林檎に牙を:全5種類
苺の季節は春だと思われがちだが、本当の食べ頃は冬である。
12月にクリスマスケーキと云う大舞台があるのだ。
主役として活躍した後、あちこちの外食業界は2月まで苺の祭り。

豪雪でビニールハウスが潰れた年もあり、深い爪痕。
それでも苺の季節はまた巡ってきた。


製菓の業務に携わっていれば決して他人事でない話。
メニューにある苺のページを開きながら、拓真はしみじみ思う。
駅の東口、ファミレスは様々な客層で騒がしい。
周囲の席でも子供や女性が真っ赤なパフェやケーキを味わっていた。

昼食時を過ぎて夕飯にしてもまだ早く、ちょうど中間。
遼二と電車で遊びに行った休日、帰りに小腹が空いて休憩で立ち寄った。

駅ビルまで歩けば「Miss.Mary」の方が近かったけれど。
遼二にとっては職場なので、バイトが休みの日まで行きたくないと渋られたのだ。
拓真はシフォンケーキが良かったが、我が儘に付き合う事にした。
甘い物が食べられるならもう何でも良い。


「さっきから熱心に見てますけど……、パフェ食べたいんですか?」

席に着いてから間もないのでまだ注文も済ませてない状態。
半ばぼんやりしていた拓真に、遼二が首を傾げる。

問い掛けは何の含みも無い筈の声。
しかし、普段が意地悪なのでつい裏や深読みしてしまう。
「似合わない」と言われた気がして。
筋骨隆々とした大男にパフェは確かに違和感があるだろうと。


「いや……、昔、専門学校生だった頃に食べ損ねたの思い出してな。」

今でこそ教員として働いているが、数年前まではあの学校の生徒だった。
拓真が始めた思い出話は今頃の季節。
当時の友達と此処のファミレスに来た事があったのだ。

やはり苺フェアの真っ最中、追加ページがメニューに加わっていた。
赤は鮮烈な色なので記憶に残りやすい。
そうしてパフェを眺めている様はよほど可笑しかったのだろう。
同席していた友達から、盛大にからかわれた。

そんな中で注文する図太さなど拓真には無し。
限定メニューを逃せば、次に食べられるのは一年後。
内心残念に思いながら諦めた。


「保志さんの周りって、他人の食べる物にケチつける人ばかりだったんですね……
 冗談のつもりでも僕は気持ち悪いと思いますよ、その人達の事。」

昔話に対し、苛立ちを伴った冷ややさで遼二が吐き捨てる。

飽くまで笑い事のつもりだった拓真は、予想外の反応に戸惑った。
何故、遼二の方が不愉快そうにしているのか。
空気を悪くするつもりなど無かったのに。


「保志さんが馬鹿にされてるのに、何で僕が笑うと思ってんですか?」
「馬鹿に、て……大袈裟だな。」
「それは気付いてないだけですよ、人が良いのも大概にして下さい。」
「早未、お前……言ってくれるよなぁ……」

お人好しの拓真はよく弄られる立場でもある。
頑丈そうな体格から言葉や拳でどんなに叩かれても平気だと思われる事も。
本当は痛いのに、つい此方も痩せ我慢で何でもない顔をして。

あの時だって、パフェが食べたかったのに。

雑音じみた声に耳を貸す必要なんて最初から無かったのだ。
そもそも笑う方が間違っている。


それにしても遼二だって冷たく接する時の方が多いくせに。
彼が怒っているのは、拓真の代わりか。
自分の事でなくても感情を棘だらけにする理由なんて一つ。

「そりゃあ、保志さんは……、僕の男ですから。」

一瞬だけ視線で刺し貫き、少し低くした声であまりにも直接的。
「恋人」や「大切」とは言ってくれないらしい。

けれど愛を口にしない遼二からすればサービスした方だろう。
解かっているから、此れ以上の言葉は望まない。
寧ろ恥ずかしくて充分すぎる程。
完敗した拓真は返事も出来ず、メニューで赤い顔を隠した。

一人で頬を染めているのは、流石に人目を気にする。
何よりも拓真自身が居心地悪い。


「今日こそ食べたら良いじゃないですか、パフェ。」
「あぁ、そうだな……、そうするか。」
「また今度うちの店に来たら苺シフォンもありますし。」
「……だったら今日が良かった。」

シフォンケーキが食べたかった。
パフェでも良いけれど、本音を明かすならば。

注文が決まって会話は一段落、呼び出しボタンを押した。
今日は苺に刃を突き立てよう。
飛び散る果汁の赤で染まり、欲望に任せて。



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2015.01.05