林檎に牙を:全5種類
*R指定描写(♂×♀)

柘榴の愚かしい妄想。
瑠夜は花火の身体触るだけなので、飽くまでも乾いた関係です。
灰色の空は雨の湿度が匂い立つ。
太陽が顔を見せない日が続き、生乾きの空気の息苦しさ。

ただ、瑠夜の唇を濡らしているのは雨粒ではない。
宛がっている舌先に、塩辛い味。
黒々と揃う花火の睫毛を光らせる涙。
滲む傍から舐め取っているので溢れ落ちたりはせずに。

哀しんでいる訳ではない、何の事はない。
互いに情欲の逢瀬を貪っているだけ。



人目を避けて影の濃い場所。
戦闘から帰った後、持て余した欲を鎮める為の行為。
血を浴びて沸き立つのは共に同じ。

衣服の支えを失った乳房は瑠夜の手に余る。
汗ばんで形を変える質量感。
何処に触れても柔らかい、指先と舌で知り尽くした身体。
薄闇だけを纏う浅黒い素肌。
けれど、彼女に青白く浮かぶ瑠夜の姿は見えていない。
身を任せても眼は瞑ったまま。


曇りでも今は真昼、上空の強過ぎる陽光は雲くらいでは防げず。
こんな日にカーテンは必要無い。
閉ざした障子越しに届く淡い光で充分過ぎる。

冷たい畳の上に寝そべっていても、震える花火の肌は熱い。
広がった長い髪が身動ぎの度に揺らめく。
黒い波の中、埋もれず立ち上がっているのは蝙蝠の耳。
両手首は腰紐で結わえて一纏め。
逃げやしない事など判っている、ただの香り付けのような物。


瑠夜の方と云えば襟一つ乱れず。
座り込んで、膝を割って広げさせた花火の脚の間。

同じ髪色でも彼の漆黒には癖が無い。
影を落とす長い前髪の下、細めた眼は鋭さを増す。
一片の熱も見せずに。

視線を突き刺す裂け目が深く咥えているのは、瑠夜の指。
部屋へ来るまで滴る程に血染めだった。
咥えさせた花火の唾液で洗われて、今は蜜塗れ。
滑りながらも、柔らかく蕩けた奥を探る。
甘やかな水音と女の匂い。

断絶的に締まる頃、膨らむ珠を指で弾いた。

最後の叫びで仰け反った喉。
跡など残さぬように、掠めさせた歯で鋭く痛みを与える。
優しく口付ける代わり。



傷が開くように、瞼の下から現れる赤い瞳。
冷徹な青紫と交差した瞬間、遊戯は終わりを告げる。

触れるだけの逢瀬、いつも果てるのは花火の方だけ。
唇も性器も重ね合わせない関係。
けれど、欲望を吐き出さない瑠夜に苦痛は無かった。

一時だけの、加虐と被虐。
性交は二人とも望む形ではないのだ。


「食べますか?」


衣服を纏った花火を横目、手を伸ばした物を差し出す。
神社の木に為っていた一つ。
啼き疲れた喉では返事も侭為らないのだろうか。
瑠夜が差し出した物を見て、花火は深く頷いただけ。

固い実を割れば、宝石の欠片を詰めたような微光。
妖しいまでの暗紅の柘榴。

指先を誘われて摘み上げた粒。
二人で代わる代わる唇に運んで、咀嚼により再び無言になる。
身体を湿らせた汗よりも少ないであろう水分。
こんな物で足りる筈が無い。
けれど、酸味の強い味は後を引いて止まらない。


冬とは、農耕の女神の娘が冥府に居る季節らしい。
地下の国で飲食した者は完全に地上へ戻れないのが掟。
愛娘と引き裂かれている間の女神は嘆き哀しみ、作物が育たない冬が来る。
そして娘が冥府の王に食べさせられた食物が、柘榴。

まぁ、飽くまでも物語なのだが。

此の小さな粒が、昔の人間にそんな妄想を掻き立てたと思えば面白い。
死者の棲むと云うのはどんな世界なのだろうか。

肉体を失った瑠夜と花火にとって、行く筈だった場所。


霊魂同士なら触れ合えても、孕む事は無い。
物を食えても、養分になる事も無い。
性交しなくとも何も食わずとも、感情は波立ったりしない。
其れらは肉体の在る者が求める欲望。
解放された彼らにとって生理的な一切を必要としないのだ、本来なら。

ならば、其れでも求めてしまうのは何故か。
理由を挙げれば肉体への未練。
もう一つは、叶わない事が判っている恋の代償行為。

こんな小さな粒でも中には種。
食べる部分なんて少なく、あまり舌先に優しくなく。
冥府の王が、無理にでも娘を繋ぎ止めて置きたかった味。
独りきりで渇きには耐えられない。
ただでさえ、人ならざる身が過ごす時間は途方も無いのに。


情交の後から瑠夜の思考は醒めず、不意に思い出した。
柘榴とは官能描写で女性器に例えられる。
爪先まで浅黒い花火の中で、瞳以外に紅を持つ場所。

晒されても味わえても、瑠夜を満たす事は無い。

乾いた色の果皮の下、柘榴の紅に指先を突き立てた。
けれど硬く実った塊には刺さらない。
頑なまでに受け入れられず、爪で傷付き潰れるだけ。
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2010.04.25