林檎に牙を:全5種類
幾多の音楽が混ざり合えば、どんな名曲であろうとも雑音。
それも大抵は耳に痛いボリューム。
ゲームセンターとは非常に喧しい場所である。
片手に小銭を鳴らしながら集まる者達にとっては楽園でも。


「違うっつの……、そっちじゃない。」
「あれ、昕守君どっかで待ってて良かったのに。」

ショッピングモールのゲームコーナーは前を通るだけで賑やか。
進之介と和磨、二人の会話もすぐ掻き消える。
腕を取って引き寄せなければ、碌に聞こえやしない。

二人で買い物中「両替をしてくる」と和磨が飛び込んで行ったのは先程。
一度は別れたものの、結局進之介も中まで着いて来てしまった。
別に置いてけぼりでも寂しくないけれど。
それに、忠告せねばいつまでも待たされそうで。


「両替機なら入り口にもあったろ、何処まで奥行くんかと……」
「えっ、マジで?やだな、全然気付かなかった。」

財布を握ったまま左右に当てもない足取り。
見かねた進之介が案内したお陰、やっと辿り着けた。
紙幣の代わりに等価の百円玉。
銀貨が受け取り口に叩き付けられる音は、鋭く重い。

それにしても、成り行きとは云えゲームコーナーなんていつ振りか。
普段ならあまり足を踏み入れたりしない。
ただ縁が無かっただけで、別に嫌いではないけれど。


昔なら不良の溜まり場。
和磨でなくても派手な色の髪をした若者が居座っていたものである。
今は親子連れや女性が増え、全体的に明るい雰囲気。
そうした客層向けのゲームや景品も目を引く。

「折角だからちょっとだけ遊んでいく?」

和磨の提案に進之介も軽く頷いた。
モール自体、どうせ明確な目的があって来た訳でもなし。

二人ともゲームはしない方だけにどれも新鮮。
一種のギャンブルなので、欲望に任せれば小銭は呑まれるばかり。
使い過ぎなければ平気だろう。
そうして決めたら急に楽しくなって、進之介も財布を探った。


「けど目がでっかく写るプリクラだけは断るからな、俺は……
 ただ撮るなら別に良いけどよ。」

どれにしようかと迷う前に一言。
すぐ近くのプリクラが視界に入って、進之介が付け足した。

カーテンの向こうは小さなスタジオ。
複数ある機種はそれぞれの持ち味を謳い、堂々と構えていた。
小顔に美白、クリアな写りからふんわり優しい効果まで。
順番待ちする少女達は皆モデルになった気分らしい。


あの列に居る面々と似たような感性を持つ和磨の事だ。
暇さえあれば鏡ばかり覗いているし。
なので、てっきり最後尾に誘われると思っていたが。

「昕守君、知らないの?男だけでのプリクラは禁止されてるんだよ?」

そう首を傾げつつ、プリクラ使用についての注意書きを示す。
「男子禁制」の文字は確かにあった。

理由は盗撮や覗き、ナンパ防止。
女が集まる場所ならカメラを仕掛けたり、声を掛けたりする男も。
マナー違反者が相次いだ結果の配慮。


「お前ナルシストだし、あーゆーの大好きかと思ってたわ……」
「あんな加工しなくたって、僕は元々美しいから要らないよ?」
「おい、それプリクラ並んでる女子に失礼なんじゃ。」
「良いんだよ、自分を可愛く見せようとする女の子はそれだけで可愛いから。」

美に対する和磨の持論は独特。
理解出来ない進之介の耳に、疑問符だけ残して右から左へ抜ける。
こうしてまだ暫く続くかと思えば。

「そもそも男だけでプリクラ撮りたがる人あんまり居ないし……
 あ、ごめん、昕守君そんなに僕と撮りたかった?」

からかいもせず至って真顔で言ってくれる。
腹立たしいので頬を抓っておいた。


さて、プリクラ以外となるとどれで遊ぼうか。
他にもゲームなら選び放題。
進之介と一緒に和磨も腫れた頬を撫で擦りながら探す。

「ねぇ昕守君、あれは?」

迷い込んだのはUFOキャッチャーの森だった。
呼び掛けられる一声に、ふと足が止まる。

近くて遠いガラス越しに豪勢な景品。
本来なら高価で精密なフィギュア、大箱入りのお菓子。
小銭で取れるなら安いもの。
そして和磨が指したのは、眩しいくらいの黄色一色。

進之介にとっては大変見覚えのある物だった。
それもその筈、ヒヨコの群れ。


とは云っても、まさか本物ではない。
UFOキャッチャーの景品でメインはぬいぐるみ。
抱える程の大きさから、ストラップ用の手の平サイズまで様々。
可愛くても此処まで揃うと圧倒される。

「コレはね……、昕守君は是非やるべきだと思う。」
「そりゃ好きだけどよ……、まぁ、一回な。」

確かにグッズなら幾つか持っているけれど。
偶々キャラ物だっただけで、そこまで好きな訳でもないのに。

黄色くてふわふわの身体と黒いボタンの目。
何となく勢いに押されて「まぁ、良いか」と小銭を投下。
クレーンは命を吹き込まれた。


百円玉で一回、五百円玉で六回。
始めるとつい熱中してしまう魔力がゲームにはあった。
低い唸り声を上げては旋回するクレーン。
睨み合いを続けながら、進之介は慎重に操作する。

半額ずつ出して、三回ずつの挑戦中だった。
先攻が和磨、後攻で進之介。
二人合わせても成果は未だに全く現れないままで。

軽い気持ちで挑戦したものの、一つも取れないとは。
ストラップくらい得なければ勿体ない。


「そーいや、今更なんだけどよ……和磨、このキャラ知ってるか?」

少しだけ集中を解いた進之介が質問を投げ掛けてみた。
そちらを向かずとも、和磨の驚きなら伝わる。
ガラスに薄く映る目の丸さ。

店頭で見掛ける事ならあるし、グッズ自体も持っている。
それでも興味は別なので、此のヒヨコに対して知識なんて無かった。

キャラクターはちょっとした設定が付き物。
シリーズには他の動物も居るので、個別の名前までは判らない。
和磨なら詳しそうだと訊ねてみたところ。

「僕もそんなに……どっかでプロフ読んだけど、何だっけかな……」

それきり記憶を探って和磨は言葉に詰まる。
なので、期待はしてなかったのに。


「あ、そうだ。鳴き声が「げきょろろろ」らしいよ。」

不意打ちを食らい、吹き出したのは仕方ない。
その拍子にクレーンの手元が狂った。



「めっちゃ見られんだけど……、和磨、引き取ってくんねぇ?」
「え、昕守君が取ったんだから自分で持って帰ってよ。」

ゲームコーナーを後にする進之介は、戦利品を小脇に抱えながら。
黄色い塊は擦れ違う人々から無遠慮な視線を刺される。
目立つに決まっている、こんな大きなヒヨコ。

ストラップで良かったのに、どうしてこうなったのやら。
思っても見なかった結果に溜息を吐く。
笑わせた和磨の所為だ。
そう云う事にしておいて、ぬいぐるみを持ち直した。

二人と一羽、揃って辿る帰路。



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2015.04.01