林檎に牙を:全5種類
雲の切れ間から突き刺す陽光に、和磨は目を細めた。
色素が薄いので苦労する、真昼は痛いくらいに感じる事もあるのだ。

そして最近、近眼気味になってきたと自覚しては冷や汗も。
一度低下した視力は戻らない。
変化を認めるには勇気も要るものである。
きっと数年のうちに眼鏡を作る事になる覚悟もせねば。

と云うのも、今しがた見間違いをしたばかりで。

「白い鳥がいっぱい留まってんのかと思った。」
「そりゃ幸せな光景だ。」

並んで歩く、とある春の午後。
和磨が指したのは雪の色で埋め尽くされた白木蓮の樹。
馬鹿にするでもなく進之介はしみじみと。


春とは桜にばかり心を奪われがちだが、開く花はそれだけじゃない。
一面に広がる菜の花畑は黄色が輝かしい。
蕾を膨らませるチューリップも、情熱的な赤や可憐なピンク。

冬の間にすっかり痩せこけていた枝も彩られる。
空に色を散らす花々。

あまり明るくない空にも、白木蓮は鮮やかに浮かび上がる。
天を向いて大きめの花弁を重ねる姿。
それは確かに、遠目では一つ一つが鳥に似ていた。
まるで羽を休める群れ。


花でも美しいものの、もし生き物ならどんなに微笑ましい光景か。
木蓮を見上げながら進之介は少し残念そうに。

動物の好みは犬か猫の二択になりがち。
そんな中で進之介はどちらも否と答え、堂々と鳥を選ぶ。
和磨もウサギの方が良いけれど。
以前「害の無いものが好き」だと言った辺り、根深い物を感じる。

「昕守君、何かトラウマでもあるの?」
「初恋の子がおっかない犬飼ってて……」

ぽつりと零した後、それきり暗い顔で黙ってしまう。
此れだけで大体の事情は察した。
猫の方も気になるが、訊ねるのはまた今度にして。


木蓮と云えば紫もあるが、色がきつくて和磨はあまり好きじゃない。
春が巡るたび清浄な白の方に魅力を感じる。

そして、木蓮はとても儚かった。
雪のように降る桜と違い、散り際も羽をもぎ取られた鳥になる。
あっという間に薄汚れてしまう花弁。
地に伏して絨毯を敷けば、何処か残酷さを感じる程だった。


「夕方から明日にかけて大雨の予報出てるし、今が花盛りだろうな……」
「そうだねぇ、残念だけどみんな死んじゃうね。」

進之介の呟きに和磨も頷いたら、顔を顰められた。
面食らったようでもあれば嫌そうでもあり。

「死ぬとか言うなよ、和磨……、何か後味悪いわ。」
「だって、そうでしょ?天災で犠牲が出るのは自然の摂理だって。」

本物の鳥でもないのに、つい大袈裟な言い方をしてみる。
広い意味では植物も生き物ではあるが。
そこを指摘するかと思いきや、進之介は単に「死」の単語に気分を害したか。
冗談であっても悪質に感じるのだろう。

足が根付いた花弁の鳥は逃げられない。
風雨を待って命を落とす。
雲が去った後には裸木と亡骸だけが残り、物悲しい春。


「あー、そっか……昕守君ヒヨコだし、鳥類に親近感湧くんだね。」
「何じゃい、それは。納得したみたいに言うな。」
「未熟なところはそっくりじゃないか。」
「どうあっても俺の事ヒヨコ扱いすんだな、こんにゃろー……」

進之介からヒヨコを連想するのは、すっかりイメージが定着している所為。
手持ちのグッズにモチーフや黄色が確かに多いのだ。
それに、一度喚けばピーピーと。

しかし、進之介だって馬鹿ではない。
和磨の言う通りになってしまうのは避けたいところ。
押さえ付けた腹立たしさを呑み込んで、深呼吸。
余裕ぶって文句の代わりに一言。


「俺がヒヨコなら、和磨は孔雀だろ。緑だし、やたら派手だし。」

きっと渾身の力を込めたつもり。
孔雀に例えられたところで寧ろ賛辞になるのに。
和磨も思わず笑いを堪えて、口許を歪ませる程度で返した。

「そんな、僕が孔雀みたいに優雅で美しいなんて……昕守君てば。」
「誉めとらんわ!」

和磨だって別に貶すつもりで「ヒヨコ」と表したのでもない。
結局のところ、進之介は”良い子”なのだ。
中傷も嫌味も全くの不慣れ。
そんなところが可愛いと思う、口に出さないけれど。


ヒヨコは飛べず、孔雀だってほんの短距離だけ。
空をよく知らないのはお互い様。

雨を呼ぶ風で、白い鳥の花が幾つか命を散らした。
ひらひら舞った羽は進之介の頭に。
可愛いから黙っていよう。
幼い黄色が似合う彼も、どうせいつか雄鶏の白に変わる。



*クリックで応援お願いします

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村


小説(BL) ブログランキングへ

スポンサーサイト

2015.03.29