林檎に牙を:全5種類
雨で巣籠りしていた熊と羊は置き去り。
異性同士でなくては乗れないなら、箱舟の救いなんて要らない。


拓真と遼二が目を覚ました時、部屋は紺藍色を帯びた闇に沈んでいた。
時計が示すのは、始まったばかりの日曜日。
それもこれも降り続いた豪雨の所為。
寝床に潜って凍えていたら、折角の週末が家に籠ったまま半分過ぎた。

真夜中にもなれば、空もいい加減泣き止んで機嫌を直したらしい。
いつからか雨雲は切れ切れになって欠片のみ。
満月の澄んだ光が静寂を包んでいた。


考えてみれば、眠りに就いたのはまだ早い時間。
全身に沁みる雨音と寒さで怠くて、何をするにも面倒だった。

眠ってばかりいる遼二は時に怠惰の塊。
その分、拓真が無精をしても煩く言わないので気楽ではあれど。
二人揃って力を抜いてしまうと少々危ない。
また月曜日から学校生活が待っていると云うのに。

残り物やお菓子で済ませて飯すら碌に食べてない有様。
空腹を思い出してしまうと、とても朝まで待てず。
今から作る気力も無し。


「コンビニでも行くか?」
「どうせならファミレスが良いです。」

拓真が提案すれば、遼二は駄々を捏ねるような声で返事する。
子供でもあるまいし手を挙げてまでの主張。
まだ寝惚け半分なのではないだろうか。
食欲は表しているので、起きる気はあるらしいけれど。

拓真が了承すれば、目を瞑ったまま遼二は満足げに頷く。
寝床から這い出ようとして身震いする。
今まで毛布で守られていた素肌に、闇はあまりにも冷たい。

厚い雨雲で朝から暗く、始まりの判らない夜に服を脱ぎ捨てた。
体液を舐め取る艶っぽい笑み。
抜き差しの苦しさに、奥歯を噛んで泣く様。
あんな表情を晒した後で幼い仕草を見せられると調子が狂う。


手伝いながら何とか服を着せて、ロングのダッフルコートも羽織らせた。
コンビニだったら歩いて行ける距離だがファミレスなら車。
暖房があっても、夜を走るには装備が必要だろう。

やっと眼鏡を掛けると、寝癖の頭にもニット帽。
元からふわふわの髪なので多少乱れたところで今更あまり変わらない。
何だかんだで帽子を被っていると愛らしく見える。
拓真も気に入っているものの、誉め言葉を口にするのは照れ臭い。

「ん。」

拓真もダウンジャケットに袖を通すと、遼二に手を差し出された。
若しかしなくとも「繋げ」の命令。
こうして甘えてくるのは貴重で、指先は拒む事なく絡んだ。
車に乗り込むまでの牽引状態。

助手席に押し込んで、やれやれと一息。
運転席で腰を落ち着けた拓真がキーを回す。
エンジンを吹かし、雨上がりの街へ駆け出して行った。



夜は見慣れた景色を変貌させる。
雨で洗われた街は灯りに濡れて、光の粒が撒かれていた。

進行方向、アスファルトに点在する水溜りにも映った満月。
車のライトと混じり、撥ねられては形を崩す。
目的地まで繰り返し。


何処か幻想的で夢の中を錯覚する。
隣の遼二も唇を結んで、再び寝入ってしまいそうだった。
あまりにも静かで穏やか。
いつもの意地悪な言葉すら恋しくなる程。

背筋を伸ばさねば月に魅入られそうだ。
舵を取るのは鉄の箱、水の引いた夜を彷徨いながら。



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2015.01.10