林檎に牙を:全5種類
今の時期、寒い外と違って店内は暖房が効いているものだが例外もある。
自動ドアが開けば人口の冷気。
"家庭"を形作るパーツが揃ったスーパーは主婦や子供ばかり。
野菜売り場の緑に出迎えられて、買い物籠を提げた拓真は中へ進んだ。


籠同士がぶつかったり、カートが後ろから来たり。
通路が狭い訳でもなくても移動は譲り合い。
女性ばかりの場所なのだ、ただでさえ大柄の拓真は気を遣う。

仕事以外でも食べ物の事に頭を使っている生活。
夕飯を考えるのは少し面倒な時もあった。
うろつきながら実際に商品を見て、そこから献立を決める。
それでも買う物は大体決まっていた。
買い出しに行く際、今日も片手にはメモを握りながら。

一人暮らしは生活用品の減りが遅い。
余分な物を買うと使い切れない時もあるし、置き場所にも困る。
食材にも期限があるので無駄にしない為の配慮。


籠が重くなってきた頃、ダウンジャケットの襟を改めて正す。
そうして踏み出すと此処は一際寒い。
覗き込めば、息も真白。
冷凍食品のコーナーは手先から体温を奪っていく。

毎食手を抜かずに過ごすのは難しい上、そもそも製菓と料理は違う。
温めるだけで皿に載せられる物だって要る。
言い訳がましいかもしれないが、忙しい平日は頼る事が多かった。


目当ての袋を籠に入れると少し赤くなった指先。
メモ通りに済ませて退散しようとして、ふと拓真は立ち止まった。

向かいの冷凍ショーケースはアイスでいっぱい。
駄菓子屋で馴染みのソーダバーから、上質で濃厚なチョコレートまで。
旬は夏でも冬にこそ美味いフレーバーもある。
季節問わず親しまれるので、寒くても手に取っていく客もちらほら。

見ているだけに留まらず、拓真も何か買う事にした。
今は真冬、家に着くまで溶ける心配も無い。


季節柄、やはりシャーベットよりアイスクリームの方が人気のようだ。
ここぞとばかりに値引きされれば売り上げの伸びも明らか。
拓真の好みならキャラメルに惹かれるところ。
けれど、いざ伸ばした手の行方は。

暫し迷って、ファミリーパックの箱を一つ選んだ。
ワッフルコーンに包まれたバニラ。

キャラメルはまた今度、此れで良い。




「保志さん、何か甘い物食べても良いですか?」
「駄目って言って聞くような奴か、お前?」

夜は巡って、金曜日の夕暮れ。

今週もまた平和に終わりを迎えようとしていた。
質問が交わされたのは拓真の家、寛いでいた遼二から。
夕飯前で小腹が空いたのだろう。
陣取った炬燵で背中を丸めて、猫にも似たしなやかさ。

「保志さんが駄目って言えるような人なら、の話ですね。」

巧く返したつもりだったが上手はあちら。
拓真が遼二に対して甘い事を見透かされているのだ、結局。
否定出来ずに「どうぞ」と冷蔵庫を指差した。

一応は許可を得てからだが、拓真の家にある物は好きに飲み食いさせている。
遼二の方が台所に立つ事もあるのだし。


こうして冷凍庫が開けられた時、拓真は少しばかり神経が尖った。
どうも心音も早い気がする。
顔に出ないようにと、口の端を引き結びながら。

「あれ、アイスあるんですか?」

遼二の驚いた声で心臓が小さく跳ねた。
ああ、気付いたか。


「あっちゃ可笑しいか?」
「実習のお菓子も食べ切ってないのに……、へぇ……」
「何だよ、嫌な言い方すんなよ……」
「いえ……、ありがとうございます。」

がっかりしそうになった拓真に、遼二は嬉しそうに礼を言う。
即ち、拓真の思惑も見透かされていた証に他ならず。

冷凍庫の空きスペースをわざわざ埋めた理由。
遼二の好物だからと用意したのだ。
家に来て、アイスクリームの箱を見つけた時の事を期待して。

それもこれも明らかになってしまうと恥ずかしい。
格好がつかなくなってしまう。


「で……、アイス食わないのか?」
「夕飯の後で良いです、一緒に食べましょうか。」

お楽しみは後で。

それなら夕飯の支度も早く済ませてしまおう。
気を取り直すと、拓真はもうすぐ煮える鍋へ再び向かった。
一人の食卓だったら適当なのに。
ご馳走する相手が居なければ、こんな熱心にならないのに。



*クリックで応援お願いします

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村


小説(BL) ブログランキングへ

スポンサーサイト

2015.01.19