林檎に牙を:全5種類
休日だと云うのに朝陽に叩き起こされて、拓真は寝床から這い出た。
昨夜のうちに回しておいた洗濯機に衣類が待っている。

量も少ないのですぐ終わったが洗濯物を干した手は冷えてしまう。
再び薄暗い寝室に戻ると、その指を頬に伸ばす。
自分ではなく、ブランケットの下で身体を丸めている遼二に。

流石に引っ張ったりはせず摘まむ程度。
機嫌を損ねたりしたら厄介だ。

「朝飯食うんだろ、そろそろパン焼けるぞ。」
「あぁ……、はい……」

寝起きの悪い遼二は美味い物でも無ければ目を覚まさない。
ベランダに出る前、セットしておいた食パンがそろそろ狐色になる。
少しくらい焦げても問題ない。
昨夜作り立てのマーマレードには合うだろう。

溜息に似た返事の後で細い手が伸ばされる。
畑から根菜を収穫する要領、拓真は寝坊助を引っ張り起こした。




「早未、目玉焼きは何かける?」
「今日は塩で良いです。」

スープを温めている間、隣のコンロでは卵が焼ける。
皿を取るついでに塩の瓶と醤油差しも。

二人で食卓を囲めば、味の好みが分かれる事もありがち。
拓真にとって目玉焼きは醤油が定番。
遼二の場合は気分次第、特に決まっていないので毎回訊ねる。
こうして朝を迎えるまで知らなかった事の一つ。

いつものコーヒーにしたって、ブラックとカフェオレ。
同じ物でもカップでそれぞれ違う味。

「パンはバターとマーマレードだけで良いんですよね?」

冷蔵庫を覗き込みながら、今度は遼二が問う。
綺麗なオレンジ色の小瓶を片手に。

今日のトーストだけはお揃い。

昨日パン屋に行っておいたのもマーマレードの為。
折角、自家製のジャムがあるのだ。
食が進まない朝だって、美味い物があれば一日が楽しみになる。


「ブラックにマーマレードって苦そうですね。」
「でも苦いのが美味いからな、どっちも。」

果実をたっぷりの砂糖で煮るジャムは甘ったるくなりがち。
苦味が混じるのはマーマレードくらいだろう。
市販の瓶詰では、オレンジのゼリーかと思うほど舌に蕩ける物もあるが。
それはあまり好みでなかった。

昨夜のマーマレードは成功。
オレンジの甘酸っぱさが適度な苦味で引き締まっている。

ジャムの使い道と云えばトーストだが、ケーキにも使えそうだ。
ロシアンティーにしても良いかもしれない。
ただ、コーヒーばかり飲んでいるので紅茶を切らしていたと思い出す。
一段落したら買い物にでも行こうか。


その前に、遼二にエンジンが掛からないと。
朝飯で腹が満ちたら目を覚ますと思っていたのに。

くたくたのパジャマ姿で遼二は黙々とトーストを齧る。
柔らかい髪は寝癖だらけ、噛み締めているのか眠いのか瞼を閉じて。
片腕を伸ばせば緩めの袖がカフェオレに浸りそうになる。
慌てて拓真がカップを避けて、難を逃れた始末。

不注意は此ればかりでないから困る。
片手の先はマーマレードの瓶、足すのは良いが少し多すぎた。
トーストを斜めにしたものだから零れてしまう。

ああ、まるで子供ではないか。

共にだらけている時なら多少の事は目を瞑るところ。
遼二より先に起きて、朝の家事を終わらせていた拓真は背筋が伸びていた。
そうなると放っておけず、つい世話を焼いてしまう。
苦笑しつつも点々と落ちたマーマレードを拭い、遼二の口許も。


けれど、子供と見ているのは拓真の方だけ。
甘い匂いに遼二が反応を示す。
粘着くオレンジごと、無骨な指を咥えた。

生温かい舌が口腔内で触れる。
むず痒い感覚に、拓真が密かに奥歯を噛んだ。

「甘い。」
「だろうな。」

引っ込めようとしても、前歯が軽く食い込んでいる。
そこまで痛い訳でなくても逃げられず。
よくやられる悪戯だ。
寝惚けも混ざっているようだし、解放を待っていると。


「……保志さん、僕に指舐められるの好きですよね。」

ふと拘束を解いで、遼二が一言突き付ける。
大人しくしていたら此れだ。
手を引っ込めるチャンスだったのに動けなかった。
それは正解の証のようで、気恥ずかしさが急に巡ってくる。

ある時は拳を振るい、ある時は甘い物を作る大きな指。
今は遼二のおしゃぶりとなって無力。



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2015.04.21