林檎に牙を:全5種類
怠惰な遼二にとっては「欲求に素直」が座右の銘。
寝たい時には寝たいだけ。
何処だって構わない、目を瞑って力を抜ける場所さえあれば。


水を吸ったタオルを提げながら居間に一歩。
拓真が風呂から上がった時、遼二はその場で眠っていた。
灯りもテレビもだらしなく点けっぱなし。
長座布団の上で丸まり、フレームが歪むだろうに眼鏡すらそのまま。

拓真一人の家なので下着姿で冷たい物を飲むのが日課。
今日は遼二の眼もあるからと服を着たが、見てないなら意味も無し。
何となく損した気分すら混じる。


「おい、せめて眼鏡……」
「……外して。」

拓真は独り言のつもりだったのだが、確かに返事。
夢見心地でも命令は出来るらしい。
反抗もせず仰せのままに。
ブリッジに無骨な指を掛けると、ゆっくり引き抜いた。

夕飯で腹が膨れたら瞼が重くなってしまったのだろう。
畳んだ眼鏡を卓袱台に置いて、どうしたものかと少し考える。

起こすと不機嫌になるので寝かせておいた方が良さそうだ。
ブランケットを掛けてやるか。
それとも、寝床まで運んでやるべきか。


眠たがりなのでこうした事は珍しくない。
拓真の家に着替えも置くようになってから、今も楽な格好。
細身でもジーンズはやはり窮屈らしい。
来て早々ルームパンツに履き替えて、ずっと寛いでいる。

裏表のある遼二の事、外面が良い分だけ疲れたりもするのか。
そう云えば今日もバイト上がり。
店での顔しか知らなかった頃、拓真もあの擬態に騙された。

事実、意地悪さえ言わなければ整った顔立ち。
恋愛対象として意識する前に見惚れた覚えはなくとも、そこは認めていた。
拓真自身が大柄なだけ同性でも別の生き物のようで。
尤も、遼二の方はそうした男でないと欲情出来ないのだが。

カフェも学校も女性の方が多いのに勿体ない話。
しかし、求めている物と違うなら幾ら寄ってきても無意味か。


そうして傍らで寝顔を覗き込んでいたら、遼二の手が小さく動いた。
何かと思えば拓真のパジャマを引く。
今度は別の命令だろうけど、此れだけでは判らない。

「え、何だよ……」
「……別に。」

訊き返してみても、眠い所為か不機嫌になったか素っ気ない。
教えてくれなければ拓真だって応えられず。
察しが悪いとばかりに拗ねられたって、何が正解なのやら。
手を解く訳にもいかず困ってしまう。

身を寄せられたところで勘付いた。
甘えていると思っても良いのだろうか、此れは。

欲求に素直でも、問題はメンタルの方が追い付いてない事。
そればかりでは満たされず。
拓真と付き合っているのだって、劣情だけでは成り立たないのに。


何にしても此のまま放ったらかしでは冷えてしまう。
所詮は長座布団、遼二が寝そべるには狭い。
寝室に運ぼうと細身を持ち上げた。
してあげたいと思った、それが理由で充分。

拓真と遼二では体格に違いがあれど、やはり楽ではない。
どうしても男の身体は質量ある。
腰に負荷を感じつつ、隣まで一歩一歩確かめる足取り。


寝床に下ろす時も優しく慎重にとは少し難しい。
力仕事には自信があったものの、成人男性一人となれば話は別。
自分から始めた事なので文句も言えない。
物理的な意味を抜いても拓真は普段から遼二を支えている、度々。

もう寝るつもりなら、折角沸かした風呂も朝になるかもしれない。
レンタルしてきたDVDもあるのに。
こうして取り残されては拓真一人の夜と変わらず。

けれど不満と云うほど怒っちゃいない、いつも通り。
寝室は灯りを消して、拓真だけ居間に戻って好きな事をすれば良い。


それなのに、腕に収まったままの遼二は解放してくれない。
お姫様でもあるまいし。
ましてや拓真だって王子様でもなし、戦士が良いところ。

「……暖かい。」
「まぁ、風呂上がりだしな。」

眼鏡を外した遼二は心成しか幼い印象。
居心地が良さそうで、力を抜いた顔を見せられては動けない。
いつまでもこうしていれば良いのやら。

それでも笑みを見せず、不必要に触らせてもくれない雰囲気。
このまま済し崩しに情交とはなるまい。
ただ静かに眠りたいだけ、甘えてみたいだけ。
拓真だってそこまで好色でもあらず、別に我慢もしてない。

愛の言葉一つくらいくれても良い状況だろうに。
とは思えど、拓真もそうした台詞は不得意なのでお互い様。


お気に入りのぬいぐるみに縋り付く子供。
今の自分達を例えるとすれば、恋人同士よりもそんな感じだろうか。
大人びていると言われる遼二が隙だらけになる時間。

ならば、その役目を負ってやるのも悪くない。
拓真も遼二の横に並んで横たわった。

掛け布団を引き上げて、抱き寄せた細身に腕を回す。
夢の中までは一緒に居られないから、せめて体温だけでも。
手を繋いだとしても途中で解けてしまう。
眠りから舞い戻った時、此処に居るならそれで良いから。


よく欠伸をしているのは遼二だが、拓真にも伝染しやすい。
瞼が重くなると云うより柔らかな誘惑。
眠りの粉を振り撒いて、凝り固まった物を蕩かす。

同性同士の小難しい問題は置いといて、リラックス出来る相手。
何もしないのが幸福と感じる時すら。

遼二にとってのテディベアはやがて寝息を立て始めた。
抱き癖が付いても噛まれても、色褪せたって。
愛されているならそれで良いからと。



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2015.01.13