林檎に牙を:全5種類
「質問です。昕守君は「勝負下着」って聞いたら何色を連想する?」
「俺も質問です、お前は頭大丈夫か?」


眠くなるくらい麗らかな昼休みは、和磨の一声で崩れた気がした。

空は雲が泳ぎ回る青、窓際の席は心地良い陽光で暖かい。
腹も満たされて気が緩んでいた進之介に、不躾な問い掛けが降ってきた。
前の席で漫画を開いていた和磨の所為。

何事かと思えばヒロインが服を脱いだシーン。
覗かなくても、後ろに居る進之介からも否応なく中身が見えてしまう。

学校で読む内容ではないと思うが、口に出すのは野暮。
成年誌でなくたって全裸やセックスのシーンを扱う漫画など幾らでもある。
ただでさえ、和磨が好む作品は赤と黒が渦巻くアングラ系。
女性の下着姿など別に珍しくもなし。


欲しい答えが得られず和磨は早々に諦めたらしい。
本を置いて、改めて進之介の方へ向き直る。
つまらなそうな顔をしてみせてから、頬杖の体勢で口を動かし始めた。

「まぁ上下揃ってる可愛いデザインなら何でも良い訳だけどね、男って。」
「ベージュはカウントしないだろうけどな。」
「揃ってなくてもそれはそれで良いと思うけどね、僕は。油断してる感も可愛い。」
「実物見た事もねぇくせに……」

語ったところで所詮は妄想の話である。
身長ばかり伸びようと好奇心が先走ろうと、まだ青い中学生。
進之介も和磨も異性の影は一切無し。
寧ろ、此の二人が付き合っていると周囲に囃される現状。


「巽君、読まないなら次貸してくれるかしら?」

和磨が閉じたばかりの本に向けて伸ばされた手が一つ。
進之介の隣、声を掛けたのは鈴華だった。

進之介が先程の返答を濁した、本当の理由。
女子が居る前で大っぴらに下着の話なんて出来る訳がない。
下手すれば冷たく蔑まれてしまう。
隣の席なので雰囲気が悪くなるのは避けたいところ。


「あれ、建石さんも本読んでたんじゃ。」
「活字ばかりで少し疲れてきたわ……、絵があるのも読みたくなって。」

鈴華の手元にも、栞を挟んで一時休止した厚い文庫本。
ただでさえ字が小さめなので物語を追うのも少し苦労するのだろう。
あまり読書に縁が無い進之介からすれば大変そうだと他人事。
沢山の文字より愛らしい動物の写真集の方が良い。

「漫画なら伝わる情報多いけど、小説は想像しなきゃいけないのよね。」

試しに、鈴華の読んでいた文庫を手に取ってみる。
文字の羅列は心なしかずしりと重い。
数ページ捲ってみたくらいでは、どんな物語なのか全く解らず。
漫画なら絵柄くらいは読み取れるのに。

「あー……、なるほど。」
「例えば「パンツ一丁」て文が出ても、腰に穿いてるとは限らないのよ。」

またも唐突に話の流れが可笑しくなり、進之介は面喰ってしまった。
耳が故障して聞き間違えたかとすら。
落ち着いた物腰の女生徒が口にする台詞ではない。


「ちょっ、建石さん、何でその例?!」
「あら、最初に下着の話を始めたのは二人じゃない。」
「人が話してる時は口挟まず最後まで聞こうよ、昕守君てば。」

飽くまで平静を保つ鈴華に、半ば呆れた口調の和磨。
飼い主が犬を制するような余裕ぶった様が無性に腹立たしい。
尤も、進之介は獣でないので噛み付いたりせず。
八つ当たりで金色の頭に手刀を落とすと、再び聞く体勢。

「えーと……、じゃ、そのパンツは何処に?」
「全裸で頭に被ってる、て意味かもしれないじゃない。」

恐る恐る訊ねてみれば、またも予想の斜め上。
ああ、そう云う意味か。
納得しかけてしまったのが悔しい。


「被り方にも種類あるわね、帽子タイプとかお面タイプとか。」
「もう良いだろ、何を語ってんだよ女子……!」
「あー、それなら帽子タイプはカジュアルだよね。」
「やめろ和磨、お前まで加わると収集が……つーか、此処に俺の味方は居ないんかい!」

涼しげに言う鈴華は恐らく確信犯、飄々とした和磨は至って真面目。
種類の違う二人掛かりで振り回されては進之介も堪らない。
いい加減、疲れてきて流されそうになる。

「そうね、もうすぐ休み時間も終わるし……、なら、最後。」
「え、何すか……」
「男性の場合も勝負下着ってあるのかしら?」
「もうその話題から離れようよ建石さん!」

一声叫んで、チャイムが鳴ったところで救われた。
休み時間終了の合図に、元凶の漫画は鞄へと押し込まれて消える。
進之介は全く休めなかったものの。


驚いて、焦って、散々な気分。
妄想が捩れてこんな有様、勝負する予定も無いくせに。

それから、あの時に呑み込んだ本音。
下着や全裸よりも、女性は乱れた着衣の方が良い。
乳房が大きければ文句なし。

まだ学ランの殻が硬い進之介は苦笑した。
口が裂けたりしない限り、成長中の煩悩は奥底。



*クリックで応援お願いします

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村


小説(BL) ブログランキングへ

スポンサーサイト

2015.01.08