林檎に牙を:全5種類
「あれ……、花住坂さん大丈夫?」

生徒達は部活で出払ったか、帰宅したかに分かれる日暮れ時。
和磨が人気の無い廊下を通り掛かったのは偶然だった。
見慣れた顔を見つけて、思わず一声。

隅っこに座り込んで顔色の悪い都来。
それから、何とか彼女を抱き上げようと四苦八苦している優。

状況は何となく察しがついて、和磨は一人で小さく唸った。


確かに、今日の都来は何だか具合が悪そうだとは思っていたのだ。
普段が元気だけに変化は分かりやすい。
「大丈夫」と繰り返していたが、とうとうダウンしてしまったのだろう。

それにしても、二人とも帰宅部だった筈。
遠慮なく家へ急いで構わないのに。

「だって~……今日の部活は、孤独なイカスミスパ殺人事件が……!」
「とりあえず保健室、俺が連れてくから……」
「はいはい、二人とも無理しないの。」

都来よりも小さい優では、立たせるのも困難。
ぐったりしている人間を運ぶのはただでさえ並み大抵でないのだ。
通り掛かったのが自分で良かった。
長身で足腰も弱くない和磨なら女子一人くらい背負える。

何とか体制を整えて都来を持ち上げ、保健室を目指して歩き出す。
物言いたげな口を噤んだ少年をお供に。



都来をベッドで寝かせて一段落。
自力での帰宅は無理なので電話で彼女の親に送迎を呼んだ。
風邪の症状が出ているが、横になっていればとりあえず安心だろう。

和磨に礼を言って早々、都来は目を閉じてシーツに沈んでいった。
もう一人から労いくらいあっても良いものだが。
そこまで素直にはなりにくい年頃。
自分が運びたかったのに、と不貞腐れた様子の優。

人助けで嫉妬されては和磨も肩を落とししまう。
好きな子に触れられるのは嫌だろうけれど、あれは仕方ない。


「そりゃ良い気はしなかったろうけど、八鹿君一人じゃ……」
「分かってる……、俺がチビじゃなきゃ……」

ああ、そう云う事か。
腹立たしいのは自分自身に対してらしい。


成長期に当たる小中学生は個人差が大きく分かれる。
まだ女子にも間違われる優に、そうでなくとも発育が良い都来。
未熟な頃なのは心の方も同じ。
コンプレックスが積み重なっても可笑しくない。

「俺、都来が守れるくらい大きくなりたい。」
「そうだねぇ、成長期遅い方が伸びるだろうし。」
「そんで、巽にもヘッドロック掛けてやる。」
「やっぱり怒ってんじゃないの……!」

クールと言われる優も、やはり攻撃性なら持っている。
掴まれそうになって寸前で受け止めた。
意図せず手を握る形、現状に和磨は苦笑してしまう。

意外と骨張って長い優の指。
視線を下に向けると、上履きもそんなに小さくない。
手足が大きければ背も後々伸びる。
頑張れ、と少年に対して和磨が胸の中で呟いた。


コンプレックスなんて誰でもあるものだ。
もうすぐ180㎝に届く和磨だって。
服が窮屈で、少し伸び過ぎだと気にする時もあった。

優に分けてあげたいくらい。
なんて口走ったら、容赦なく拳が飛んで来そうで呑み込んだ。



「ところで、花住坂さん変な事言ってたけどアレ何?」
「教えてやんねぇ。」

和磨が首を傾げてみても、優は横を向いてしまう。
知っている口振りを残して。
こうして謎を残したままで、行き倒れ騒動は閉幕。



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2015.01.21