林檎に牙を:全5種類
夏に比べて冬は太陽すらも寝坊気味。
まだ薄暗い早朝、忠臣が自転車で切る風はナイフにも似た冷気。
真っ白な欠伸もすぐに細切れ。
大口で間抜けな顔になったところで誰の目を気にする必要など無し。

今日はまた一段と膨れたスポーツバッグで、前カゴが重い。
持参のスキーウェアはどうもかさばる。


二年生の冬には一大イベント、日帰りスキー教室がある。
バスに揺られて、いつもは教室の窓から見えているだけの真っ白な山へ。
集合時間より随分と早く出てきてしまった。
それだけ楽しみで待ち切れなかったと云うより、生真面目な性分から。

王林中学校のある地域は平野部なので、雪もあまり積もらない。
スキーの腕は生徒によって初心者から上級者までまちまち。

道具は現地でレンタルだが、自分のウェアがある生徒は持ち込み。
毎年のように家族で雪山に行く忠臣もその一人。
浮いた代金で土産のお菓子を頼まれた。
行きの時点でバッグが大きいのに、荷物が増えるのは少し嘆きたくなる。


もうすぐ学校、それでもやはり時間は余裕たっぷり。
今着いてもどうせ待たされるだけ。
下手すると、寒い校庭で震える事になるかもしれない。

ブレーキを掛けたのは、コンビニの前まで来た時。
朝食は摂ってきたが胃袋にもまだ余裕。
土産のお釣りなら小遣いにして良いと言われていた事だし。
暖と食べ物を求めて、忠臣は店内に逃げ込んだ。




「忠臣、おはよ。」
「早かねぇだろオイ。」

暖房の効いたバス内は生徒達を温かく迎える。
とは云えども、もう陽が昇り始めた頃。
忠臣が青葉の挨拶を切り捨てたのは、出発まで時間ギリギリだった。


遅刻寸前でバスに乗ってきた青葉は、今しがた担任に叱られたばかり。
朝が弱いのは勝手だが集団行動でだらしないのは困る。
物憂げなのか、ただ眠いだけなのか。
見慣れた伏し目がちの表情も何となく忌々しい。

大抵バスの席は二人一組。
青葉がシートに腰を落ち着けて、やっと忠臣の隣も埋まる。

周りよりも早めに行動していた忠臣は本当に待ちくたびれた。
食べたい物を片っ端から選んできたコンビニ袋。
苛立ち紛れに飴を噛んでいたところ。

担任に雷を落とされても青葉はマイペースを崩さない。
それより寒い寒いと震え、いつものパーカーも欠かさずに着込んできた。
ウサギ耳が生えたグレーのフードで柔らかい癖毛を隠す。
ただでさえふざけているようにも見えるのだ、確かに大人も必要以上に怒る。


そうこうしている間にドアブザーが出発を知らせる。

のっそりと動き出した車体。
冬山に向けて、バスは校庭を飛び出して行った。


空を射るように、夜明けを告げる赤い矢。
窓際の席は朝陽が眩しくて堪らずに忠臣が顔を顰めた。

日帰りでもどうせ旅行なら電車が良かった。
いや、それでも学校から駅までの移動は結局バスになるだろう。
つい無意味な事ばかり考えてしまう。
目が冴えてしまったので眠くもなくて、退屈で仕方ない。

昔から忠臣はどうもバスが好きじゃない。
暇を持て余しても、乗車中では酔うので読書も出来ないのだ。
活字中毒患者にとっては酷く辛い。


バスガイドの声も右から左へ、耳から抜ける。
窓から車内に少しだけ視線を戻せば。

聞いちゃいないのは隣の青葉も同じようだ。
蹲るようにして体力温存の恰好。
寝坊してきたくらいだから、まだ睡眠が足りないのか。
それとも若しくは。


「……食うか?」

帰りは空腹だろうからと買っておいた、おにぎり二つ。
コンビニ袋を漁って青葉に差し出してみる。


どうやら忠臣の読みは正解。
食べ物に反応して、青葉の表情が一瞬晴れた。
偽物の長い耳が跳ねた気すら。

「あれ、朝ごはん抜いてきたのバレバレ?」
「てめぇ雪山ナメんなよ!ブッ倒れたら連帯責任なるだろ!」

「喧しい」と今度は二人とも叱られて後の会話は小声。
場所を変えても関係は相変わらず。
斯くして、また今日も騒がしい学校が始まる。



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2015.02.06