林檎に牙を:全5種類
シフォンケーキ、ドーナツ、片手で頬張れるクレープから淑やかに味わうケーキまで。
チェーン店の揃う駅ビル、ちょっとした休憩で甘い物を扱う店は幾つもある。
学校帰りに小腹を空かせた学生達には目の毒。
少ないお小遣いで遣り繰りしながらも、制服姿が集う寄り道スポット。

土産コーナーの隅に構えるアイスクリームショップもその一つ。
開いた財布の小銭を数えて列に並ぼうとした梅月は、ふと足を止めた。
フレーバー覧の前、自分と同じ制服を見つけて。

瞬間、常に保たれた涼しい表情には一滴の苦味。


冬服と比べて軽く薄くなったとは云えど深紅のスカートは初夏に目立つ。
皆が淡い色を好んで纏う季節の中、揺らがない信念のように。
ただでさえ甘い茶系の豪奢な巻き髪は華やか。
否応なくも梅月が毎日見ている背中。

一つ前の席に座る相手を間違う筈もない。
妙に懐かれて苦手なクラスメイト、犬飼が其処に居た。


校則が緩めの制服は着こなしに個性が表れる。
地味な部類でも艶々の黒髪を二つ結びにした梅月は模範生の姿勢を崩さない。
クリーム色のサマーニットベストは皆が持っている学校指定。

一方、存在感のある犬飼が派手なのは髪だけでなく。
白いブラウスだけなので薄く下着が透けている。
然程スカートは短くないが、ストッキングに包まれた長い脚が艶っぽい。
同性でも少なからず動揺してしまうのだ。
肌馴染みが良い女子校の外、人が多い中でもちらちら視線を集める。

大人びているだけにアイスクリームとの組み合わせがまた意外である。
店の雰囲気は勿論、どれもがポップで可愛らしい色ばかり。
優雅にコーヒーを啜っている方がよっぽど似合いそうなものだが。


それにしても、自分まで立ち止まったまま動けなくなっている状況は如何か。
犬飼が居たところで構う事はないだろう、別に。
可笑しな事に気付いてしまって梅月は思わず溜息を吐いた。

学校で軽く別れを交わしてから、ほんの一時間足らず。
何となく気まずいのは其の所為だけでなくとも。

電車に詰め込まれて運ばれてきた人々が入り混じる、駅と云う場所。
目を離した一瞬でそれきりになってしまいそうな。
それは孤独に包まれる隙を作る。
偶然でも見知った顔に触れられて、微かでも安堵を与えたのかもしれない。


改装されてからまだ数年の建物は新しく、何処も綺麗な造り。
滑らかなタイル張りの床は水を思わせる冷ややかさ。
靴跡に負けず丁寧に磨かれているらしく、弾かれた光が魚を錯覚させた。

たった2メートル先のアイスクリームショップが向こう岸のようだ。
色の違うタイルに一歩、そのまま踏み締めて渡った。


「やっと到着?」

見透かしていたのか、ローズに塗られた犬飼の唇が三日月を描く。
どうやら気付いていたらしい。
美しいのは後姿だけでなく、正面切れば咲き誇る花の貌。

「……やっぱ帰ろうかな。」
「え~、やだ寂しいわ。折角梅月さんに逢えたのに。」

美少女が好意的なのはそう悪い気分になるまい。
ただ、警戒心の強い梅月からすれば「嬉しい」なんて言葉は出ない。
何か裏でもあるのではとすら。
自分とタイプの全く違う人間だけに、意図が読めず無条件に受け入れ難く。

小柄で真面目な梅月と大人びて華やかな犬飼は対照的。
並んで立てば、まるで兎と狐の差。


「ところで、犬飼さんアイス決まったの?」
「まだね、ラブポーションかチョコミントで迷ってて。」
「ダブルにすれば……」
「小銭の持ち合わせがなくて。」

なるほど、事情は大体察した。
小銭だろうとも惜しむ気持ちは分からないでもないのだ。

しかしいつまでも店先で立ち話している訳にいかず。
それなら、と梅月の頭に浮かぶ提案が一つ。
言葉にするのは躊躇いもあるのが正直な話だったのだが。

「私チョコミントにするから……、一口で良いならあげる。」
「あら、本当に良いの?」

犬飼の嬉しそうな表情に複雑な気持ちも少々。
苦手と認識しているのに、自ら距離を縮めてしまって如何するのだろう。

いつぞやキャンディをあげた時の事を思い出した。
正に餌付けしている気分。
まさか、懐かれている要因があれだとは考えないけど。


やれやれ、それにしても漸く決まったか。
これから日毎に暑くなる季節、アイスクリームショップも客が増える一方。
今のうち注文を済ませてしまおうと足早に列へ向かおうと。
その手前、犬飼に腕を引かれた。

「今月誕生日だからバースデークーポンあるわよ私、お連れ様1名まで可。」

半袖ブラウスの裾をきゅっと握る、爪先にオペラピンクが艶めく手。
クーポンページを開いたスマホの画面を向けて微笑む。

財布の紐が固い梅月には有難い話。
しかし断る理由など特に無いのに、素直に喜べないのは何故だろうか。
此処まで来て苦手意識が邪魔をする。


「あ……、ありがとう……」

ぎこちなく礼を口にすると、店員へ向き直った時は既に何でもない顔。
他人ならばこうも冷静になれるのに。
まだ"友達"と呼べる間柄でないから、固い空気。

アイスクリームと一緒に溶けてしまえば良いのに。


*end


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2014.06.15