林檎に牙を:全5種類
製菓の仕事をしていても「お菓子は手作りが一番」とは言えない。
何処でも買えて手軽に摘まめる既製品。
こう云う物だって親しみがあり、時には思い出の味。


「大漁だな……」
「小腹空いた時に丁度良いので。」

業務用なども扱う食料品店での会話だった。
遼二が選んだのは、マゼンタ色のパッケージでお馴染みな動物ビスケット。
抱えるサイズの大袋をレジに通して満足げ。
こうした荷物を持たされるのは拓真の方なのだが。

シフォンケーキにホットケーキ、メロンパン。
遼二の好物を思い浮かべれば、確かにビスケットも納得した。
飾り気の無い素朴な味が舌に合うのだろう。

車に乗り込んで、他の買い物と一緒にトランクへ。
拓真のアパートへ向けて走り出す。




「コーヒー淹れるか?」
「いえ、折角なので牛乳で良いです。」

食器棚からマグカップを取ろうとして変更、コップを手に。
拓真だけ淹れるのも何なので遼二に付き合った。
ビスケットと一杯のミルク。
テーブルに並ぶのは、まるで子供のおやつである。

袋を破れば、閉じ込められていた焼き菓子の香り。
バターの風味で軽快にサクサク食べ進む。

味や香りは記憶を呼び覚ます物。
久々に口にしたが、変わらない美味さで安堵する。
工場のお菓子だって伝統と技術の塊。
「たかが」なんて馬鹿に出来ず、拓真は密かに感嘆した。


「あぁ、レア動物でコアラも居るらしいですよ?」
「食ってる時くらい携帯放せって。」

ビスケットを噛み砕く行進は止まらない。
それでも合間、遼二は携帯片手に調べ物をしながら告げる。
油の付いた指では汚れるだろうに。

お菓子は目でも楽しむ物。
口に含めば同じ味だろうと、袋に群れを成す動物は様々。
そう云えば子供の頃は一つ一つ翳しながら大事に齧っていた。
首無しや、真っ二つになった正体不明も多かったが。


「英語の印刷あっても、箱の裏にある一覧と睨めっこしますよね。」
「まぁな……、縦だか横だか判らない奴も結構居るし。」

昔、パッケージに目立つキリンもワニも不在で首を傾げた気がする。
割れやすい形でビスケットに向かなかったのが理由らしい。
此れも遼二が携帯を見ながら教えてくれた。

ラインナップされている動物達も疑わしい形が混ざっていた。
耳が無いウサギに、鼻を丸めてしまったゾウ。
シルエットだけで判断するのは難しい。
名前が記されていてもアイデンティティーが崩壊してしまっている。

何となく判る物も、焼いて膨らんだ所為か手足が短い。
型抜き直後はもう少し細かったのだろう。


指先で羊を探り当てた拓真は、思わず見つめてしまった。
此れに関しては何となく細すぎる気がする。
デフォルメされた時は大抵もっと丸々しているのに。
遼二の柔らかい髪にも似て。

視線を察した彼から問われる前にさっさと口へ隠した。
真っ先に恋人の事を連想する辺り、意識すると妙に気恥ずかしい。


「保志さんはこっちですよね。」

不意に含み笑いを零したかと思えば、遼二も同じく。
クマのビスケットを摘まみながら。

拓真は名前を捩って「クマ」が渾名。
ずんぐりしたクマに対し、細く締まったシロクマ。
同じ形で色だけ違う動物はビスケットでこうした差が出来る。
見比べてみれば歴然と。

「お前な、何笑ってんだよ……」
「いえ、ちょっとね……、失礼しました。」

断っておくが、拓真は決して太っていない。
シャツに余裕が無いのは筋肉の所為。

軽く謝罪する遼二の声はまだ震えていて、反省の色など無し。
その頑丈な男が好きなのは何処の誰だか。
こうまで笑いに嵌まってしまったら、暫く続くだろう。


止まらない間はビスケットに伸ばす手も中断せざるを得ない。
ならば拓真が代わりに食べてしまおうか。
少しだけ腹立たしい気持ちも混じっていたのだ。
そのまま口を寄せようとしたら空振り、目の前からクマが消える。

隙を突いたつもりでも、遼二の方はどうやら予測済み。
急に緩んだ空気を引っ込めて余裕ぶる。

「僕のですよ?」

クマに口付けを落としてから、その唇で味わう。
何とも愛しげな仕草で。


当の恋人には意地悪なくせに見せ付けてくれる。
そう考えてしまう事すら如何かしていると、拓真は自覚していた。
まさかビスケットに嫉妬するなんて。

「もう一つクマありましたよ、保志さん食べます?」

食べさせられるのも食べられるのも、きっと同じ事。
此処は遼二の掌の上。



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2015.02.28