林檎に牙を:全5種類
今月は交流でわちゃわちゃしてるけど、ネタあるし自宅分も書かねばとハロウィン物。
書きやすいってのも理由ですが今年も深砂×和磨でお送りします。
作中でハロウィンを正しく理解してるカップルって、此の子達だけだしねぇ。
ガラスの器には、柔らかく瑞々しい橙色。
一匙含めば濃厚な甘さ。
南瓜プリンを食べながら、何となく呆けた気分になる。
褐色に焦がした砂糖の苦味も効かない程。

そんな訳で、袖を引かれるまで気付かなかった。
匙を咥えたまま深砂が振り向けば、其処には恋人の姿。


「Trick or treat!」


"お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ"、て?
要するに、自分にも頂戴と強請っているのだろう。
戯れつく笑みで和磨は軽く口を開けて待つ。

たった一口、プリンを惜しむ訳じゃないけど。


「あげないよ、此れは私のだもん。」
「えー……」
「悪戯で良いよ、どうぞ和磨君のお好きに?」
「えぇ……?!」

ほら、出来もしないくせに。

予想外の返答に、言葉を詰まらせた和磨の頬が染まる。
悪戯って何を想像したんだか。
涼やかに口許だけで笑い飛ばして、深砂はまた一匙。

「其の台詞言うなら、仮装して出直しといで。」
「うぅ……何か深砂ちゃん、今日冷たくない……?」

他人には気怠げな薄笑いしか見せないくせに。

限られた者の前でだけ和磨は表情がよく変わる。
元から感受性は強い方。
優しくすれば柔らかく、冷たくすれば潤み、翠の双眸には忙しない。
すぐ紅が差す顔も色素が薄いだけに目立つ。

何となく焦れた気持ちになった深砂が、銀の匙を噛んだ。
横目で窺えば、和磨は指を組んで居心地悪げ。
彼だって本当にプリンが欲しかった訳ではないのだろうけど。


結局、器の底に残っていた一匙分も深砂の口へ。
橙色を舐め取ったところで、背後から伸びてきた長い腕。

ほんの一瞬で小柄な深砂を包み込んで、捕まえる。
ただでさえ長身の和磨には造作も無く。
抱き付く肌は馴染み深い果実の香り。
彼女の脈打つ首筋に口付けて、顔を埋めて、そして静止。

「……やっぱ、僕……此れで精一杯。」

消え入りそうな語尾。
気恥ずかしさに負けて、悪戯は此れにて中止らしい。
する方が照れて如何するんだか。

でも、頑張ったのならご褒美が必要なところ。

最後のプリンは口腔に留まったまま。
顎を掴んで深砂から唇を重ね、溶けかけた橙色を分け与えた。

「っあ……!」

抱き竦めただけで終わりにするつもりだったのだろう。
南瓜とカラメルの絡んだ水音に驚き半分、和磨が小さく声を零す。
一言だけで総毛立つ程に甘く。


「Trick or treat?」


離して紡がれた唾液の糸すらも余裕。
唇を舐めて問う深砂の姿は、和磨には全く予想外の事か。
半開きで呆けた口許を大きな手で覆って、赤い顔。
隠したところで此方には全部お見通し。

「深砂ちゃん、あの……仮装してないと、言っちゃ駄目じゃなかったの……?」
「ああ、うん、仮装って程には大袈裟なモンじゃないけどね。」

俯こうとする和磨の顔を引き戻して、視線を固定する。
見ている前で上着の蝶結びを散らした。
透き通る白さの深砂の肌には、繊細なレース刺繍の下着一枚。

其れは、蜘蛛が編んだかのような。

そう和磨に囁いたら、自ら巣へと飛び込んだ。
身体を小さくして寄り添う形の抱擁。
敗北の溜息一つ、深砂の胸元に甘く吹き掛かる。


ハロウィンは蜘蛛だってシンボルの一つ。
罠を張る事なんて得意手でしょ?
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2010.10.17