林檎に牙を:全5種類
昔遊んだ玩具を抱けば、たちまち幼い頃の気持ちに戻る。
こうした現象はサイコメトリーの一種らしい。
人の数だけ思い出の品も様々。
くたくたになったぬいぐるみだったり、やり込んだゲームソフトだったり。

そして、此処にも少年の宝物が一つ。


「あー、忠臣まだコレ持ってたんだ。」
「寧ろ、捨てる必要が無いデスよ。」

レンタルショップから戻って、忠臣の部屋でDVD鑑賞会をしていた時の事。
画面に映るのは懐かしいヒーロー達の勇姿。
声を揃えて掲げた携帯、五色のバトルスーツに変身する。
それは決して手が届かない世界とは限らない。

細かな傷が年代を感じさせるが、彼らと同じ携帯は此処にも。
かつて青葉も持っていた変身アイテムの玩具。


服にこだわりが無い忠臣の箪笥には適当な服ばかり。
数も必要最低限で構わないので、引き出しの一番下が余る。
そうして代わりに詰め込まれたのが思い出。
古い玩具は他にも色々あったが、やはり此れが目を引く。

「ごめんね、そこはエロ本でも隠してあるのかと思ってたよ僕。」
「思ってもそっとしときなサイ。」

特撮に限らず、子供番組は玩具を売るのが前提の物が多い。
武器や変形ロボットなどキリが無し。
集め出したら、怪人に襲われる市民より親の財布が悲鳴を上げる。
クリスマスや番組終了間際の値下げ時が狙い目。

青葉も自室に同じ物を仕舞い込んでいたが、はて何処にあったか。
捨ててはいない筈と一人で首を傾げる。


頑丈に作られていても、乱暴な男児に扱われれば簡単に壊れる。
物持ちが良い忠臣の玩具は状態もまだ綺麗な方だろう。
開いてボタンを押せば、変身時の電子音。
年季が入っている所為で若干弱々しいがまだ鳴る。

「サイレンジャー!ゴー・アクション!」
「青葉、ポーズ逆デスよ。」

悪乗りで変身を真似てみると、指摘する忠臣に笑われた。
静かにしろと怒られるかと思ったら寛大。
きっと童心に返っているのだろう。


青葉と忠臣が小学校に上がる年の作品なので、まだ10年経っていない。
救命戦隊サイレンジャーはレスキュー隊がモチーフ。
精鋭五人の若者でチームを組み、悪の組織が起こす超災害に立ち向かう。

子供とは「格好良い大人」に憧れる。
強く優しいエリート設定のメンバーは良いヒーロー像だった。

「忠臣、レッドの人のこと大好きだったよね。」
「そうだな、今でも出演する番組とかチェックしてる。」

特撮は若手俳優の登竜門。
注目を集めれば、数年後には売れっ子になっている事も。
現在の彼らを思い出してみると、悪と戦う顔ぶれは随分若い。


当時の自分達もずっと小さかった。
変身携帯の玩具を片手に、公園でなりきり遊びをしていた頃。

ただ、サイレンジャーごっこは二人だけの時に限られた。
あまり大人数でやるようなものではないのだ。
イエローとピンクは女子と決まっているので、男子五人では出来ず。
子供にだってプライドはある。
幾らヒーローになりたくても、性別までは捨てられない。

それに、友達全員が玩具を持っている訳ではない。
そう云う訳で此れは特別な遊びだった。


忠臣がレッド、青葉はブルーで決まった配役。
何も五人揃わずとも想像力次第だった。
修行中の場面や、他のメンバーが遅れているので持ち堪えている場面。
二人だけでも設定を作れば何とでもなる。

木の枝は剣、滑り台はロボットへの搭乗口。
目線が高くなるジャングルジムはロボットのコックピットに。

「僕、高い所苦手だったからアレはちょっと怖かったよ……」
「ロボに乗れないとか、それでもヒーローデスか?」


それでも青葉が付き合った理由なんて、言うまでもない。
忠臣と遊びたかったから。

あの頃から本ばかり読んでいた忠臣はあまり外で遊ばなかった。
一方、青葉は身体を動かすのも好き。
別にサイレンジャーごっこも無理して合わせていた訳でもなく。
秘密とは楽しいもの、二人だけの特別は心が躍った。

そう明かしたら、忠臣は照れるか呆れるか。
言葉にしても良いけれど何となく黙っておいた。


「オレはお前の家にあるウサ公が怖かったデス、何だよ身長1mとか。」
「えー、でっかいぬいぐるみって可愛いでしょ。」
「クローゼットの隙間から目が合った時は変な声出マシタよ。」
「やだな忠臣、ウサギ怖いとかそれでもヒーロー?」

悪態をそっくりそのまま返されて、棘のある言葉は終わり。
今は口を閉じて画面の戦闘を愉しむ時間。

どれだけ時が流れても成長しても。
あの頃に刻まれた色は鮮やかで、胸の中で光っている。
ヒーローを信じていた時代。



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2015.02.26