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冬の雨は音までも何て痛いものだろうか。
屋内に居ても容赦なく耳へ突き刺さり、冷気が沁み込んでくる。
ただでさえ一人きりの部屋、寒い世界には居たくない。
ヘッドホンで遮断して七海は音楽の中。
ベースを掻き鳴らしながら、いつか流行ったラブソングを口ずさむ。
声が嗄れるまでのささやかな反逆。
ヘッドホンが外されたのは不意の事だった。
爪までトップコートで艶々した七海とは違う、大きな手。
「……秋一、お帰り。」
猫目で見上げながら告げれば、恋人は破顔一笑。
散歩から帰って上機嫌な犬にも似ている。
車で出掛けても、玄関までは傘が無くて髪に雨粒が点々と。
撫でる手で拭う七海はまるで飼い主。
一人でないなら歌は必要ない。
大事なベースを置いて、二人で温まる為に居間へ。
スリッパの中で縮こまっていた爪先もやっと伸ばせる。
炬燵に足を突っ込めば欠伸まで誘われた。
そうして背中を丸めながら、七海は読み飽きた本を開く。
ふわふわの黒いルームウェアも厳しい冬には心強い味方。
フードに三角耳が生えており、猫になれるフリースパーカー。
本来ならレディースだが華奢な七海でも着られる。
自分が人形になる着せ替え遊びは未だ健在。
そのうち派手に湯気を吐き出す電気ケトル。
立腹した駄々っ子にも似ていて、抱き上げる手も慎重に。
こんな寒い日には温かい飲み物が欠かせない。
マグカップ二つに熱湯を注ぐ。
選んだティーバッグは二匹の猫が遊ぶ銘柄。
小袋を破った時から、封じられていた良い香りが鼻先をくすぐる。
カップの中はたちまち琥珀色。
まだ少し淡いうちに一息吹いて、雫で唇を濡らした。
休息する時は紅茶の方が身体を温めてくれる。
デザイナーの仕事は顧客の注文を聞く必要がある。
そうした打ち合わせの際は大抵コーヒー。
きちんと整えた髪に硬いスーツ姿、背筋を伸ばして飲む物。
嫌いではないが、そればかりでは胃が荒れてしまう。
「おやつにしようか、本汚れるから閉じた方が良いよ。」
電子レンジに呼ばれて、トレイを提げた秋一は遅れて到着。
やはり見上げる形では何を温めていたのか分からない。
口振りから察するに手掴みで食べる物か。
そして、何だか懐かしい匂い。
秋一が膝を着いて、考える前に回答は目の前へ。
炬燵に現れたのは熱々の鯛焼き。
紅茶と和菓子は意外と合う物。
琥珀色が濃くなったところで、秋一がミルクを追加。
七海のカップにだけ。
「七海、コレ好きだったよね。」
「鯛焼きは餡子以外なんて邪道やね。」
「うん、知ってる。」
「パーフェクトだ、秋一。」
秋一の手から鯛に食い付いた。
今度は七海が飼われる番、本物の猫になったように。
此方の好みを把握していて、甘やかされて。
精一杯愛されるのは心地良い。
悪戯猫は目を細め、ご褒美のつもりで指先を舐めた。
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屋内に居ても容赦なく耳へ突き刺さり、冷気が沁み込んでくる。
ただでさえ一人きりの部屋、寒い世界には居たくない。
ヘッドホンで遮断して七海は音楽の中。
ベースを掻き鳴らしながら、いつか流行ったラブソングを口ずさむ。
声が嗄れるまでのささやかな反逆。
ヘッドホンが外されたのは不意の事だった。
爪までトップコートで艶々した七海とは違う、大きな手。
「……秋一、お帰り。」
猫目で見上げながら告げれば、恋人は破顔一笑。
散歩から帰って上機嫌な犬にも似ている。
車で出掛けても、玄関までは傘が無くて髪に雨粒が点々と。
撫でる手で拭う七海はまるで飼い主。
一人でないなら歌は必要ない。
大事なベースを置いて、二人で温まる為に居間へ。
スリッパの中で縮こまっていた爪先もやっと伸ばせる。
炬燵に足を突っ込めば欠伸まで誘われた。
そうして背中を丸めながら、七海は読み飽きた本を開く。
ふわふわの黒いルームウェアも厳しい冬には心強い味方。
フードに三角耳が生えており、猫になれるフリースパーカー。
本来ならレディースだが華奢な七海でも着られる。
自分が人形になる着せ替え遊びは未だ健在。
そのうち派手に湯気を吐き出す電気ケトル。
立腹した駄々っ子にも似ていて、抱き上げる手も慎重に。
こんな寒い日には温かい飲み物が欠かせない。
マグカップ二つに熱湯を注ぐ。
選んだティーバッグは二匹の猫が遊ぶ銘柄。
小袋を破った時から、封じられていた良い香りが鼻先をくすぐる。
カップの中はたちまち琥珀色。
まだ少し淡いうちに一息吹いて、雫で唇を濡らした。
休息する時は紅茶の方が身体を温めてくれる。
デザイナーの仕事は顧客の注文を聞く必要がある。
そうした打ち合わせの際は大抵コーヒー。
きちんと整えた髪に硬いスーツ姿、背筋を伸ばして飲む物。
嫌いではないが、そればかりでは胃が荒れてしまう。
「おやつにしようか、本汚れるから閉じた方が良いよ。」
電子レンジに呼ばれて、トレイを提げた秋一は遅れて到着。
やはり見上げる形では何を温めていたのか分からない。
口振りから察するに手掴みで食べる物か。
そして、何だか懐かしい匂い。
秋一が膝を着いて、考える前に回答は目の前へ。
炬燵に現れたのは熱々の鯛焼き。
紅茶と和菓子は意外と合う物。
琥珀色が濃くなったところで、秋一がミルクを追加。
七海のカップにだけ。
「七海、コレ好きだったよね。」
「鯛焼きは餡子以外なんて邪道やね。」
「うん、知ってる。」
「パーフェクトだ、秋一。」
秋一の手から鯛に食い付いた。
今度は七海が飼われる番、本物の猫になったように。
此方の好みを把握していて、甘やかされて。
精一杯愛されるのは心地良い。
悪戯猫は目を細め、ご褒美のつもりで指先を舐めた。
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2015.02.22 ▲
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