林檎に牙を:全5種類
冴えた暗闇にお喋りの声が通る。
子供は寝る時間だと云うのに、これから出掛ける家族連れの姿もちらほら。
今日ばかりは誰もが夜更かしだった。
漆黒の空には、そんな人々を見下ろして笑う三日月。

コンビニで暖まっていると足が重くなるが、いつまでも此処に居られず。
小銭をココアに代えて遼二はガラス戸の外へ踏み出した。


厚めのコートにマフラーは基本装備、癖毛もニット帽で覆い隠して。
まだ熱を持っているココアの缶だけが頼り。
手袋をしたままでは滑って落としそうでも、外せば指先から凍ってしまう。
寒がりの遼二にとって、冷たい夜を歩くのは戦場に似た厳しさ。

12月31日の夜は初詣へ繰り出す人々で賑わう。
携帯の液晶画面に映る数字が年越しまで残り僅かを示していた。

とは云え、一人なら出歩くなんて考え付きもしなかった。
去年までは炬燵でぼんやりテレビでも見ていた筈。
こんな時間に、こんな寒い中。
遼二が重装備してまで神社に向かうのは、メールで呼び出された所為。


駅に近い神社の駐車場は既に渋滞、人の数は倍。
待ち合わせなら大体の場所を把握していれば充分だった。
何しろ、頭一つ分突き出る巨体は目立つ。

「お、りょん良い物持ってンのな。」
「あげませんよ?」

メールの差出人と言葉を交わせば白い息。
ココアを羨む視線を無視して、一ノ助と合流した。


友達の多い一ノ助の事だ、他にも誰か居ると思っていたのだが一人。
予想外だが遼二と二人きりに大した理由は無いだろう。
なので、此方も意識しない事にする。

何処でも良いなら、遼二が隠れて喫煙している寂れた神社もあったのだが。
中学からも近くなので一ノ助も場所自体は知っているかもしれない。

けれど、共に行く訳にはいかない。
あれは遼二にとって罪を象徴する場所なのだ。
何も気付かない一ノ助を案内するのはどうも気が引けて。


人の集まる駅前、大きい神社の所為か出店まで軒を連ねている。
縁日ほどではないにしても、違った華やかさがあった。

歩きながらちびちびと口を付けていたココアも残り少ない。
冷めてしまっては勿体ないと遼二が飲み干すと、やはり一ノ助は恨めしげ。
軽く見回してから出店に立ち寄った。
何かと思えば真っ白ふわふわ、羊に似た綿あめを一つ。

「温かい物でなくて良いんですか?」
「あァ、どっちかてと甘ェ物欲しかったンだよ。」

幾つになっても心躍るのか、子供の顔で嬉しげに頬張りながら。
砂糖の糸では一ノ助を温めないのに。
柔らかい真白に顔を埋めても、熱を加えたら溶けてしまう。
痛いくらい乾いた夜なので湿気にくくても。


空になった缶をゴミ箱に放ると遼二も再び財布を取り出す。
何か食べるつもりでなく、五円玉を探す為。
神社に願う事ならもう決まっている。

「受験も近付いてきたし、神頼みしとかなきゃなァ。」
「自分で何とかしなきゃ何とかなりませんよ?」

もう二人とも進学先は決まったようなものなのだが。
滑り止め扱いの高校しか無くても、行けるだけありがたい。

五教科が平均点に届かない一ノ助でも合格の見込みはある。
遼二の方はそれほど成績が悪くないが、もっと上を狙うつもりなど無し。
彼自身の問題は学力よりも怠惰だった。
テスト勉強ですら面倒なのに、受験のストレスで苦しむのは御免と。


溢れそうな人混み、なかなか進まないのは当然。
周囲は皆揃って携帯で時刻を確認しながら。

そうして始まるカウントダウン。
時計の針が真上で重なった瞬間、歓声が夜を震わせる。
境内に辿り着く前に年が明けてしまった。


「大河……、おめでとう。」
「ありがとな!」

誰もが新年に浮かれる中で遼二だけは一ノ助を祝う。
今しがた誕生日を迎えた者が此処に一人。
1月1日生まれが由来とは、なんて解かりやすい名前だろうか。


「で、りょんは誕生日いつだっけか?」
「4月ですけど。」
「そうかァ、じゃあ俺らその頃には高校の学ラン着てるな。」
「その頃にはどうせ忘れてますよ。」

甘い物を味わいながら呑気な一ノ助に、苦い返答。
たった三ヶ月後の事だ。
その頃を思えば遠いような、近いような。
刻々と全ては変化して、現に今だってほんの5分前が既に古い年。

此の感情だってどうなっているか。
毎晩少しずつ表情が移ろう、あの月のように。


「りょん、月が綺麗だなァ。」
「気の所為ですよ。」

夏目漱石の有名な逸話なんて一ノ助が知る筈無い。
そんなつもりも無いと解かってはいても、飽くまで遼二は素っ気なく。
疚しさを隠し持つ自分が頷く訳にはいかず。



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2015.01.02