林檎に牙を:全5種類
此処数ヶ月で拓真の家は心成しか狭くなった。
マグカップ、茶碗と箸、パジャマにルームシューズ、それから色々。
週末だけでも宿泊続きで着々と遼二の物が増えた所為。

「そうでなくても整頓した方が良いですよ、此の部屋。」
「はいはい……、だからやってんだろ今。」

車があっても力自慢が居ても大荷物だった。
ホームセンターから持ち帰ってきた棚は組み立て式。
ドライバーとネジで格闘して、やっと出来た。
胸までの高さが壁際に幾つか並ぶ。

このままでは足の踏み場も無くなってしまうところだったのだ。
ただ物置だった部屋も、少しは格好がつくだろう。


2LDKのアパートは男の一人暮らしなら充分。
生活スペースなんてリビングと寝室で事足りてしまう。
不要な物は大体の場所を把握していれば良いと、此処の物置部屋行き。

置き場所はあるのだが、いざ探し物をすると一苦労。
無造作に床へ放ったりクローゼットに詰め込むだけではだらしない。
もう拓真だけでなく半分は遼二の陣地。
重い腰を上げさせて、今日こそ二人で片付けを決行した。

整理整頓などは拓真だってしっかりしていると思っていたが。
職場なら兎も角、此処は客人すら招待しない完全なプライベートの空間。
油断しきっている辺り愛しくも感じられる、少しだけ。


かさばる冬物は箪笥の中で場所を取る。
暖かくなってきたので、もう着ない厚手の服などは物置に移動。
寒さに弱い遼二でもロングコートを仕舞い込んだ季節。
換気で網戸にした窓辺は和やかな日溜まり、春が近付いてきていた。

大掃除は荷物の中から捨てる物も仕分けされる。
古いセーターの虫食いを拓真に見せたら、ゴミ袋行きの許可が出た。


そうしてビニール袋に毛玉の服が増えてきた頃。
衣類の山に、埋もれていた赤が一つ。
遼二が掘り起こしてみれば小さなブーツだった。

「あぁ……」

白いフェイクファーで飾られて、ブーツの赤は引き立てられる。
足のサイズは遼二の片手と同じくらいか。
彼は勿論、拓真だって履けやしない。
可愛い靴はあまりにも小さすぎて、それも片足だけ。

誰の、と訊ねられても困ってしまう。
まさかシンデレラじゃあるまいし。

と云うか、持ち主なんて居やしないのだ。
流石にもう中身は無く、入っていたのはキャンディやクッキー。
遼二が此れを見たのは数ヶ月前の話。
クリスマスに、お菓子の詰め合わせとして使われていた容器だった。


「何だよ、此処にあったのか。」
「保志さん探してたんですか?」
「いや、別に……いつのまにか無くなってたから何処行ったのかと。」
「ふーん……」

何でもないような振りして、遼二はブーツを片手で遊ぶ。
すっかり存在を忘れていた。
けれどこうしていれば、真冬に抱いた感情まで思い出す。

華奢な足なら履けるかもしれない。
口を結ぶネットは網タイツにも似ている。

まるで、女の靴ではないか。


拓真が見つけられなかったのも当然。
中身のお菓子を出した後、此処に隠したのは遼二の手だった。

何となく、目に届く場所にあるのはあまり良い気分でなくて。
しかし他人の家にある物を勝手に捨てる訳にもいかず。
拓真だって無いと困るとは思えないが、

今でこそ苦笑してしまう、下らない嫉妬。


足に馴染んだルームシューズを脱いでみた。
遼二がブーツを履こうとしても、爪先しか入らず止まる。
試さなくても判り切っていた事。
お姫様にはなれない、なりたいとも思わない。

「何やってんだよ、お前?」
「いえ、此の色あんまり持ってないなと思って。」

足を持ち上げてみれば、先が引っ掛かっただけのブーツはぶら下がる。
そんな悪ふざけに拓真もつい口許を緩めた。
笑わせるくらいの役には立ったか。

いつまでもそうしている訳にもいかず、ブーツは拓真の手で奪われる。
躊躇う事なくゴミのビニール袋へ詰められて。

「勿体なくないですか?」
「本当に要る物だけあれば良いだろ。」

こうして、遼二の淡い嫉妬も切り捨てられそうだ。

シンデレラを探す必要なんてない。
12時過ぎたって、愛しい相手なら此処に居る。



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2015.03.09