真は思わず納得してしまった。
死を共にする幸福なんて女々しい事、間違っても遼二が考えるものか。
コーヒーで喉を潤して、変わらない空気。


「僕は世界滅亡とか馬鹿な発言しませんよ、まだ生きたいですし。
 ……じゃなきゃ、保志さん困るでしょ?」

付け加えられた一言は、アパートに残ると口にした時と同じ響き。
拓真を独りにしたりしないと。
そう受け取っても良いのだろうか、果たして。

正解だと告げるのは言葉でなかった。
向かいから遼二が身を乗り出し、息の掛かる距離まで近付く顔。
コーヒーが香る唇を奪われた。
こうなれば諦念するしかあらず、拓真は大人しく目を瞑る。

砂糖にも似た雪で何もかも隠された、冷たい夜。
此処だけは熱の苦味で痺れそうに。


*end


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2014.02.28