林檎に牙を:全5種類
言い訳のように、何度も口の中で繰り返す。
一ノ助に対して情欲を抱いても、それは恋心になり得ない。
似て非なる感情二つを混同してはいけないと。
触れたり舐めたりするのは目を瞑った闇、妄想の中だけ。



「もう少し!」
「大河、もう帰りたいんですけど僕。」

お菓子売り場で駄々を捏ねる子供と、その親。
第三者からすれば、今の一ノ助と遼二はそんな光景を彷彿とさせた。

水曜日の帰り道、コンビニの雑誌コーナーでよくある話。
一ノ助は漫画誌「週刊少年アクセル」を開いてから動かなくなってしまう。
レジへ向かわないのは小銭を惜しんでか。
それとも、買う気はあっても気になる展開だけでも先に読みたいのか。

既に白い袋を提げた遼二は口だけ急かす。
放って帰ってしまう事も多いが、今日は何となく待ってあげていた。


一ノ助が手にしている雑誌には、遼二も購読している漫画も一つ二つ。
なので話を追いたい気持ちは分かる。
しかし、どちらかと云えば単行本で纏めて愉しむ方。
目当ての物しか興味が無いのだ。
今現在、他にどんな作品が連載されているのか知らなかった。

そこまで真剣にページを捲るなら、少しくらいは気になる。
熱が伝染したと云うか。
背後に立って、無遠慮に覗き込んでみた。

「……女子だらけですね。」
「だから良いんじゃねェか。」

少年誌にしては意外。
一ノ助が読んでいたページで刀を振るっていたのは少女達。

「鬼門クラブ」は女子高生が夜の学校で悪霊と戦うバトルアクション。
設定だけ見ればありがちな話。
男性向けで女性ばかりの作品はハーレム物が多いが、此れは違う。
かと云って肌の露出が高い訳でも無し。
特撮を思わせる戦闘シーンと熱い内容で、確かに少年漫画。


「キャラが男でも違和感なさそうですけどね。」
「セーラー服の女子が戦うって絵が良いンじゃねェか。」

意外ではあれど考えてみれば不思議でもない。
少年漫画は男主人公、少女漫画は女主人公しか居ないとは限らないのだ。

幼いうちは同性のキャラクターに感情移入しがち。
幾ら戦隊ヒーローが好きでもピンクに憧れる男子は少ないだろう。
言わば、自分の理想像なのだ。
そうして成長して異性に興味が出てくると、別の視点が生まれる。

「萌え目的で作品を愉しむようになると、異性が多い方を好むんですよ。」
「あァ、なるほどなァ。」


何だかんだで遼二も一緒になって目を通してしまった。
結局、コンビニを後にしたのはたっぷり数分後。
アイスクリームなんて買わなくて良かった、持っていたら溶けてしまう。

確かに惹き込まれる作品だったが、それはそれ。
人を待たせておいて、何も買わないまま一ノ助は店を出た。

「もうすぐ単行本出るみてェだから、そっち待って買う。」
「まぁ、好きな漫画だけ追いたいならそっちの方が得でしょうし。」
「俺、あの金髪で巨乳の子好きだわ。読み始めは文学少女っぽい子が良かったけど。」
「あぁ、やっぱりキャラ目当てなんですね……」

そこで会話が途切れて短い無言。
訊かれる前に遼二は先手を打って、口を開いた。

「僕は主役の女子が好みです、威勢良くて。」


男に欲情しても遼二は別に女を毛嫌いしている訳でもない。
好きな女優だって数える程度には居るし、実在しないキャラクターなら尚更。
ただ、身体まで愛せないだけの話。
そんな自分を社会の常識から外れているとまでは思わない。

単純に綺麗な人が好きな一ノ助だって。

もし恋愛が同性に限る世界だったとしても、きっと先程と同じ返答。
柔らかな乳房に惹かれる事を隠さない。
偏見に晒されても、だから何だと首を傾げて一蹴する。
そう云う一ノ助の強さに遼二も興味が湧いた。


けれど、どうあっても恋愛にはならない。
既に想い人が居るから、なんて弁解するつもりも無し。
そこまで感情が育たないのだ。

遼二と過ごす事が多くても一ノ助は男女ともに友達が多い。
此の先、彼女だって出来るだろう。
そうなっても、ただ静かに状況を受け止めるだけ。
微量の切なさは抱くかもしれないけれど。

友達の兄が初恋の一人目。
ふわり舞いながら埃のように積もって、一ノ助で二人目。

そう数えるなら、恋をするとしたら或いは。



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2014.12.16