林檎に牙を:全5種類
「Trick or Treat!」

給食で腹が膨れた昼休み、進之介は黒猫の手に頬をつつかれた。
前の席から振り返り様の脅迫。

正体は、黒猫の手を模した大きめのチョコマシュマロ。
食べやすいように棒が刺さっており、握っているのはやはり和磨。
こんな悪ふざけをする相手なんて他に居まい。

お菓子を出さなくても悪戯されている状況。
怒るだけ損だ、何しろ今日は戯れに寛大なハロウィン。


台風の季節が去っても最近は雨天が多くて冷え込む。
最近、和磨は学ランの下に薄手のパーカーを着込むようになった。
夕闇の空を思わせる紫色に、蝙蝠が飛び立つデザイン。
防寒とお洒落を兼ねて黒い制服と合っている。

中学校とは窮屈なイメージが付き纏うが、王林に関してはそうでもない。
全体的に雰囲気や校則が緩めだった。
和磨だけでなく、ジャージやカーディガンで個性を出す生徒はちらほら。

現にパーカーだったら進之介も着ている。
可愛いカジュアル系が好みなので、ピンクでも構わずに。

大っぴらにしない限り、お菓子の持ち込みも特に禁止されてないのだ。
ハロウィンなんてそれはそれは色めき立つ。
お祭りの大義名分で飴やチョコを交換し合う姿がちらほら。
人気の先生なんて、甘い物を求めて強盗になった生徒が群がるらしい。
食べ盛りの遊び盛りは容赦無し。


「コレで脅されても怖かねぇけど物凄いムカつくな、こんにゃろう。」
「もっと広い心で楽しみなよ、昕守君てば。」
「てゆか、そーゆーお前の方は俺に何もくれねぇの?」
「お菓子なら今まさに持ってるでしょ、このマシュマロあげるって。」

桃色の肉球も再現されて、頬に当たる感触は極上の柔らかさ。
爪までは無いから決して痛くない。
こうしてからかわれると、非常に腹立たしくなるだけ。

苛付かせる為にふざけているのか、思ったまま振舞っているだけなのか。
飄々とした和磨の言動はよく判らない。
そこまで興味がある訳でも無いので、考えるのはやめた。
単に彼は"変な奴"なんだと進之介は認識している。


それにしても、もういい加減に鬱陶しくなってきた。
屈した訳でもないが、意地になっていると延々と続くだろう。
小腹が空いた時の為に何か持って来ていた筈。

マシュマロを押し退けてから、手元に引き寄せたスクールバッグ。
進之介が奥底を探ってみれば思った通り。
小袋入りで甘い物もあったが、食後ならミントガムが良さそうだ。
お菓子はお菓子、文句なんて言わせない。


「えっ、くれるの?」
「その反応は何なんだよ、脅迫しといて……」

ガムを受け取った和磨は緑の目を丸くした。
感謝されるならいざ知らず、驚かれては進之介も顰め面になる。
そんなにけち臭いとでも思われていたのか。
しかし、本当はそう云う意味ではなかったようで。

「ごめんね昕守君、お菓子持ってなさそうだったから先に悪戯仕掛けてて……」
「まぁ、プニプニされんのウザかったけど別に怒ってねぇし。」
「いや、マシュマロじゃなくてフードに。」
「…………は?」

勢いよく振り向いたら首を痛めたが、それどころでない。
すると確かにフードの中、何かが入っていた。
そのまま直視するのは不可能な位置。
後ろ手に探ってから取り出すと、黒いボタンの目と視線が合った。

何処かで見た、小さな桃色のウサギ。
いつも和磨が携帯に付けているぬいぐるみだった。


驚き、呆気に取られ、進之介が次に感じたのは鳥肌。
一体どうやって、いつの間に。
今まで気配すら感じさせなかったのだから。

「お前怖いわ!前の席座ってるくせして、どうやって入れたんだよ?!」
「昕守君、全然気付かないから僕の方がドキドキしちゃってたよ。」
「何だよガム食いながらしれっと言うな……!」
「え、返さなきゃ駄目なの?」

悪戯とは相手が笑って許してくれる範囲まで。
そこを踏まえている辺りルール内だが。

進之介が困惑して慌てている間、和磨は至ってマイペース。
早速、ガムの包み紙を開いてミントを味わっている。
ゆったりした様が本当に忌々しい。


少しくらい反撃したって罰なんて当たるまい。
今度は進之介の番、此方も貰ったマシュマロの棒を握った。
そうして先程と逆の立場になって和磨の頬を突く。
ほとんど憂さ晴らしに近く、それにしたって低レベルでも。

こんな程度では和磨だって怒ったりしない。
くすぐったそうにしていても、変わらずガムを噛んでいる。
されるがままに受け流すだけ。


「…………ッ……!」

そんな時に目測を誤ったのは事故。
思わず滑った猫の手、柔らかい先端が生白い首を掠める。

不意を突かれて、とうとう和磨が身を震わせて竦めた。
一瞬だけ小動物めいた怯え方。
しゃっくりに似た声を零して、儚くミントの香った吐息。



「ちょ……っ、昕守君、痛い!猫パンチまではしなかったでしょ僕!」
「マシュマロだろ、痛い訳あるか!」
「いやいや、でも何だか今のは心が痛かったよ?!」
「うっさい、もう知らんわ。」

和磨が震え上がった後、空気を変えたのは無理やりに。
何だか無性に居心地の悪さを感じて。
咄嗟に吹き飛ばすつもりで、マシュマロの肉球で頬を打ったのだ。

理不尽な仕打ちに和磨が抗議したところで答えるつもり無し。
進之介だって、何と返したら良いのか分からない。


ただ、知らない表情に狼狽してしまったのは事実。
泣くのとも違う、泡を食うのとも違う。
もっと切なげな色。
あの時、掠めたミントの熱っぽさがまだ消えない。

進之介の手には、和磨の顔色を変えたマシュマロ。
此れに歯を立てて終わらせるにも、図太くならねばいけなかった。



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2014.10.24