林檎に牙を:全5種類
最初の一粒がアスファルトを打ったのは、下校途中での事。
突然、空模様は曇天から夕立に変わる。

傘など持っている訳がないのに、雨脚は瞬く間に強くなる。
眼鏡のレンズには水玉模様が増える一方、見え難くて仕方なかった。
外しても駄目、びしょ濡れでも駄目。
どちらにしても視界が歪めば外を走るには危険極まりなし。

幸いな事に見回さなくても避難所は近い。
真っ直ぐ駆けて行けば、学校帰りに馴染みのコンビニ。



「おー、りょんも居たか。」

降り出して数分経過、またもや夕立からの避難者が増えた。
フードコート付きのコンビニは居心地が良すぎる。
ハンカチで眼鏡を磨いて、お菓子を買って、テーブル席で寛ぎ中。
呼び名に肩を叩かれた遼二が入口を向く。

突進してくる様なら、ガラス越しに此処からよく見えていた。
ゴールしたのは体操服を濡らした一ノ助。


「こーゆー時に限って自動ドアに無視されンだよなァ。」
「あぁ、入り口で変な足踏みしてると思ったら……」

学校指定の青いジャージは雨を吸って色が濃くなり、今や紺藍色。
着ている方が冷えてしまいそうで一ノ助が上着を脱ぐ。
常備の汗拭きタオルを被ったら落ち着いたらしい。
小銭で熱い缶コーヒーだけ買うと、遼二の隣に腰掛けた。

値段が同じでもコーヒーは他よりも一回り小さい缶。
温まりたいならこんな少量しか入ってない物でなくても良いのに。
思春期にありがち、大人ぶりたいだけ。

「なァ、俺もチョコ食っていい?」

ああ、やはり苦味を愉しむには早かったか。
背伸びせずに甘い物を選んだ遼二が羨ましくなったらしい。
思わず小さく笑ってしまった。

身体ばかり大きくても、どうも一ノ助は端々が子供っぽい。
故に付き合いやすいので良い所でもあるが。


「てゆか、チョコだよな?スライムじゃねェよな?」
「まぁ、似てますけど……、雫形とか他に言い方あるでしょうに。」

袋に手を入れて軽く一掴み分、一ノ助へ寄越してやった。
議論に上ったチョコレートは独特の形。
ちょっとした一口に丁度良い、先の尖ったキスチョコ。
包装紙の銀が青ければ、確かにゲームのマスコットキャラか。

ありがたくチョコレートを受け取っても、一ノ助は簡単に食べられず。
一粒ずつ丁寧に包まれているのだ。
元からあまり器用でなく、冷えた指で解くには悪戦苦闘。

「……貸してみて?」

端から破ろうとすれば細かな紙片が無残に落ちる。
面白いので黙って見ていたが、此れ以上は意地悪が過ぎるか。
そろそろ手を貸してやろうと遼二が交代する。

摘まんだのは頂部から伸びた細い紐。
引っ張りながら一回転、簡単に紙が裂ける。


「あぁ!そうやって開けるンか!」
「納得したようで。」

素直に感嘆した後、ごく自然に一ノ助が口を開けてみせる。
何のつもりかと疑問に思うのは一瞬。
意図に気付けば、今度は遼二の方が面喰ってしまう。

チョコレートを待っているのだろう、此れは。

無防備に口を開けた顔が可笑しくて、苦笑せざるを得ない。
どうせなら彼女にして貰う事だろうに。
指先に摘まんだチョコレート一粒。
野獣を餌付けする気分で、お望み通りに放り込んだ。


「うん、まじィな。」
「ですよね。」

噛み砕きながら一ノ助が呟けば、遼二の方も同意見。
輸入物のキスチョコはどうも臭みが強いのだ。
国も違えば味も違う、日本製に食べ慣れている舌に合うまい。

ただ、美味ばかりが惹かれる訳じゃない。
歯科医の子供に生まれた遼二にとっては、甘ければそれで良かった。

虫歯を危惧して糖分控えめに育てられた子供時代。
あの頃はお菓子に飢え、隠れて食べていたのを思い出す。
キスチョコなら一口で愉しめるし、箪笥に仕舞いこんでいても溶けにくい。
小遣いも増えて、好きな物を買える今でも時々味わいたくなる。


「分かるわァ、うちも親が酒飲みで甘い物食わねェ家だし。」

取り分のキスチョコをもう一つ掴みながら。
一ノ助が頷くのも意外だったが、おかわりするのも意外。
てっきり返品されると思ったのに。

「不味いんじゃなかったんですか?」
「チョコはチョコだろ。」

遼二を真似た手で、今度は紐を引っ張って再挑戦。
しかし残念、包装紙が避ける前に呆気なく抜けてしまう。
運が悪いんだか不器用過ぎるんだか。

呆れ半分で受け取って、またも遼二が剥く事になる。
食べさせるまでが一連の作業だろうか。


雨から切り取られて、此処に閉じ込められた錯覚。
ビニール傘があれば抜け出せるけれど。
もう少し、と言い訳して太陽を待つ事にした。
絶え間なく降り注ぐ雫に似たチョコレートを齧りながら。



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2014.09.16