林檎に牙を:全5種類
食道楽の進之介にとって給食は日々の楽しみだった。
転校ばかりの学校生活で、食文化の面白さを感じる機会でもある。
県によってはまるで外国ほどの違いなのだ。
時々は地域特有のメニューにも遭遇し、それだけで少し得した気分。


明るい空に昼を告げるチャイムが響き渡った。
午前の授業も終わり、教科書を畳んで向かい合わせにした机。
食べ盛りの中学生達が待ちに待った給食の時間。

ただし、今日のような事もある。

「いただきます」とクラスで声を揃えてから数分経過。
班ごとに賑やかな声が上がり、至って空気は平和そのものだった。
そんな中で進之介だけは神妙な表情。
原因は、箸の先でぼそぼそ身を摘まんでいる秋刀魚。

「秋刀魚が不味くて悲しい……」
「海なし県に期待しないでよ、昕守君てば。」
「せめて頭の方が良かった。」
「不味いなら何処食べたって一緒でしょ。」

右隣の和磨に愚痴っても同意は得られず。
同じく魚が好きな彼も、最初から諦めている口振りである。

好き嫌いこそ無い進之介だが、不味い物は許せない。
秋刀魚は大きいので、給食で配膳される際には頭か尻尾の半分だけ。
冷凍しか出回らない上にまだ旬には早く身はパサパサ。
調理の際に醤油が掛けられた状態なので、旨味も何も塩辛いばかり。

その代わり、山に囲まれているので川魚なら美味い。
丸々した虹鱒の塩焼きを思い出すと、昨夜の夕飯が懐かしくなる。


共に過ごす事が多くても、今は何も二人きりで食べている訳じゃない。
ふと前を見れば女子も談笑の真っ最中。
嫌味の無い明るい声の都来と、物静かで涼やかな声の鈴華。

花住坂都来はクラスでも目立つムードメイカーである。
活発でよく笑い、お祭り好きな健康優良児。
背も少し高めなので好奇心旺盛な瞳が悪戯盛りの少年を思わせた。
切り揃えたショートボブが細い首を綺麗に見せる。

一方の建石鈴華は、胸まで真っ直ぐ伸びた烏の濡れ羽の髪。
潤った瞳に緩い口許で、大抵は眠そうな表情。
しかし鈍感かと思えば落ち着いた物腰で頭の回転も速い。
小柄で華奢な外見にも関わらず、妙に大人びた雰囲気を纏っていた。


中学の制服と云えば、全国的にも男子は学ランの割合が高い。
それぞれ違いが出るのは女子の方。

近隣の学校が古臭くて味気ないデザインばかりの中、王林は目を引く。
シンプルながら可愛らしい黒のセーラー服。
丈が長くても、大きな白い襟と赤いスカーフで重すぎない印象を受ける。

そして愛らしい女子が着れば、ここぞとばかりに映えた。
種類は異なっていても華がある二人。
動と静だからこそ相性が良いのか、クラスでも仲睦まじい。
友達の形は様々、進之介と和磨の関係ともまた違う。


「進ちゃん、文句言ってる割りには綺麗に食べんね。」
「あら……本当、絵に描いたみたい。」

興味が尽きない都来が目敏く指摘すれば、鈴華も一言。
こうして女子達も会話に参加する。

都来が言う通り、進之介の皿にはもう骨だけになった魚。
箸の持ち方も完璧なまでに美しく。
躾けられたのは嫌々でも、育ちの良さはこう言う時に滲み出る。

「作法に厳しい家だからな……、綺麗に食わないと叱られんだよ。」
「すっかり沁み付いてるみたいねぇ。」
「あっはっはっ、和磨君の方は下手なくらいがしっくり来るねぃ。」
「だって、魚は好きだけど骨取るの苦手なんだもん……」

都来が思わず笑ってしまったのも無理もなかろう。
和磨の皿の上はまるで陰惨な事件現場。
骨が外れず、箸で突き回された身が酷く崩れている。
進之介から見れば、秋刀魚に謝るべきだと考えるくらいの状態。

その一方、こんなものではないだろうかとも思う。
和磨当人には情けない話だが、金髪碧眼の外見なだけに違和感が無い。


「こーすりゃ一発だろ、ほら。」

見かねた進之介が箸を伸ばせば注目。
技術の違い、中骨は呆気なくも綺麗に剥がれた。

「巽君には随分優しいのね……、昕守君。」
「ラブラブだよねぇ~、結婚したら良いと思うよ、うんうん。」

何て事を言うのだろう。

本気か冗談か、女子達に冷やかされて脱力してしまう。
箸が転げても可笑しい年代なのだ。
いちいち反論していたら身が持たず、敢えて黙秘を決め込んだ。
こうして給食の時間は斯くも騒がしく過ぎて行く。




体操服に着替える際は男女別々。
休み時間終了のチャイムが鳴る頃、教室から女子が消える。

五時間目が体育だと少し乗り気がしない。
腹が膨れて体力は回復しても、食後の運動は胃に悪い。
昼休みを挟んでもまだ遊び足りず。


「あっ。」

男子だけになった教室で、和磨が不意に一言零した。
丁度スポーツバッグを開けたところ。
大体は見当がついて、進之介が背後から声を掛ける。

「どっち忘れたん?上か下か、両方か。」
「上だけ……、下はあるんだけど。」
「俺2枚持ってるから、帰りに肉まん奢るなら貸す。」
「あぁ、秋刀魚じゃ食欲満たされなかったんだね……」

当然とばかりに進之介が頷く、食い気に関してばかりは譲れない。
和磨が苦笑しつつ財布の小銭を数えて、交渉成立。
そうして渡したシャツに袖が通された。



「あっれ、進ちゃんと和磨君とうとう結婚したん?」
「休み時間中に入籍したのかしらね。」

そんな事情も知らず、校庭で合流した女子達は思わず訝しんだ。
"昕守"の名札が付いた体操服が二人。
同じくらいの高さで並んだ黒と金の頭、知らぬは本人達ばかり。



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2014.09.24