林檎に牙を:全5種類
安さが売りの薬局はごちゃごちゃした印象。
ぎゅっと商品を詰め込んだ棚に、派手な色遣いの手書きPOP。
通路も狭いので大柄な一ノ助は少し窮屈そうだった。

大変そうだと思っても遼二には他人事。
どちらにしようかと両手のチョコレートを見比べながら。

ちょっとした間食を買うには、割高なコンビニより便利。
小遣いの残りを計算しながら財布を開く時代。
中学生はどうしても懐が寂しい。

二人ともどちらかと云えば裕福な家だが、すぐ腹が空く成長期。
放課後に寄り道しては、つい食べ物に使ってしまう。
身形に関してはあまり気を遣わず、漫画やゲームも一つあれば長く楽しめる。
大きな買い物をしないだけ細かい物で減っていく。


なので、一ノ助がヘアカラーの棚で立ち止まった時は少々驚いた。
ただの好奇心にしては妙に熱心な目。

「大河、髪染めたいんですか……?」
「いつかの話だけどなァ。」

「見てるだけ」の返答を予想していた遼二は次の言葉に詰まった。
とりあえず、今すぐの話で無いだけ落ち着いて受け止める。
王林中学校は校則が緩い方でも、流石に堂々と染髪は不味いだろうし。
どんなつもりでそう決めたのやら。


「いやァ、俺ずっと昔から思ってたぜ?大人になったら金髪になるって。」
「え、将来の夢がそれで良いんですか?」
「まァ、ズマが羨ましかったからなァ。だって綺麗じゃん?」
「あぁ……」

何となく一ノ助の言いたい事が理解出来て、曖昧に頷いた。
和磨の事なら遼二が転校してきた頃から知っている。
同じ美術部だからと交流があるものの、顔を合わせたのは一ノ助の縁。

イギリス人の祖母を持つ和磨は生まれつき金髪碧眼。
成長と共に少し色素が落ち着いて、今でこそバランスの取れた長身。
昔は本当に小さくて儚げだったらしい。
単純に綺麗な物が好きな一ノ助にとって、お気に入り。

ただ愛でる対象だっただけでなく、羨望でもあったと云う事か。
子供の頃に受けた影響とは大きい。
一ノ助が金髪になっても、和磨のようになれる訳でないものの。

何しろ造りからして違うのだ。
髪色は雰囲気を大きく変えるが、理想通りにはいくまい。


「そうだなァ、進ちゃんが金髪でもズマとは違うだろうし。」
「ああ……、昕守君ですね。」
「ヒヨコみてェになりそうだしな!」
「……本人には言わない方が良いですよ、それ。」
「何だよ、可愛いって誉めてンのに。」
「いや、怒られると思いますよ僕。」

首を傾げる一ノ助は置き去り。
食い下がったりしないので、放っておけば話題なんてすぐ変わる。
そう思っていたのに。

「あー、りょんなら天使みてェになりそうだな!巻き毛で顔綺麗だし。」
「ちょ……、それもやめて。」

「天使」なんて、女が相手なら物凄い口説き文句。
男の遼二は如何すれば良いのやら。
そんな気も無いし饒舌な訳でも無いのに、またもや軽く言ってくれる。


「それにさァ、りょんだって考えたりしねェ?高校デビューとか。」

変わるつもりの無い遼二は同意しかねたが、一蹴などせず。
その気持ちなら何となく解かったから。

三年生になって日々残り少なくなる中学校生活。
一つ一つの年間行事も最後なので出来るだけ思い出を作りたくなる。
しかし、期限を惜しんでばかりもいられない。
先の事にも楽しみを持っていたい、そう云う事なのだろう。


「金髪になって、ピアスも開けたいし。」
「柄が悪いですね……、似合うっちゃ似合うでしょうけど……」
「バイトして好きな物好きなだけ食いたい。」
「まぁ確かに、今はお菓子ですら財布と相談しますし。」
「あとなァ、やっぱり彼女欲しい。」
「そうでしょうね……」

適当に相槌を打っていた遼二の口が、ふと重くなった。
複雑な気分は隠しきれずに漏れる。
割り切っているつもりでも、一ノ助に抱く感情が恋でなくても。

「何だよ、りょんとも遊ぶって。」

笑いながら豪快な手で肩を叩かれ、咳込みそうになる。
いつも鈍いくせに何か察したらしい。
尤も、遼二が寂しがっているとは一ノ助の勘違いでも。


「そン時は、りょんも彼女作って四人で遊べば良いだろ?」
「いや……、それは、無いですね。」
「え、何でだよ?」
「…………」

同性愛者だから。

無責任な口約束なんて出来なかった、そんな日は来ないのだ。
遼二だって女子の友達が居ない訳じゃない。
けれど、カモフラージュで付き合うとすれば不誠実。

本当の理由は呑み込んで、再び口を開く。


「大河が彼女出来るとは思えないから。」
「手厳しいな!」

巻き毛でも綺麗と言われても遼二は天使じゃない。
硬くて冷たい、それで良いのだ。
傷口を塞いであげる役目は自分ではないのだから。



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2015.01.15