林檎に牙を:全5種類
図書室は「本の虫」と呼ばれる生徒達が集まる。
紙面に広がるのは知識、或いは娯楽。
一冊ごとに違う世界。
文字や絵を好きなように味わって育っていく。

入り口脇の受付カウンターからはそんな彼らを見渡せる。
皆一様に本を貪って静か。

それもこれも、淑やかな雰囲気を持つ司書教諭の所為。
喧しくすると自分が恥ずかしくなるような。
端正で中性的な顔立ちの優男。
図書室の主、軽海はパソコンに向かいながら猫目を引き締めた。


「軽海さん、ソレ本っ当に仕事デスか?」
「あんまり見るもんじゃありませんよ、パソコンはプライバシーの塊です。」
「いやぁ、僕らからばっちり見えるところで言われても。」

忠臣と青葉に水を差されたのは、とある昼休みの事だった。
切り取られたカウンター内での会話。

尖ったベリーショートと跳ね気味の柔らかい髪。
入学してから此処に通っていた二人。
そのうち顔を覚えて、軽く喋るようになって。
図書委員を選んだのも自然な流れか。


三白眼の忠臣が訝しげな表情を作ると少し迫力が出る。
たじろぐ者も居るだろうけれど、軽海は大して怖くなかった。
所詮、つい先日までランドセルを背負っていた子供。

青葉からも伏し目を向けられているが、あちらは元々。
何か物言いたげでも気にしない。

「ばっちり見えた」とまで言われては短く溜息を吐いた。
大慌てで隠すなんて無様な真似は晒さない。
画面に並んでいるのは、確かに仕事と無関係な文章の羅列。


此れが他の生徒相手なら、適当に誤魔化すところ。

容姿に優れた若い軽海は女子から人気があった。
その割りに、ファン達は遠目で眺めているばかりで慎ましい。
彼自身に何となく近寄り難いものがあって。
ある程度親しくなっても、奥まで踏み込んだりさせない。

女子達も軽海にミステリアスなイメージを保ちたいのだろう。
中学生なんてまだまだ夢見がち。


赴任してから、そうして生徒達とは一定の距離。
けれど、もう少しだけ親しい子が居なかった訳でもない。
本の虫の中でも限られた少人数。
彼らを加えても良いかもしれない、そんな気になった。

「……小説をね、書いてるんです。」

それは内面を見せない軽海にとって、一種の告白。
カウンターにだけ通った静かな声で。


「えっ、凄ぇ!」
「マジですか……」

分かりやすく食い付く忠臣に、感心する青葉。
どちらも少なからず驚いているようだ。
そこまでは軽海の予想範囲内、寧ろそうでなければ可笑しい。

「とは言っても、ただの趣味なんですけど。」
「あー……、でも何となく解かる。」
「そうだね。軽海さん似合うと云うか、納得と云うか。」

二人とも呑み込むのは早かった。
吃驚しつつも、そこまで意外とは感じなかったのだろう。
何しろ此処は本に囲まれている場所だ。
また一つ新しい物語が生まれても、そう不思議でない。

「でも軽海さん、今って仕事中じゃ。」
「はい、だから内緒ですよ?」

唇に人差し指を立てて口止め。
代わりに何か要求してくる相手でもなし。
そうでもなければ、元から明かしたりなどしない。


「それって文芸部の部誌とかには載せないんデスか?」
「いえ、顔見知りに読まれるのは恥ずかしいので。」

手を振って否定すれば、忠臣は仕方なく肩を落とす。

本の虫としては気になるのだろう。
文字に飢えている訳でなくても、手の届く物は残さない主義。
味見すら駄目となれば余計に残念そうだった。

「僕からすれば、忠臣が文芸部じゃない事の方が意外だったけど。」
「何だよソレ?」
「あんなに本いっぱい読んでるのに。」
「読むのと書くのは別だろ、作文苦手なオレに対する嫌味デスか?」

忌々しげに睨まれても青葉は平然と。
軽海とはまた違う、慣れ切った様子で受け流すだけ。


べったりとしていなくても、彼らは本当に仲が良い。

「付き合っているのか」と口にしようとしては密かに呑み込んだ。
可愛らしい反応など得られないだろうし。
冗談にしたって愚問に尽きる。

羨ましいかと云えば、そうかもしれない。
軽海が望んだ結果だとしても、孤独なままでは時々寒くて。


「ところで軽海さん、書いてるジャンルだけでも教えてくれまセン?」
「友情とか恋愛……、ですかね?」

それだけ口にして、再びキーボードを打ち鳴らす。
此処から先は言えやしない。
軽海の好きな漫画、少女達の学園バトルアクション「鬼門クラブ」。
二次創作の百合小説だなんて。



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2015.04.16