林檎に牙を:全5種類
此の街の夕暮れは何処となくノスタルジーが匂い立つ。

中学校の周辺は田畑が広がり、河原からは重く繁る緑や水の音。
車が通っても、涼風に洗い流されていくようで空気は悪くなかった。
そんな景色を赤く染め上げながら、燃え落ちる今日の太陽。
遠く四方を囲む山脈に消えていく。

誰彼時、空は昼から夜へとゆっくり表情を変え始める。
一日の中で進之介が最も好きな時間。

「昕守君ぼんやりしてどうしたの、お腹空いた?」

隣を歩く和磨が怪訝に問い掛けてくる。
浪漫を壊す一言だが、核心を突かれては文句も言えやしない。
事実、今は空腹になる時間でもあった。


途中までなら帰り道も同じ方角。
河原から浸食されそうな緑、清流に耳を澄ましながら橋を渡れば住宅地。
古い家ばかり並んで昭和から足を止めた錯覚すらも。
こうした物静かな雰囲気は決して嫌いでなく、寧ろ居心地良かった。

ただ問題は、やや寂れすぎて寄り道出来るような場所が少ない。
昔賑わっていたと思われる小さな商店は、シャッターで閉ざされて無音。

学校から家までなので大した距離でないが、空きっ腹を抱えて歩くには長い。
もう少しでコンビニに辿り着くが、何だか飽きてしまった。
何処にでもある同じ味しかないなんて退屈。


「じゃあさ、コンビニの先にラーメン屋あるけど行ってみようか。」
「お前、ラーメンとか食うんだ……」
「え、何、そんな意外?」
「何かこう、スタバばっかり寄ってそうな気がしてた。お洒落ぶって。」

いい加減、此のナルシストに対する扱いも覚えてきた。
金の髪に甘い容姿は生まれ持ったものでも胡坐をかいている訳でない。
鏡や櫛を手放さずに自分を磨く日々。
美しくあろうとする事を怠らず、「努力の賜物だ」と胸を張る。

ある意味、和磨のそう云う部分を「凄い」と思っているが。
身なりなんて最低限整っていれば構わない進之介とは違う生き物なのだ。


「昕守君……、この辺じゃスタバなんて駅ビルにしか無いって。」
「あ、悪ぃ……」

笑いもせず怒りもせず、和磨は神妙な表情で一言ぽつり。
こうも静かに返されると却って戸惑う。
別に此処を田舎だと貶しているつもりなんか無くても。

仕切り直して、二人連れ立ってラーメン屋へ。
空気を変えねば不味くなってしまう。



住宅地を抜けると、コンビニを始めとして一気に店が増える。
ガソリンスタンドは声が飛び交い、ガラス張りの美容院にはお喋りする女性達。
小さい所が多くて細々とした印象でも活気はそこそこ。
夕暮れなので尚更そう見えるのだろう、客を迎える明かりは何処も暖かい。

そんな中、噂のラーメン屋はひっそりと店を構えていた。
隣のイタリアンの方が強い存在感で、意識しなければ通り過ぎてしまいそうだ。
やたら可愛らしいブタの暖簾を捲って覗き込む。

やはりあまり大きくなく、カウンターの他にテーブル席は3つだけ。
しかし夕飯時と云う事もあって半分以上が埋まっていた。
混んでいるなら美味い証拠、進之介の喉が鳴る。
そして何故か、和磨と云えば「あ」の形で口が止まったまま。


「いや、中に友達居たからちょっとね。」
「お前、友達居たんだ……?」

侮辱にも当たる一言だが、これまた進之介にそんな意図は無く。

少なくとも転校してきて以来、和磨が他の生徒と交わる様子は見られなかった。
一人での行動が苦にならないとクラスで貫き、ただでさえ変わり者。
きっと昔からこんな感じなのだろうと思っていた。
じゃれ合うような相手が進之介以外にも居たとは驚き。

此れが女子同士なら嫉妬もするのだろうか。
何の事は無かった、単に感心してしまっただけの話。


引き戸を開けば、ラーメン屋独特の匂いが胃袋を刺激する。
威勢が良い店主の掛け声とスープの湯気。
壁も席も古びてはいるが、何だか落ち着く空間だった。

ラーメンや牛丼の店は男の人口密度が非常に高い。
確かに、店内には同じ学校らしき学ランやジャージ姿が何組か。
知り合いが居ても可笑しくはないだろう。
誰も皆、麺を搔き込む事に夢中なのであまり顔は見えないが。

「ほらあれ、ジャイアンみたいなのと綺麗な小池さんみたいなの。」
「……ぶはっ!」

耳打ちされて進之介は思わず吹き出してしまった。
何しろ、あまりに的を射る特徴。
五分刈りの大柄と天然パーマで眼鏡、対照的な二人組。

和磨が手を振ってみせた男子の名は、一ノ助と遼二と云った。


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2014.07.16