林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)
日曜日は足早に夕暮れを連れて来る。
何もしなくても、何処へも行かなかったとしても。

月曜を迎える為に遼二はバッグを提げた。
ルームシューズからスニーカーに履き替えると、爪先が凍える。
いつまでも此処には居られない。
そろそろアパートからおさらばしなくては。

「それでは、また明日。」

離れた唇で一言だけ残し、拓真の見送りは玄関までで押し留めた。
一歩外ではキスすら出来なくなるから。

扉を閉めたら週末の終わり。
静まり返った薄闇に、階段を降りる音が冷たく響く。
其処から先は振り返らない。
窓から拓真が見ていても素知らぬ顔、靴を鳴らして自宅へ急ぐ。




遼二の自宅は駅を挟んでアパートの反対側。
車で送迎して貰う時もあったが、徒歩なら良い散歩の距離。
寄り道しながら帰路を辿るので一人でも構わない。

家に到着した頃、途中で買ったコーヒーは温くなってしまった。
外泊は毎週の事なので帰宅の挨拶もそこそこ。


自室のドアを開ければ、閉め切られていた空気は微かな淀み。
此処に越してきてから過ごした数年。
慣れ親しんだ匂いは遼二の物なのに、妙な懐かしさ。
ほんの二日で忘れてしまった訳じゃないのに。

打ち払うつもりで窓を開ければ、夜の街から風が運ばれてくる。
住宅地のアパート方面と違って此方はネオンが近い。
空に星が見えない日でも、眠らない光が一晩中散らばっていた。


半分だけ中身が残った紙コップを机に置いた。
部屋着になっても、遼二が腰掛けたのはベッドでなく学習チェア。

別に、疲れてないとは言わない。
普段から無駄な眠気を引き摺っている遼二の事。
ただ寝そべるだけでも良いのに、どうもそんな気分になれなかった。

金曜日の朝に整えてからずっと無人ベッド。
肌に馴染んでいたシーツも換えたので、今敷いてあるのは新しい物。
綺麗にしたまま放置されて他所他所しい。
乱してしまうのが勿体ないような、寒そうで気が引けるような。

頬杖の体勢で目を瞑った。
街の声は遠くて、耳をくすぐる程度で通り過ぎるだけ。
刻一刻と静かに夜は流れていく。

眠らなくても朝は来てしまう。
もうじきベッドに潜らねばならない時間、その前に。


今日の事を反芻して、吐息が揺らぐ。

コーヒーを啜って、舌を染める。
甘くしなければ飲めない遼二は今まであまり口にしなかった。
此の苦味を好む唇を知るまで。
重ねる時に匂い立って、嗅覚で呼び覚まされる記憶は鮮明。

冷たい指で衣服を緩めた。
男の手に愛でられた軌跡を辿る為。


自慰の時、ベッドに隠れないのは癖みたいなもの。
机に突っ伏すには眼鏡が邪魔。
半ば放るように外して背中を丸める。

誰の目も耳も無いのに食いしばった奥歯で声を殺した。
自分自身が酷く滑稽で、殻に籠るように。
物足りなかったのではない。
ただ、触れられた事を確かめたかった。


血色の悪かった掌が下腹部の熱に触れ、身震いする。
本当は大きくて温かな手が恋しい。
それでも撫で擦るうちに体温も上がって、蜜を生む。

火の点いた欲情は止まらない。
水音が絡めば、臨界点まで真っ直ぐに。

「……保……ッ、さ……ぁ……!」

掠れた喘ぎが空気を引っ掻いた。


快楽の大きさに関わらず、吐き出す量はいつも同じ。
白濁で粘着く手を翳しながら息を整える。

零れてしまった声は瞬時に掻き消えても、自分の耳が知っていた。
意識した遼二は悔しげに低く唸った。
ブラックを飲んだ後のような表情、それでも淡い朱色。

ああ、また秘密が増えた。


単に欲情の一方通行だった時は念入りに殺していたのに。
気付かぬ間に緩んでしまったと舌打ちする。

素直にならずとも遼二は冷静だった。
此の敗北感は、それだけ惚れているが為だと気付いている。
拓真本人だけが知らないまま。



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2015.01.28