林檎に牙を:全5種類
陽光が差せば柔らかな蜂蜜色、雨に打たれたら濡れて艶々。
昔々、絵本で見た天使の巻き毛を思い出す。
背中に羽など無くとも、重たい漆黒を纏っていても。


教室で窓際の最後尾は朝日が少し眩しくて瞼が半分落ちる。
三日前に腰を落ち着けたばかりの席、昕守進之介は悠々と欠伸を一つ。

転勤族の下に生まれた子供は風来坊。
本家はあれども、物心ついた頃から西へ東へアパート住まい。
中学校に上がってから既に3度目の転校。
壇上で「宜しくお願いします」と頭を下げるのも慣れ切ってしまった。
男子は学ランの学校が多いので今回も制服を替える必要なし。

大抵急ぎで席を作るので、転校生は一番後ろ。
加えて、ただでさえ二年生の中でも屈指の長身なので仕方あるまい。
後ろに人が居たら黒板が見えなくなってしまう。


そして、クラスで進之介と肩が並ぶ身長の男子はもう一人居た。
首を動かすまでもない目の前、金色のふわふわ。

進之介が転校してくるまで最後尾は彼の特等席だったのだろう。
長身以外にも、巽和磨はクラスで一番目立つ存在である。
何しろ金色の巻き毛に緑の双眸、どちらも本物。
外国の血を引いているらしいが此の容姿でも名前だけは日本人。


駅前は賑やかなビル街でも、離れれば車が無いと生活できない程度には不便。
学校の周辺など実りの多い田畑や滾々とした川に囲まれ、実に長閑。
進之介にとって紅玉街の印象はこんなところか。
お陰様で米も野菜も美味しくて、食道楽の彼には嬉しい限り。
街中でもちらほらと天然温泉まで湧いている。

そんな田舎の学校に、和磨は何処か浮いて見えていた。

前の席なので一日中否応なく視界に入ってくる。
別に気になる訳じゃないが、あの金色は別世界じみて映るのだ。

癖っ毛と云うなら進之介も同じ。
ただしスタイリング剤が苦手で飾り気なく、乱れても平気な黒髪。
体格と不釣り合いに面差しもまだ少し幼い。
黒瑪瑙を思わせる目は、ぼんやりしている様が良く似合う。

事実、今だって。
授業終了の鐘が鳴り響いてからも何となく動けずにいた。
気怠さをずるずると引き摺る休み時間。


不意に、小動物が跳ねるように金色の毛並みが揺れた。

此方へ振り向いたエメラルドの瞳。
今まで交差する筈の無かった黒と緑、繋がりが生まれる。


用件は簡明率直、和磨が何かを拾って差し出す。
訝しむまでもなく見慣れた色。
掌には、進之介が愛用しているひよこ柄のシャーペン。

いつの間に、なんて抜けた事を思っても仕方あるまい。
快適な暖かさが保たれて眠くなりそうな時間。
黒板の文字など既に写し終えて、ずっと教師の話を聞き流していたのだ。
ペンが床に転がっていても気付かなかった。

「……可愛い物好きだね、昕守君てば。」
「人の事言えるか?」

金色の少年は、訛りもなく至って滑らかに余計な一言。
進之介の口から思わず呆れが零れ落ちた。


ペンなんて適当に選んだ進之介に対し、和磨の方はピンクのウサギである。
長い耳が尖っているノックボタンなど押しにくいだろうに。
それどころか机の私物一式が可愛らしいデザインばかりなのだ。
決して派手ではないが、どう見ても女子の趣味。

物腰が柔らかいと云うか、暇さえあれば手鏡を覗いている辺りも。
陽射しを反射してくるので目が痛い。

生白く細い首に、大きくてもあまり骨張りの無い手。
垂れ気味の目を縁取る睫毛も長く、確かに甘い顔立ちには違いない。
後ろで観察して三日目。
進之介にとって、和磨の印象は「変な奴」で固まっていた。

鬱陶しいくらい視界に光を持ち込む存在。
興味があろうが無かろうが、それこそお構いなしに。


「まぁ……、ありがとな、和磨。」

曖昧でも笑ってしまったのは本当。
指先から転がったペンを受け止めて、返した呼び名。

芽が顔を出したとしたら切っ掛けは此の時だろうか。
小さすぎて気にも留めず、花も実も未知数。
青い青い、まだ観察三日目。



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2014.06.26