林檎に牙を:全5種類
「なァ、ズマ、フワフワのヒラヒラな格好って正式名称何なん?」
「色々ジャンルあるし、ちょっと曖昧だね……検索ワード増やしてくれないと。」


布団の上でゲーム機を握っていた一ノ助から突然の質問。
声に肩を叩かれた和磨は、フローリングに座り込んだまま首だけ其方へ。

一ノ助の自室へ招かれても、二人で特に何かする訳でも無い。
茶菓子さえあればお持て成しは充分だった。
昔から同じマンションに住む馴染みなら、お互いの家に入り浸るのは慣れた光景。
来客だからと云って母親の方も気兼ねなく。

無骨な彼が唐突に何を言い出しても不可思議には思わない。
通常通りと慣れた調子で受け止めて着いて行ける。
黙々と漫画のページを追うのを止めて、こうして会話が始まった。


質問に至った経緯と云うのは、とある週末の話。
人が集まる駅やショッピングモール、地元で遊べば同級生達に遭遇する事もある。
休日なので自分も向こうも私服姿。
その中で、女子の一人が「フワフワのヒラヒラな格好」だったそうで。

「何て呼ぶんかなァ、あれ……山菜娘?」
「また変な単語生み出して、イノ君てば。」

子供の頃から言い間違いは多かった。
言葉が迷子になって、ゴールから外れて変な道を作ってしまうのだ。

さて、今回は一体何と誤解しているのだろう。
山菜取りなら肌を完全防備した格好ではないのか、違うのか。
そう和磨が頭を捻ってみると。


「……え、待って、まさか森ガールの事?」
「あァ!」

晴れた表情からすれば、どうやら正解らしい。
クイズにしたって一文字すら一致してないのだから難題であった。
しかも、本人もふざけて言い換えた訳ではないと。

耳にしたのが和磨だけなら日常茶飯なので大して気にしない。
しかし、その時に間違った単語を口に出してしまったのではないかと訊けば。

「あァ、何か知らねェけど凄ェ笑われた。」
「笑い取れたなら、まぁ良いんじゃないかな……そんな面白くないけど。」
「ノリだろ、橋が転がっても笑える年なんだしよ。」
「お箸の方だって。橋じゃ笑ってる場合じゃないよ、大参事だよ。」


ともあれ、疑問が晴れたなら再び自分の時間。
そう思いきや話題は終わらない。

「しっかしよォ、あんな格好で森とか入って大丈夫なんか?」
「いや、そこ突いたらイノ君の言う山菜取りよりはマシそうだけど。」


一ノ助も相手が弟分だからこそ訊いているのだろう。
和磨は自分を磨いたり着飾る事に関しては余念がないのだ。
場合によっては、同級生の女子よりもファッションやそうした話に詳しい。
それでも、反論の後は少し間が開いてしまう。

女子の服装とは男子よりもずっと広い世界なのである。
"森ガール"の定義自体が実のところ曖昧。

ただふんわりと可愛らしいだけなら、ナチュラルやロリータも含まれる。
口頭で説明したところで一ノ助が理解できるやら。
そもそも、良くも悪くも大雑把な彼とこんな話をしている事が可笑しい。
濁して逃げたところで何も解決にはならないだろうし。

此処に女性向けファッション誌でもあれば図解で説明出来るかもしれないが。
一ノ助の部屋にそんな物が存在している方が奇怪だった。
雑誌は雑誌でも「メンズナックル」しかない。

「……そもそも何で選りによってお兄系なの、ガイアに囁かれたの?」
「何だよズマ、俺がモテたいと思っちゃ悪いか?」


少し脱線してしまったが、思考をフリルに戻す。
言うなれば、"森"とは童話の世界に広がっている場所を指すのだろう。
ロリータがシンデレラやアリスの真似事なら、此方は赤頭巾や七匹の仔山羊の住処。

森で暮らしている動物達は皆が仲良く平和。
花畑の何処かには妖精が隠れているかもしれない。
決して泥だらけにならない、醜い虫は居ない。
恐ろしい狼に襲われたとしても誰か助けてくれる者が現れるような。

此の説明で一ノ助に首を傾げられたら本当にお手上げ。
和磨は内心冷や冷やしたが、やっと頷いて納得してくれたようだった。


「森ってイメージだけで言うなら、ズマもそんな感じだけどな。」

茶菓子を齧ろうとした和磨の口が途中で止まった。
迷路の出口が見えたと安堵すれば、こうしてまた回り道で遠ざかる。

何を言い出すんだろう、此の兄貴分は。

「お前、パツキンでもお城の王子様っつーより森に棲んでそうだしよ。」
「いや、キャンプ慣れてるしアウトドアは平気だけどさ……」
「朝起きたら窓開けて、朝陽浴びながら「小鳥さんおはよう!」って微笑んでそう。」
「僕どっちかとウサギ派だけど。」
「あァ、確かに髪のフワフワ加減とかウサギっぽいな。」
「髪ぐしゃぐしゃにしないでってばイノ君……あー、もう何でも良いや。」


何と思われたって構わない。
一笑に付した和磨は今度こそ迷路を後にした。

一ノ助に毛並みを掻き乱されて、金色のウサギがとうとう口を噤む。
声帯が無いのだから喋る必要も無いだろう。
置き去りにされた虎が自力で脱出するのを、此処でただ待つだけ。



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2014.11.14