林檎に牙を:全5種類
「着て来て良かったでしょ?」
「そーデスね。」

妙に得意げな青葉の表情が忌々しい。
反論は無駄な抵抗らしく、大人しく忠臣が頷いた。
肩を並べてパーカー姿。
それぞれ雨に打たれて、細かな水玉模様が浮いている。

フードのお陰であまり濡れずに済んだけれど。
逃げ込んだのは青葉の家。
屋根の下、やれやれとばかりに忠臣は少し苦い溜息。


遊びもそこそこのところで急に降り出してきた休日。
今は優しい小雨だが、自宅まで帰るのは億劫。
普段から忠臣の交通手段は自転車頼み。
合羽を羽織って漕いだとしても全身冷えてしまう。

青葉の家が近かったので、そのまま上がらせてもらう事にした。
此処に来るのも何だか久しぶり。
幼稚園の頃ほど引っ付いてはいられず、来訪の回数は減ったものだ。

成長すれば距離感も変わってくるもの。
流石に過ごしてきた10年は長い。


「……なのに、何で今更こうなるんデスかねぇ。」

忠臣の独り言が指しているのは他ならぬパーカー。
それほど濡れてもないし、エアコンの効いた部屋に居ればそのうち乾く。

ライムの青葉とネイビーの忠臣。
背中にブランド名のロゴと、ウサギの刺繍。
色違いの同デザインは何だか奇妙。
家の中なので人目を気にする必要も無く、そう感じているのは自分だけでも。


先日、二人でショッピングモールへ行った時に選んできた物だった。
袖を通したばかりの新品を濡らしてしまうとは。
女子でもあるまいし、そこまでショックを受ける訳でもないが不運。
濃い色なので色落ちの心配も少し。

それにしても、青葉も持っているなら教えてくれたって良いのに。
待ち合わせで気付いた時は盛大に驚かされた。

そもそもあのパーカーを勧められた訳でもないし、選んだのは忠臣。
色が違えば印象も変わる。
一見しただけでは判らないので、別に良いけれど。

「お前、あのウサギの服ばっかり持ってんの?」
「えー、何?気になるならクローゼット開けても良いよ。」

そこまで興味がある訳でも無し、遠慮しておいた。
制服と一緒に長い耳が生えたグレーのパーカーも仕舞ってあるのだろう。
わざわざ見なくても分かっている。


ノックの音で会話は一時中断。
ドアが開いて、マグカップとお菓子の載ったトレイが届いた。

「ちっス。」

飽くまで軽い挨拶を受けて、忠臣も片手を挙げて返す。
何の事はなく昔馴染みで学校でもたまに見る顔。
お茶を持ってきたのは青葉の妹、歩。


癖が無い髪は丸みのあるショート。
常に微笑んでいるようにも見える糸目、柔らかな印象を持つ。
小柄で華奢だが可愛らしいだけではない。
砕けた口調で、無遠慮な物言い。

トレイを置いてすぐ去ると思いきや。
此方へ小首を傾げて、さらさらと髪が流れる。

「色違いの着てると戦隊ヒーローみたいスね、二人とも。」

結局、歩にも気付かれたらしい。
いっそ笑ってくれたら良いのに、はっきり言われてはどうしたものか。


「なぁ、歩も此のパーカー持ってるとかのオチじゃないデスよね?」
「ソレは出来過ぎだって忠臣、本の読み過ぎじゃない?」
「あぁ、でも良いっスね……、わたしもイエローとか欲しくなってきた。」

余計な事を言ったかもしれない。
疑惑を口にしてから思ったところで遅いけれど。

尤も、歩だって本気じゃないか。
こうして忠臣をからかうのも今に始まった話ではないのだ。
伏し目と糸目、兄妹揃って表情が読み難くて困る。

「変身する時は教えて下さいね。」

そう言い残して、歩は去って行った。
ほんの短時間で随分とペースを乱されてしまったものである。
相変わらずの空気で懐かしいような、疲れたような。


「忠臣は引っ掛かってるみたいだけどさ、お揃いなんて毎日だし今更でしょ。」
「制服の事言ってるのか、お前?学ラン着ないくせに。」
「んー、それに高校でも続くし。」
「そーデスね、そーでした……」

此処を指摘されては、とうとう苦笑せざるを得ない。
マグカップのお茶を飲んで一息。

学力も大差なく、志望校も同じ。
不満があるのならば他を受ければ良いのだ。
そうしない事を選んだのは、忠臣自身。

理由なんて口にするのは野暮。
言わないし言いたくない、それでも青葉は解かっている。


忠臣が気になるのは、やはりクローゼットよりも本棚の方。
許可を貰ってから一冊手に取った。
青葉の部屋でも構わずに膝を崩して気兼ねしない間柄。

雨が通り過ぎるのをただ静かに待って。
閉じ込められてなんかいない。



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2015.02.18