林檎に牙を:全5種類
カウンター席に並んだ後姿は食事の真っ最中。
右隣は丁度二つ空いており、和磨が無遠慮に腰を下ろす。

「部活どしたのイノ君、早いね。」
「場所取りで女子に負けた。」
「あー、男女別で練習するにはちょっと狭いもんね……」
「ズマもあいつらには逆らうなよ、マジおっかねェ。」

一言の断りも無しに着席したにも関わらず、短い会話は流れるように。
あまりに自然で進之介は思わず面喰ってしまう。
和磨が変わり者だと重々承知していたつもりだが、本当に意外な組み合わせ。

ただ背が高いのは進之介も和磨も同じだが、一ノ助は全体的に大柄。
筋肉で膨れた手足や胸が布越しでも判る。
よほど酷使されたのか、擦り切れだらけのジャージが若干窮屈そうだった。
体格の良さに加え、短い髪で荒っぽい印象。
凄まれたりしたら大抵の相手は萎縮してしまうだろう。


「すみません、替え玉宜しいですか?」

不意に、店主に向けて申し出る声が会話を裂く。
挙手したのは一ノ助の左、眼鏡の男子。
今まで黙々と麺を啜っていたが、最後の一本まで平らげたらしい。

「えっ、りょん君まだ食べるの?」
「あァ、俺と同じくらいは食うんだぜコイツ。」
「此れが夕飯ですからね、今夜は僕一人なんで。」

長身揃いの面々に比べれば遼二は小さく感じる。
和磨も柔らかい髪だが、此方は無造作でもお洒落に見える鳥の巣じみた頭。
癖毛に眼鏡でラーメンの丼となれば漫画のキャラクターを彷彿と。
尤も丸っきり似ている訳でなく、目元が涼しい細面。
あのナルシストでさえ「綺麗な」と形容詞を付け加えるだけあった。


「ところで、そっちの君……、座ったらどうです?」

蚊帳の外で立ちっぱなしの進之介を、遼二の一言が招き入れる。
別に居心地悪くしていた訳ではないのだが。
和磨達も彼らなりに築いてきた空気があるのだろう、つい傍観してしまった。

お入りと言われるまでもない。
重い鞄は足元へ、自由になった手で椅子を引いた。


「じゃ、俺は豚キャベツラーメンで。」
「あぁ……、そうきたか昕守君……」
「え、だって暖簾でめっちゃ自己主張してたじゃん豚。」
「いやいや、何でも無いよ?僕は醤油ラーメンね。」

初めての店はメニューを開くだけで楽しい。
迷いつつ注文も完了して、到着を待ちながらお喋りの時間。

初対面同士で簡単な自己紹介を済ませた後。
転校して間もないと云えど、二年生の進之介が見知らぬ顔なのは当然の話だ。
一ノ助も遼二も三年生でクラスメイト同士。
やはりどう見ても対照的な二人だが、そこは自分と和磨もお互い様か。


そんな彼らと進之介を繋ぐ、和磨との接点も意外な物だった。

幼い頃から家族でマンション住まいの和磨と、大家の息子である一ノ助。
年も一つしか変わらないので10年の付き合いになる幼馴染らしい。
どちらも妹しか居ない所為もあって兄弟にも似た距離感。
昔は中庭で虫取りをしたり、遠くまで自転車を飛ばして冒険していたと語る。

「さっき部活って言ってましたけど……、柔道とか?」

何処に所属しているかは知らなくても、一目瞭然で運動部。
口にした推測は割と自信があったのだが。
進之介の問い掛けを耳にした途端、和磨が堪え切れずに笑い出す。

「違う違う、バレー部。柔道ってのはよく言われるけどね。」
「何で皆揃いも揃って間違えンだろな、バレーだってデカイ方が有利だろ。」
「ジャイアン似だもんね、イノ君。」
「やめろよ……、褒めんじゃねェってズマ、奢らないからな?」

何故か、一ノ助は腹を立てるどころか満更でもない反応。
和磨だって褒め言葉のつもりでも無いだろうに。
嫌味もポジティブな意味で受け取るなら羨ましいくらい幸せな人だ。

それにしても、バレー部の女子とやらはそんなに恐ろしいのだろうか。
一ノ助の方がよほど怖そうな外見なのに。
此れだけ屈強でも追いやられて、ラーメン屋に逃げ込んでいる現状。
まるで休日に家で居場所が無い父親である。

「何だろう、俺、イノ先輩のこと嫌いじゃないかもしれない……」
「褒めたって奢らねェっての。」


そう云えば、和磨は何にも所属してないのだろうか?
進之介が訊ねてみたら「美術部」との回答。
場しのぎの話だったので聞き流すところだったが、ふと引っ掛かる。

「ちょい待て和磨、お前ずっと俺と帰ってるけど部活出なくて良いんかい。」
「大丈夫、うちは必須課題さえ提出すれば自由参加だから。」
「僕も美術部です。毎日出なくて良いのは楽なんで。」

二杯目を頬張りながら横から遼二も頷く。
若しや、あの学校の美術部員はこんな者ばかりなのだろうか。

入部の動機は不純なようだが、進之介は同時に納得もした。
和磨も遼二も細身でさらっとした印象。
と云うか要するに、あまり体力があるとは思えない。
汗水垂らしてスポーツに励むより、静かに筆を握っている方が似合いそうだ。


「豚キャベと醤油、お待たせしました!」

そんなことを考えている間に、ラーメンの丼が目の前に。
中華の店は活気も美味の一つ。
山盛りの肉と野菜、澄んだスープに湯気が踊って鼻腔をくすぐる。
空腹を思い出して「いただきます」と手を合わせる。

申し合わせた訳でも無いのに、こうして集まる場所がラーメン屋。
種類が違っても流石男子と云うべきか。
そんな四人で熱々の食事を囲むのは、進之介には何だか可笑しかった。

こうした気分も今だけの刹那。
冷めないうちに、割り箸の先で野菜炒めを突き崩した。



「何だよ、このラーメン……美味いけど食っても食っても減らねぇ……」
「引っ掛かったね、昕守君てば。ソレ咀嚼するだけで疲れるんだよね。」
「麺もキャベツも固茹でだからなァ、肉も分厚いし。顎鍛えるには良いんだけどよ。」
「あ、残すなら僕が食べてあげても良いですよ?」

勧められた訳でも無し、進之介が自ら選んだのだから文句も言えやしない。
知りながら注文の時に黙っていた彼らは意地悪でも。
口一杯ではどうにもならず、吐けない溜息と共に呑み込んだ。


*end


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2014.07.20