林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)
カーテンを閉め切れば、アパートの中は夜になる。
ただでさえ朝から灰色の雲で埋まった空は時間が読めない。
どうせもう家から出ないので構わないけれど。

玄関で遼二を出迎えて早々、碌に口を利かないまま拓真は捕獲される。
寒くて堪らないとばかりに体温を求められて。
ドアを閉じたら誰の目も気にせず。
手土産に提げられていた袋から、入浴剤が足元に転がった。

太陽を浴びずに家で過ごしていると、どうも自堕落になりがち。
欲だけで生きている訳じゃないのに。


男臭い外見の割りに拓真は性欲に淡泊だった。
飽くまでも相手を壊れ物のように扱う。
遼二への感情を自覚した後も、触れたいか否かまで踏み込めずにいた程。
結局、当人から押し倒されるまで。

どちらかと云えば、持て余している節があるのは遼二の方。
それはまだ若い所為だけでもない。

同性愛者として多少なりとも長年苦しんできたのだ。
溜め込み続けていたものだってある。
やっと吐き出せるようになったのだからこうなっても仕方ない。
故に、拓真は遼二の好きなようにさせていた。

学校がある平日では手すら繋がず、たまに夕飯を共にする程度。
週末のみなら遼二だって抑えている方。


シャツの裾から潜り込んでくる、冷えた指。
脇腹を撫でられた拓真に震えが走って思わず狼狽してしまう。
そうして、腕に引き寄せた青年はさも可笑しそうに口許を歪めるのだ。

普段の素っ気なさから、どうしてこんな艶が生まれるのか。
初めて目にした時は息を呑んだ。
裏表が鮮やかなのは知っていても、考えた事など無かったのに。
後押しされて、此方からも手を伸ばした。


乾いていた唇を押し当てると柔らかさより痛みが先立つ。
キスの拍子に切れたようで、血の味が一滴混ざる。

けれど、凶暴なのはあちら。
拓真の傷を舐めて労わるより甘噛みで血を味わう。
首筋を擦った爪も薄い痕を残す。

ぶつかった鼻先で小さく音を立てている眼鏡。
吐息でレンズが曇っては既に邪魔。
外してやると、涼しい目元が至近距離で見上げてくる。
何処か冷たくて嗜虐的な表情。

遼二が覗かせた舌も、きっと紅に染まっているのだろう。
暗がりに慣れてしまった目に映るのは全て漆黒。
ただ、微かな灯りで潤んでいる様が色を匂い立たせる。


「痛……ッ!」

見惚れそうになったら、乱暴な手で床に引き倒された。
本来なら細身の遼二に体重を掛けられても受け止められるのに。

何だ、と拓真が顔を顰めたって応えちゃくれない。
言葉が通じず欲望のまま。
此れでは全くの獣ではないか、まるで。

遼二が飢えを感じているのは確かなのだろう。
圧し掛かりながら、今度は口腔を抉る深さで塞いでくる。
少なからず捕食されている気分。
鉄錆の匂いに慣れてしまうと、唇から噛み千切られる錯覚さえ起きた。


とは云え、そこばかり喰い付いている訳でも無い。
もっと物欲しくなった冷たい手は下を目指す。

再び腹をくすぐってからデニムの留め金を外しに掛かられる。
流石に拓真も身構えたが、止めたって無駄な事。
布の奥は簡単に開かれた。
手荒にされても強張った場所を外気に晒す。

寝そべった床は冷たくて、そのうち芯まで沁み込んでくる。
下腹部だけ熱を持っているのが妙な状況。
程なくして其れも遼二に咥えられ、体温が交わった。


唾液と蜜が一つになって滴る。
零れるのを惜しんで啜られると、耳を刺す生々しい音。

獣になっても、舌を絡める時だけは恐ろしく丁寧なもの。
進んで顔を埋めて口付けてくる。
それは優しいとか悦ばせる為でもない気がしていた。
寧ろ、拓真一人だけを弱らせる。


追い詰められて次第に息が上がってきた。
遼二の望む通りにしてやるなら我慢する必要も無い。
それでも少し情けなくて、一欠けらの自尊心で堪えてしまう。

ふと目をやれば、下から催促してくる視線。
「もう良いかい?」と訴えて。

いつも溜息は降服の代わり。
所詮、弱みを握られている状態では結果など決まっている。
もう恥など捨てて、口腔を穢した。


舌を封じられているので喉から零れるのはくぐもった声。
言葉にはならず、どうしも苦しげ。

待っていたとは云えども決して楽じゃない事。
喉を鳴らして遼二が飲み干す。
解放されても、その眼が濡れているのは涙の所為。
吐き出したって構わないのに此方が居た堪れなくなってしまう。

乗り越えて、息を整えても終わらない。
あまり汗を掻かない遼二は何処か褪めた色を隠している。

こんな時でも拓真を不安にさせる要因。

強いられているつもりなど無い。
もっと寄り掛かってくれたって良いのに。


濡れたままの唇を、もう一度重ねた。
止まりかけた血に色濃く残っていた白濁が触れる。
傷に沁みたって別に良いから。

「……好きだからな?」

慣れない事はするものじゃない。
滅多に贈らない一言で、囁いた拓真の方が気恥ずかしい。


「ええ、知ってます。」

初めて喋ったと思えば甘くない返事。
同じ言葉を返さない辺り、遼二は底意地が悪い。
それで余裕を吹き返したとしたら言わずとも良かったかもしれない。
一度口にした以上、後悔まではしないけれど。

主導権があちらに戻って、拓真はただ腕を回した。
今は黙ってキスされる事にして。
目を瞑って心地良い暗闇、全身に血が巡る感覚。

望まない限り朝は来ない。
ずっと此処は、夜の中。



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2015.01.23