林檎に牙を:全5種類
ガラスケースの中は、絵を描いている時のパレットに似ている。
丸く区切られて並んだ甘い色彩。
可愛いピンクをした苺、ダークブラウンのチョコレート、水色ソーダ。
アイスクリームショップは年中華やかだった。

食欲が湧いても、いざとなると選択肢が多すぎて迷ってしまう。
神妙な表情のまま一ノ助もまだ列に並べない。

大きな背中を眺めつつ、遼二はマフラーを巻き直す。
外は北風が吹き荒れる真冬。
こんな日によくアイスクリームなんて食べる気になれるものだ。


「何だよ、りょんもアイスよく食うだろ?」
「暖かい所でなら、の話ですよ。」

最近は何処の店も暖房が効いて寒がりの遼二にも快適。
しかし此処、モールのアイスクリームショップは場所が問題だった。
折角の暖かさも逃げてしまう出入り口近くに店舗。
仕切りがあっても防ぎ切れず、どうしても冬は冷え込んでしまう。

家なら炬燵で背中を丸めながら味わう物だが、店内では少し考える。
パレットの誘惑に靡いたら舌が凍りそうで。
どんなに甘くても、雪を食べるようなものだろう。


マフラーに口許を埋めたまま呼吸すると眼鏡が曇る。
適当に拭いて掛け直し、ふとガラスケースから視線を上げてみた。
目に留まった物を見つめて三つ数える間に決定。

まだ悩んでいる一ノ助を横目に通り過ぎ、店員に注文を告げる。


「大河って優柔不断ですね、意外と。」
「いやァ、折角だから悩みてェじゃん。」
「大河より後に来た子がもう食べ終わりそうですよ……」
「そうだなァ、いい加減決めるわ。」

大きな身体でいつまでもそこに居られると他の客に邪魔。
列の流れが止まってしまうからと、一ノ助の背中を押して注文を促す。

選んだフレーバーは、黒っぽい縞模様が入ったパステルイエロー。
キャラメルリボンで甘ったるく飾り付けられたバナナ。
ああ、やれやれと遼二が溜息を吐いた。
会計の時になって一ノ助と交代、今度は此方が口を開く。

「支払いは僕で。」



仕切りの壁を背にしたソファーへ、やっと腰を落ち着ける。
肌寒い中で立ちっぱなしだったのだ。
足に余計な負担が掛かっていた気がして、遼二は少しだけ顰め面。

「だって、りょんが奢ってくれるっつーから貴重だしよ。」
「まぁ、クリスマスプレゼント代わりですよ……相手居ない同士ですし。」
「相手って何だよ?りょん居るだろ、今。」
「あー……、何でもないです。」

当然、相手とは"恋人"の意味だったのだが。

人一倍鈍い一ノ助に皮肉は通じない、忘れていた。
それよりバナナのアイスクリームに夢中。
一口ずつ味わっている美味そうな表情に、何となく苛立つ。


表には出さず、遼二も自分の注文した品に手を付ける事にした。
先程まで鉄板で焼かれていたばかりなのでまだ温かい。
薄い卵色に包み込まれて、ホワイトチョコレートやクリーム。
焦げ目がレース模様に似たクレープ。

一口齧ると、緩くなった冷たいクリームで唇が濡れる。
寒い時はクレープが丁度良い。
適度に温かく、腹に溜まるので満足感があった。


「そーいやりょん、さっきまで隣のたこ焼き食うとか言ってなかったか?」
「……別に、気が変わったんですよ。」

あまりにも真剣に悩むものだから、釣られてしまった。
アイスクリームなんて食べる気なかったのに、本当ならば。
負けた気分になるので一ノ助には言わない。

余熱でクレープの中身は溶けかけて口の中で渾然一体。
甘くて甘くて、もうチョコレートかクリームか判別出来ない。
バニラのアイスクリームも包まれていた筈なのに。
染まっていけば全て一緒。

ケーキ代わりにクリスマスを祝う。
雪が降らなくとも、共に居てくれるのが愛しい人でなくとも。



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2014.12.25