林檎に牙を:全5種類
日焼けが気になる訳じゃなくても、足が勝手に木陰を選んでしまう。
一歩でも抜ければ、シャツの背中に陽射しと蝉時雨。
容赦なく襲われて汗が滲んでくる。

真夏の昼下がりは買い物すら一苦労。
片手にコンビニの袋を提げて、拓真の影が地面に伸びた。


ちょっとそこまで、の距離がやたら遠くなる夏と冬。
アパートの周辺は住宅街なのでただでさえ店が少ないのだ。
焼けたアスファルトをサンダルの足で行く、帰り道。

ペットボトルのレモネードで喉を潤しても、あまり気分は晴れず。
自宅から持参してきた物なので既に温くなった頃。
いつもならコーヒーなのだが、熱中症対策に向いてないらしい。
食品に携わる仕事なので栄養学の知識なら多少はある。

アパートまで辿り着けばゴール間近。
大切に舐めていたレモネードを飲み干して、あと一息。
階段を叩く足が少しばかり早まった。

陽射しに耐えかねたばかりじゃない。
置いてきた部屋の中、待ちくたびれているであろう顔を見に。



「……ただいま。」

一人暮らしなので不要な筈の言葉。
返事は無かった、そもそも大して期待していないけれど。

それでも崩れやしない寝息。
来客は我が物顔で横たわっていた。
夏休みだからと云って、すっかり入り浸りの遼二。


網戸から風が流れ込んでも、そう新しくもないアパートの一室は蒸し暑い。
遠くなった蝉時雨に混じって何処かの部屋で風鈴。

尤も、物音程度で遼二は目を開けない。
長座布団の上に丸まって、猫に似た寝姿を晒している。
拓真が出掛ける前から微睡んでいたので、分かり切っていた現状。
勝手にクーラーを点けてないだけ遠慮しているか。

大事な眼鏡は外しただけ、畳みもせず枕元に。
モノクロのグラフィックTシャツは無防備に捲れてしまっていた。
浅い呼吸で規則正しく上下する、筋肉の薄い腹。


幾ら暑くても寝相の悪さに苦笑した。
流石に裾を直してあげようと、拓真が手を伸ばして数秒。

黒々と揃った睫毛が震える。

気付いた次の瞬間には、見上げる目と視線が交差した。
間が悪く、裾を握っていた時に。

「起きるまで待てないんですか……」
「脱がしてねぇよ!」

可愛げがあるのは寝ている時だけだ、本当に。
「お帰りなさい」でも「おはよう」でもない最初の一言。
ともあれ、退屈も此れで終わり。


「何か飲むか?アイスでも良いけどよ。」

汗を流しただけ水分が欲しくなってくる。
台所に立つ拓真が問えば、目を擦りながらも遼二が指したのは冷凍庫。
仰せのままにフルーツのアイスキャンディを2本。

適当に引っ掴んだのでフレーバーはお楽しみ。
遼二がグレープを選び、残ったオレンジは喜んで頂いた。

最近レモネードばかり飲んでいた所為か、柑橘類に慣れ親しんできた。
袋を破って早々、拓真がオレンジに齧り付く。
太陽を浴びて染まった果実の酸味。
舌に刺さりそうな氷の塊も、体温で溶けて甘く沁みる。

遼二の方と云えば、実のところまだ眠いのかもしれない。
眼鏡を外したままグレープを咥えて何処か夢うつつ。
口に含み切れなかった部分から雫が滴り、唇を濡らしていた。


早く食べないと水に変わってしまう。
アイスキャンディで口が塞がって、無言が続く。

「そっちも食べたいです。」

残り半分ほどになったところで、やっと遼二が呟いた。
違うフレーバーを選んだらよくある話。
棒を摘まんでいた手が引き寄せられて方向転換。
元から拒む理由もなく、オレンジの欠片は遼二が噛み砕いた。

拓真の方も、遼二に放置されていたアイスキャンディが少し心配だった。
果汁が落ちそうでタオルを渡そうとしたが、杞憂だったらしい。
服まで濡れる前に、大粒の雫は舌舐め擦りで拭われる。

そうして「交換」と言わんばかりに差し出される。
遼二の唾液で溶けかけたグレープ。

「嫌ですか?」
「そうじゃねぇけど……、気恥ずかしいと云うか……」

果汁で艶めく唇を直視出来ず、思わず拓真が下を向く。
間接キスにしては濃い。
外では絶対に出来ないだろう、こんな事。


不意に、頬に冷気が押し当てられる。

何事かと逸らした視線を戻せば、遼二の仕業。
「早く」と催促するようにグレープの先で頬を突いていた。
食べさせようとして目測を誤ったのだろうか。

どうやら、そんな考えは間違いだったらしい。
果汁で濡れた頬を舐め上げられた。

遼二が覗かせた舌は、グレープに染まって赤紫。
きっと甘いのだろう。
喉が一つ鳴って、優しく噛み付いた。


「何か……、負けた気がする。」
「僕が起きてる時は手が出せないんですね、此処までしないと。」
「いや、だから、脱がしてねぇって……」
「そろそろ黙って。」

今度こそ、棒付きのグレープを口に突き込まれた。
歯を立てるまでもなく崩れる。
喉に滑り落ちる雫の甘さは、灼けるように。


NEXT →



*クリックで応援お願いします

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村


小説(BL) ブログランキングへ


スポンサーサイト

2014.08.19