林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)

男の身体は欲情が隠せない、取り繕っても無駄な事。
指摘されたら一気に熱が回る。

学校内では手すら繋ぎ合わせない。
はっきり約束した訳ではなくとも、それが当然だと思っていた。
まして欲望なんて抑え込む物だと。
一度だけでも破れば、きっと後は済し崩しで戻れなくなってしまう。

それでも決断を迫られるならば。


「頼むから、煽ったりすんなよ……」
「あぁ、やっとNOって言えましたね。」

甘い指を吐けば、シロップにも似た糸。
情けなく絞り出した声で拓真は「否」を告げる。


誘惑が揺らめいても欲望のまま沈んだりしなかった。
職場で情交に及べる程、獣にはなれず。
何しろ、獲物が口に飛び込んで血を味わっても牙すら剥けない。

かと云って学校を抜け出して、なんて無責任な事だって出来る訳がない。
一時間でも授業を欠席させたら補習対象。
遼二が資格を取って卒業するまで見守る義務があるのだ。
教員としても、恋人としても。


「でも、此れはどうしましょうか?」

張り詰めた布を爪先で押されて、拓真は思わず腰が引けた。
返事の代わりに喉の奥から唸り声が漏れる。

優位な時の遼二は何処までも残酷である。
何とも思っていないような無表情、小首を傾げて訊ねる様が忌々しい。
いっそ笑って済まされた方がまだ救われるのに。

「放っておけよ、そのうち治まる……」
「此処じゃ嫌なら……、せめてトイレ行きましょうか。」

早く一人にして欲しい。

そんな懇願を込めても、遼二に聞き入れては貰えなかった。
出て行く時は二人で共にと。

「一人でしてる所、見せて下さい。」




わざわざ案内されなくてもトイレなら実習室の斜め左。
昼食で賑わう1階の教室は遠く、普段の生徒達も近くの方を使用している。
駆け込まなくても誰にも見られない。
実習室のある2階は、基本的に授業以外では人気が少ない。

寒々しい空気に包まれても、個室に押し込まれれば妙に汗ばむ。
洋式に腰を下ろした拓真の正面に遼二。
此方を見下ろす形で立って、無言のまま始まりを待つ。

こんな姿を見て、遼二は何が愉しいのか。

ふと考えてみたが答えなど出やしない。
逆の立場、拓真は自慰に耽る遼二を眺めたいとは思わなかった。

必死ならそれなりに可愛いと感じるかもしれない。
しかし、興奮するかと訊かれても曖昧な頷きになってしまう。
普段から余裕綽々の恋人。
焦っているだけで珍しく、性的な事に限る必要もないのだ。


下腹部を緩めるのは拓真だけで、遼二は傍観者。
如何してこんな現状になったのか。

指以外に舌を這わす事を拒絶した結果?

承諾しなかったから機嫌を損ねたのかもしれない。
嫌だとは言ってないのに。
そうだとしても牙を引っ込めた拓真の意志は変わらず。
今更、情交も自慰も変わらないだろうけれど。


気怠いような醒めたような遼二の眼。
絡み付く視線に冷やされて、背筋が震え上がる。

そうやって刺されながら動かす手は重いが、止めている間など無い。
ただ終了のチャイムを待つ事は許されないのだ。
まだ少し遠い午後の授業、時間切れまでに戻らなくては。


生硬い腫れ物を外気に晒すと、拓真は固まっていた膝も緩めた。
自分の状況を認識すると羞恥で消えたくなってしまう。
開き直らなければやっていられない。
見たくない物から目を背けて、熱を落ち着かせる為だけに手で包んだ。

熱に直接触れると、情欲を自覚せざるを得ない。
上下に撫で擦ってあやし始める。


「……ッ……、うぅ……」

固く閉ざした瞼と湿ってきた額。
声を殺して唸れば、悪夢でうなされているような面持ち。

体温が高い拓真は自慰だけで必要以上に火照ってしまう。
眼前には誰も居ない真っ暗闇。
切れ切れになりつつある呼吸、蜜が匂い立った。

一人きりの錯覚に、突然それは侵入してくる。

強張った拓真の上半身を抱き締める、骨張って細い腕。
コックコートの胸に遼二が顔を埋めて、ふわふわ頭と眼鏡が押し当たる。
鼻先に、自分とは違う男の匂い。
吐息が触れるだけで今は何だか怯えてしまう。

密着された程度で面喰っているなら、そこから先は一溜りも無い。
脈打つ拓真の首筋に浮いてきた汗を舐め取った舌。
飛び上がりそうな感覚が突き抜けて、手の中で白濁が爆ぜた。



「何で首舐めたりすんだよ、早未……」
「失礼、ジャムが付いてたもので。」

悪戯の理由は、嘘か本当かも判らず流される。

首なんて自分ではよく見えないのだ。
確かに実習ではジャムを使ったし、煮詰めている間に跳ねたかもしれない。
だから舐めても当然か、と云うのも可笑しいだろうに。


「よく出来ました、お疲れ様。」

痛めてない左手で拓真の頭を撫でる。
まるで教師の口振りに、何だか面喰ってしまう。
それでも最低限、此れだけは釘を刺しておかねばならない。

「もう学校じゃしないからな……」
「ん、そうですね……何か、僕も気が済みましたし。」
「……何だよ、それ?」
「意味なんか解らなくて良いですよ、保志さんには。」

意味深に会話を打ち切られて、歯痒さばかりが残ってしまう。
されど、いつまでも抱えている訳にはいかず。
無かった事に出来ずとも忘れなくては。
昼休みが終わる前に、しっかりと頭を切り替える必要がある。


そうして先に出て行こうとしたのに。
首輪とリード代わり、スカーフを引っ張られて拓真は手繰り寄せられる。
遼二が距離を詰めて、急に近付いた顔。

「保志さん、待って。」

白濁で濡れていた手を取って、その低い声が指先に触れる。
キスなんて優しい事の為じゃない。
甘い物を食むように、拓真の親指に思い切り噛み付いた。


「痛ッ!?」
「今は此れで我慢して下さいね、それではまた放課後に。」

滲んだ血を舐めて、遼二の唇が薄く赤に染まる。
涼しい面差しに紛い物の口紅。
艶めかしい横顔を網膜に焼き付けて、するりと扉を抜けて行く。



その日、当然のように午後の仕事は本調子が出なかった。
もう実習は無いのでデスクワーク中心でも、傷を意識しては溜息ばかり。
生々しくこびり付いた、熱の残骸。

ああ、そう云う事か。

傷の痛みは遼二の自己主張。
校舎で別々に過ごしていても、否応なしに存在を忘れさせない。
随分と乱暴な所有印を付けられたものだ。
そう気付いた時、拓真は一つだけ苦笑してしまった。

「放課後」とは言い残されようと、約束に満たされるかどうか。
そんな不確かでも大人しく待ちながら。


*end


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2014.11.23