林檎に牙を:全5種類
ガラスケースのお菓子はどれも見ているだけで心奪われる。
云わば、職人の手で生み出された芸術の祭典。
苺やラズベリーの艶々した赤、ゼリーは透き通った青、カスタードの黄色。
明るいパステルカラーがグラデーションで並ぶマカロン。
此処に溢れる甘い色彩は唾液を誘う。

そんな中、チョコレートを取り扱う一角は少し違った。
まるで一粒一粒が褐色の宝石。
ダークトーンで統一されて、大人びた華やかさ。

手を伸ばすのも躊躇ってしまい、触れるなんて恐れ多い。
きっと特別な味がするのだろうけれど。


「あっ、惑星チョコ安い!」

綺麗な紺藍色の缶も、無骨に貼られた赤いシールで台無し。
そうして記された「50%オフ」の文字。
ワゴンセールは庶民の味方。
財布の紐を緩めて和磨が飛び付けば、進之介と一ノ助は小さく苦笑した。


「フードコートで食べよっか、家まで待てないでしょ。」

隅っこのテーブルを指され、一も二も無く賛成。
空きっ腹を抱えた三人が席に着く。
駅前デパートの地下街は食べ盛りの学生には目の毒だ。
食材から惣菜、甘い物、物産展まで美味そうな物ばかりが揃う。

野菜だけ買うつもりが、どうしてもパン屋の前を素通り出来なかった。
進之介の提げる袋にはバターが香るクロワッサンも。
誘惑に負けたところで誰も責められまい。


共働きで多忙の為、母に代わって進之介が夕飯当番を受け持つ事がある。
作るのも食べるのも好きなので大して苦労しない。
ただのおつかいなら近所のスーパーでも良かったのだが。
一ノ助や和磨と遊びに来ていたついで。
そろそろ帰宅の時間なので、此処で済ませてしまおうと立ち寄った。

何だかんだで休日も彼らと過ごすようになってきた。
気軽な格好ではあるが、長身揃いなので私服だと中学生に見えない。

ユニセックスのカジュアルを好む進之介はピンクも着こなす。
髪も瞳も色素の薄いので、和磨は可愛らしいシャツがよく似合っていた。
厳つい一ノ助も色褪せたパーカーに包まれて身体の線が隠れる。

窮屈な黒い詰襟の制服よりも肩の力が抜ける。
三人とも色々と緩んだ休日。


「しっかしまァ、半額でもチョコでその値段って高ェな。」
「だって前から狙ってたんだもん。買い食いなら昕守君だってしてるでしょ。」
「俺は夕飯の買い出しに来たんだよ、お釣りで好きな物買えって言われてるし。」

財布を開いたのは三人とも一緒でも選択はそれぞれ。
小銭で腹が膨れる物を吟味した一ノ助と進之介に対し、和磨はゼロが一つ多い金額。


惑星を模ったボンボンショコラは数年前から出回り始めていた。
バレンタインフェアでも一際目を引く代物。
何処が発祥か知らないが、幾つかのメーカーが売り上げを競っている。

基本的には一粒500円の高級品。
なるほど確かになかなか手が届くまい、学生なら尚更。
それだけに売れ残ってしまうのも納得出来た。
半額の理由は賞味期限か。

青い地球、輝く金星、缶を開けば太陽系惑星の数々が並ぶ。
お菓子は舌だけでなく目でも味わう物。
宇宙に思いを馳せさせる美しさに、溜息が零れそうになる。

「和磨、お前って星とか好きなの?」
「え、空とか宇宙とかさっぱり興味無いけど。」
「……無いのかよ!」
「あっ、でもセラムンは大好き。だから月が無いのは納得いかない。」
「いや、月は衛星だろ。」

何の気なしに問い掛ければ、いつも予想外の返答。
和磨と会話すると進之介は忙しない。
相変わらず変な奴だ、お陰で退屈しなくて済んでいるけれど。



「ところでさ、二人ってセーラー戦士なら誰推し?」

それぞれ戦利品に齧り付き、味わっていたところに和磨が一言。
あまりに不意で、進之介も一ノ助も思わず口が止まる。
これまた妙な質問が飛び出したものだ。

「話とかはよく知らねェけど、青い子は可愛いな。」
「あ、俺も右に同じ……、イノ先輩と女子のタイプ同じとは。」

10分の1の確率にも関わらず思わぬところで意見の一致。
味わっていたパンの欠片を呑み込んで同調。
進之介が小さく挙手すれば、一ノ助が妙に引き締まった顔でハイタッチ。

何だか一瞬で解り合えた気がする。


「あー、まぁね……、昔から亜美ちゃんって男性人気凄いしさ。」

訊ねてきたのは自分のくせに、和磨の方は何故か歯切れ悪く。
チョコレートを口に含んでいる所為だけでもない。
何かを悟ったような小馬鹿にしたような。
やれやれとばかりに両手を広げ、淡々と言葉を続ける。

「男って好きだよねぇ、地味で大人しくて可愛い学級委員長タイプって。」
「否定はせんけど……、引っ掛かる言い方だなオイ。」
「あと「付き合ってくれそう、言う事聞いてくれそう」とかでしょ。」
「ちょ、何でそこまでディスってくんだよ……!」
「だってさぁ、何かこう、性欲だけで選んでそうな感じがしたもんで。」
「そこは……、いや、思春期なんだし……」

此処を突かれると、反論出来なくなるのは仕方あるまい。
男子中学生なんてそんなものだ。
しかし、こうも余裕ぶって言われると無性に腹立たしくもあり。

どうやら和磨の好みでないのも解ったが、それなら誰が良いのやら。

「まこちゃん。長身コンプレックス乙女って可愛いし、料理好きだし。」
「あぁ、緑の子な……そーいや、そんな設定だったか。」
「あと、変身シーンのお尻がエロくて素晴らしい。」
「お前も性欲バリバリじゃねぇか!」


そこで終わっていれば進之介も和磨も笑い話。
故意で無いにしろ、そうさせなかったのは一ノ助だった。
少し考えてから首を傾げ、呟きを零す。

「それってよ、つまり進ちゃんの女版じゃねェ?」

今度こそ進之介は食べかけのパンを吹き出すところだった。
和磨も同じく、緑の目を真ん丸にして固まる。

何て事を言うのだろうか、此の人は。

「全部当てはまるだろ?何だよズマ、進ちゃん大好きじゃねェか。」
「やだ、違うもん!え、あれ、ちょっと待って……全部ってお尻の件も?」
「イノ先輩、俺の事そんな目で見てたんすか……!」


中学生同士のじゃれ合いも他人事ならば面白い。
フードコートの空気が和やかになる。
彼らを見守る視線は飽くまで温かく、くすくす笑いを誘う。

否定に忙しくても今だけの話。
どうせ学校で顔を合わせれば、また引っ付いて一日が過ぎるのだろう。

夕方が近付いてきても地下街には関係無し。
太陽なんて一筋すら届かなくたって、此処は明るい場所。
週末の午後は賑やかに過ぎていく。



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2014.08.15